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「ミリ!部屋に居ないから探した!」
心配そうな顔をしたディクセル様は、そう言って駆け寄って来た。
待って。
今この人、なんて言った?
部屋に………居ない?
俺は自室なんて立派な物、今まで一度だって持ったことない。
誰かの部屋に入ったことも、一度だってない。
昨日までは。
でも昨日は誰かの部屋に居た。
俺とセックスをした、誰かの部屋に。
「へ………や………?」
一体、誰の部屋のことを言っているんだ?
どうして、ディクセル様が俺が誰かの部屋に居ることを知っているんだ?
嫌な予感が止まらない。
「朝食でも一緒に食べようと思って私が部屋を離れたから………寂しかったよな?」
しかし、ディクセル様が続けて言った言葉は、俺の嫌な予感を裏付けるモノだった。
朝食でも一緒に………部屋を離れた………。
それはつまり、俺が居たのはディクセル様の部屋。
俺がディクセル様に似た別人だと思い込んでいたのは、紛れもないディクセル様本人だったのだ!
なんて滑稽なことか!
そして俺は、その思い込みのままディクセル様のホムンクルスを造ろうとしている!
まずいまずいまずい!
「近寄るな!」
やらかしたことの大きさと罪深さに、そしてホムンクルスが壊されてしまうんじゃないかという恐怖に俺が思わず身体を震わせると、何を勘違いしたのか兄が俺を抱き締める力を強くしてディクセル様にそう叫んだ。
俺に向かってディクセル様が手を伸ばそうとしたけれど、兄の一喝で手が止まる。
しかし、その顔はみるみるうちに不機嫌そうな色に染まっていく。
「………どういう、つもりだ。」
「どうもこうもない!貴様、自分が何をしたのか分かっているのか!?」
ディクセル様の低い声に昨日の出来事を思い出して身体が勝手に震えだす。
最初の声が違うディクセル様とのやりとりは、俺が思っているよりも怖いことだったらしい。
そう認識するよりも早く、兄が俺を抱き締めながらディクセル様に吼えるように怒鳴った。
「分かっているに、決まってるだろう。だから………」
「お前な!あのクッキーの効果は分かっていただろう!?」
………やっぱり、あのクッキーが原因だったのか。
まぁ、アレ食べた後から変だったし、ディクセル様も劇薬云々って言ってたし。
そこは分かるけど、効果って何だろう?
ちょっと興味ある。ワクワク的な意味で。
「何故アレを丁稚が渡す前に処理をしなかった!何故そのまま手を出した!こんなの、強姦と変わらない!」
………いや、合意だったんです。
何ならホムンクルスの材料が手に入ってラッキーとまで思ってたんです。
しかしまぁ、もしも効果が所謂【媚薬】ってやつなら、傍から見たらその状態でのセックスは強姦………なのか?
でも俺もあんまり覚えてないけど誘ったし、寧ろ俺がディクセル様を強姦したのでは?
「………今更、兄貴面してんのか?遅いだろ。」
「そういう問題じゃない!話を逸らすな!」
俺を庇うような兄に、ディクセル様が苛立ったように舌打ちをする。
俺はバッチリと当事者なのに、普段と違うディクセル様にドキドキしてしまうのは我ながら呑気だなと思う。
ただ、今までと違う兄とディクセル様とセックスをしたという事実が同時に押し寄せて、脳がいっぱいいっぱいなんだ。
どうか許して欲しい。
「とにかく、本当に合意だったのかミリには俺が直接聞く。例え本当に合意だったとしても、カミラの件が片付くまで近寄るな。」
「何でお前にそんなことを言われなきゃいけない。」
「当たり前だろうが………!これ以上、この子を危険に晒す気か!?」
突然出て来た弟の名前に混乱する。
何でそこで弟が出て来るの?
てか俺って危険に晒されてたの?
分からないことがいっぱい出てきて、なんだかどんどん不安になって来る。
この言い合いも、いつ終わるのかな………
怒られるかもと思いつつも手持ち無沙汰で、俺は兄の背中をギュッと掴んだ。
「………分かった。カミラをどうにかすれば、ミリを俺にくれるんだな。」
「そんなことを約束するつもりはないし、あくまでも合意だったことが前提だ。」
暫く続く睨み合い………だったけど、先に動いたのはディクセル様だった。
すごく大きな舌打ちをしながら踵を返して、扉に向かう。
あ、寂しいなと思った。
単純な俺の心。
だから俺は、ディクセル様が去って行く所をいつも俯いて見ないようにしていたんだ。
不相応にも、引き止めたくなってしまうから。
「………ミリ。」
「ひゃい!」
そう思っている俺の心を見透かしたように、ディクセル様は出て行く直前で立ち止まり俺の名前を呼んで振り向いた。
その顔がすごく真剣で、ドキドキしてしまう。
………怒られるんじゃないか的な意味で。
「絶対に迎えに行くから、待ってて。」
しかし、ディクセル様は怒る訳じゃなくて、静かにそう言ってから部屋を出て行った。
どこか縋るような声色に聞こえたのは、俺の幻聴だろうか。
ゆっくりと閉まる扉を見詰めながら、またさっきとは違う意味でドキドキ跳ねる自分の心臓を感じた。
心配そうな顔をしたディクセル様は、そう言って駆け寄って来た。
待って。
今この人、なんて言った?
