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金属の擦れるような音が聞こえて、覚束無い視線を必死に動かす。
誰か、居る。
だれ?
ぼんやりとした視界を音のする方に向ければ、
なんで、そこにいるの?

「     、どうして?」

どうして?と聞こうとして、何故か声が出なかった。
正確には、
身体が熱いのも治らないし、ビクビクと身体が震えるのも止まらない。
その上で声が出ないことが怖くなった俺に、ディクセル様が頬を撫でた。
ひんやりとして気持ちイイ。
もっと冷たいのが欲しくて頬を寄せながら、でも、と思う。

そう思った瞬間、掌が俺から離れると同時にガシャンッと大きな音が聞こえた。
何の音?
何が起きたか分からなくてぼんやりしていると、ギュッと抱き締められた。
視線を上げれば、そこに居たのはディクセル様。
でも、さっきよりも大きく感じるし、何より熱い。
さっきは冷たかったのに。

「何でお前が!」

が、そう怒鳴りつけてきた。
この声、聞いた事あるかもしれない。
だれだっけ?

「それは此方の台詞だ。ゴミに捨てたクッキーを、わざわざミリに渡して何をするつもりだった?」

低い声だけど、これはディクセル様の声だ。
でも何でディクセル様が二人居るんだろう………。
肩に触れられたディクセル様の掌が熱い。
でも、気持ちイイ。

「アレがどういう物か、知ってて食わせたんだろう………。」

唸るような声に、身体がいっぱい震える。
でも恐怖じゃない。
こわい訳じゃないのに、股間がじんわりと濡れて冷たい。
もらしちゃった?
はずかしいぃ………

「      ぁっ………」
「ミリ、もう少し我慢して。後で楽にしてあげるから。」

思わず縋るようにディクセル様にしがみつけば、そう言って額にキスをされた。
ディクセル様の声じゃないディクセル様は多分本物じゃないと思うけど、でも、俺を抱き締めてるディクセル様も本物じゃないみたいだ。
だってあの人は、こんな風に俺に触れたりはしない。

「ミリのような耐性もなければ相応の体力も無い人間にこんな劇薬を使って………死んだらどうするつもりだったんだ。」

げきやく………劇薬?
毒ってこと?
俺、毒食べたの?
ディクセル様と同じ声をした人の言葉に、恐ろしくなってしまった。

「嗚呼、大丈夫だよ、ミリ。怯えないで。」

ギュッと抱き締められて安心するけれど、一体この人は誰なんだろうかという疑問が湧いてくる。
ディクセル様にしか見えないけど、でも、それで言ったら今怒られてる人もディクセル様にしか見えない。
俺の目がおかしくなってることは分かる。
これも毒のせいなの?

「とっとと失せろ。」
「そこまで弄ぶ気か!所詮お遊びの分際で………ひぃっ!」

ディクセル様に声に似た人が、俺の目を掌で覆いながらそう言った。
何があったのか、音でしか分からない。
ただ、慌ただしく聞こえる足音で、もう一人のディクセル様が出て行ったのだけは分かった。

「      」

彼が誰かは分からないけど、口から出て来た言葉は音にならないディクセル様の名前だけ。
何か怖いことをもう一人からされそうになって、それをこの人が守ってくれたことだけは分かった。
だから名前を呼んでお礼を言いたいのに………。

「君の目には、一体誰が映っているんだろうな。」

悲しそうに笑いながらそう言うと、彼は俺を抱き上げた。
そうしてそのまま部屋を出たけど、一体どこに行くんだろうか?

「君の声が奪われたという事は、君には誰か惚れた相手が居るんだろうな。そして俺は、その相手として映っている。」

彼はブツブツと何かを呟きながら、また俺の視界を塞いだ。
掌が熱い。
忘れかけていた熱と快感と、あと股間のびしゃびしゃとした不快感が戻って来て身じろぎしてしまう。

「逃げないで。嗚呼、本当は、私を………俺を見て欲しかったのに。」

ぽすっとどこか柔らかい所に下ろされる。
戻って来た視界は、明るくて目が痛い程にチカチカする。

「悔しくて、仕方ないよ。」

それでも、彼の悲しそうな顔はハッキリと見えた。
ディクセル様にしか見えないけど、でもあの人はそんな表情しないだろうし、仮にしたとしても俺に見せることはないだろう。
どうしてディクセル様にしか見えないのかが分からないけど、そうなってしまったことでこの人をこんなにも悲しませてるというのならば、すごく申し訳ないなって思った。
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