部屋に………居ない?
俺は自室なんて立派な物、今まで一度だって持ったことない。
誰かの部屋に入ったことも、一度だってない。
昨日までは。
でも昨日は誰かの部屋に居た。
俺とセックスをした、誰かの部屋に。
「へ………や………?」
一体、誰の部屋のことを言っているんだ?
どうして、ディクセル様が俺が誰かの部屋に居ることを知っているんだ?
嫌な予感が止まらない。
「朝食でも一緒に食べようと思って私が部屋を離れたから………寂しかったよな?」
しかし、ディクセル様が続けて言った言葉は、俺の嫌な予感を裏付けるモノだった。
朝食でも一緒に………部屋を離れた………。
それはつまり、俺が居たのはディクセル様の部屋。
俺がディクセル様に似た別人だと思い込んでいたのは、紛れもないディクセル様本人だったのだ!
なんて滑稽なことか!
そして俺は、その思い込みのままディクセル様のホムンクルスを造ろうとしている!
まずいまずいまずい!
「近寄るな!」
やらかしたことの大きさと罪深さに、そしてホムンクルスが壊されてしまうんじゃないかという恐怖に俺が思わず身体を震わせると、何を勘違いしたのか兄が俺を抱き締める力を強くしてディクセル様にそう叫んだ。
俺に向かってディクセル様が手を伸ばそうとしたけれど、兄の一喝で手が止まる。
しかし、その顔はみるみるうちに不機嫌そうな色に染まっていく。
「………どういう、つもりだ。」
「どうもこうもない!貴様、自分が何をしたのか分かっているのか!?」
ディクセル様の低い声に昨日の出来事を思い出して身体が勝手に震えだす。
最初の声が違うディクセル様とのやりとりは、俺が思っているよりも怖いことだったらしい。
そう認識するよりも早く、兄が俺を抱き締めながらディクセル様に吼えるように怒鳴った。
「分かっているに、決まってるだろう。だから………」
「お前な!あのクッキーの効果は分かっていただろう!?」
………やっぱり、あのクッキーが原因だったのか。
まぁ、アレ食べた後から変だったし、ディクセル様も劇薬云々って言ってたし。
そこは分かるけど、効果って何だろう?
ちょっと興味ある。ワクワク的な意味で。
「何故アレを丁稚が渡す前に処理をしなかった!何故そのまま手を出した!こんなの、強姦と変わらない!」
………いや、合意だったんです。
何ならホムンクルスの材料が手に入ってラッキーとまで思ってたんです。
しかしまぁ、もしも効果が所謂【媚薬】ってやつなら、傍から見たらその状態でのセックスは強姦………なのか?
でも俺もあんまり覚えてないけど誘ったし、寧ろ俺がディクセル様を強姦したのでは?
「………今更、兄貴面してんのか?遅いだろ。」
「そういう問題じゃない!話を逸らすな!」
俺を庇うような兄に、ディクセル様が苛立ったように舌打ちをする。
俺はバッチリと当事者なのに、普段と違うディクセル様にドキドキしてしまうのは我ながら呑気だなと思う。
ただ、今までと違う兄とディクセル様とセックスをしたという事実が同時に押し寄せて、脳がいっぱいいっぱいなんだ。
どうか許して欲しい。
「とにかく、本当に合意だったのかミリには俺が直接聞く。例え本当に合意だったとしても、カミラの件が片付くまで近寄るな。」
「何でお前にそんなことを言われなきゃいけない。」
「当たり前だろうが………!これ以上、この子を危険に晒す気か!?」
突然出て来た弟の名前に混乱する。
何でそこで弟が出て来るの?
てか俺って危険に晒されてたの?
分からないことがいっぱい出てきて、なんだかどんどん不安になって来る。
この言い合いも、いつ終わるのかな………
怒られるかもと思いつつも手持ち無沙汰で、俺は兄の背中をギュッと掴んだ。
「………分かった。カミラをどうにかすれば、ミリを俺にくれるんだな。」
「そんなことを約束するつもりはないし、あくまでも合意だったことが前提だ。」
暫く続く睨み合い………だったけど、先に動いたのはディクセル様だった。
すごく大きな舌打ちをしながら踵を返して、扉に向かう。
あ、寂しいなと思った。
単純な俺の心。
だから俺は、ディクセル様が去って行く所をいつも俯いて見ないようにしていたんだ。
不相応にも、引き止めたくなってしまうから。
「………ミリ。」
「ひゃい!」
そう思っている俺の心を見透かしたように、ディクセル様は出て行く直前で立ち止まり俺の名前を呼んで振り向いた。
その顔がすごく真剣で、ドキドキしてしまう。
………怒られるんじゃないか的な意味で。
「絶対に迎えに行くから、待ってて。」
しかし、ディクセル様は怒る訳じゃなくて、静かにそう言ってから部屋を出て行った。
どこか縋るような声色に聞こえたのは、俺の幻聴だろうか。
ゆっくりと閉まる扉を見詰めながら、またさっきとは違う意味でドキドキ跳ねる自分の心臓を感じた。
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