上 下
8 / 78

6

しおりを挟む
ディクセル様が立ち去ったのを確認して、俺はひっそりと地下への扉を開けた。
地下の階段はけっこうな角度があるから、落ちて台無しにしたりしないように慎重に道具を運んで行く。

「………ふぅ」

音が立たないように置いて、一息を吐く。
結構な数があるから時間は掛かるけれど、頑張らなきゃ。
ディクセル様が手伝ってくださったおかげで、もう運び込むだけで済むのはありがたい。

ありがたいけど、もう来ないで欲しい。

ディクセル様が居ると地下に行けないし、俺は馬鹿だから勘違いを進ませてしまう。
さっきだって勘違いしてしまって凄く恥ずかしかったのに。
いや、勘違いしたのは俺が悪いんだけどさと思いながら首を横に振って、ゆっくりと振り返る。
地下室はそう広くはないが、狭くもない。

けれどもどこか圧迫感を与えるのは、部屋の隅に設置された大きな筒状の装置の所為だろう。

俺よりも背が高いそれは、地下室の三分の一を占領する程の大きさだ。
何をする装置なのかは知らない。
ただ、すごく大事な装置なんだろうという事は何となく分かっていたから毎日拭いていた。
兄だったら、この装置が何なのか分かるのだろうか?

「………ん?何か書いてある?」

ゴシゴシと強過ぎず弱過ぎずな力加減で装置を拭いていると、頑固だった埃がとうとう剥がれて下に書いてあった文字が見えた。
この装置の名前だろうか。
もっともっとキレイにすれば、兄が使う時にヒントになるかもしれない。
俺は真剣になって埃を拭った。

「ホムン………クルス………?」

出て来た文字に、心臓が高鳴る。
ホムンクルス。人造人間。
数多の錬金術師が挑戦しては敗れ去った、秘術中の秘術。
父も挑戦していたのか………。

「れ、レシピ………」

俺は別に錬金術師としての名誉なんて欲しくない。
今更、兄達に認めて欲しいとも思ってない。
それでもこの秘術に興味を抱いてしまったのは、だ。

父も兄も弟も、便
父と兄と弟だけが家族で、俺に家族は居ないのだ。

人造人間ホムンクルス
哀れで短命な、造られた命。
それは倫理に反した行為ではあるけれど、だからこそ、俺みたいに何も持っていないような奴には相応しいとも思った。
父が遺したレシピは書物に纏めてあって、俺は納屋から見つけ出す度にこっそり虫干しをして保管していた。
いつか、兄に渡す為だ。
錬金術師父親の遺産は、同じ路を志す家族息子が持つに相応しい。
この装置だってそうだ。

でも俺は、兄よりも先に使うことに決めた。

どうせ失敗するだろう。
そんなケチが付いた道具なんて、いくら綺麗にした所で兄だって使いたくない筈だ。
今まで兄は弟や父と違って暴力を奮わなかったけれど、今度こそ殴られるかもしれない。
それでも、俺はどうしても試してみたかった。

「あった………!」

幸か不幸か、レシピに記載された材料にあった数種類のハーブは近くに自生していたからすぐにでも集められる。
しかし、そうそうすぐに集められない材料が一つだけあった。
精液と血液だ。
最初に見た時は自分のを使えば良いと思ったが、使用する精液と血液はそれぞれ違う人間のモノではないといけないらしい。
困った………。
血液は毎日使用するモノだし、新鮮なやつじゃないとダメだから俺のを使う以外の選択肢はないが、そうなると問題は精液だ。
俺ではない人間の精液なんて、どうやって手に入れれば―――

『ミリ。』
「………っ!」

頭に浮かんできた人物ディクセル様に、俺は思いっきり首を横に振って振り払った。
そんなの、夢のまた夢だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

甥っ子と異世界に召喚された俺、元の世界へ戻るために奮闘してたら何故か王子に捕らわれました?

秋野 なずな
BL
ある日突然、甥っ子の蒼葉と異世界に召喚されてしまった冬斗。 蒼葉は精霊の愛し子であり、精霊を回復できる力があると告げられその力でこの国を助けて欲しいと頼まれる。しかし同時に役目を終えても元の世界には帰すことが出来ないと言われてしまう。 絶対に帰れる方法はあるはずだと協力を断り、せめて蒼葉だけでも元の世界に帰すための方法を探して孤軍奮闘するも、誰が敵で誰が味方かも分からない見知らぬ地で、1人の限界を感じていたときその手は差し出された 「僕と手を組まない?」 その手をとったことがすべての始まり。 気づいた頃にはもう、その手を離すことが出来なくなっていた。 王子×大学生 ――――――――― ※男性も妊娠できる世界となっています

純情将軍は第八王子を所望します

七瀬京
BL
隣国との戦で活躍した将軍・アーセールは、戦功の報償として(手違いで)第八王子・ルーウェを所望した。 かつて、アーセールはルーウェの言葉で救われており、ずっと、ルーウェの言葉を護符のようにして過ごしてきた。 一度、話がしたかっただけ……。 けれど、虐げられて育ったルーウェは、アーセールのことなど覚えて居らず、婚礼の夜、酷く怯えて居た……。 純情将軍×虐げられ王子の癒し愛

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

婚約破棄が始まる前に、割と早急にざまぁが始まって終わる話(番外編あり)

雷尾
BL
魅了ダメ。ゼッタイ。という小話。 悪役令息もちゃんと悪役らしいところは悪役しています多分。 ※番外編追加。前作の悪役があんまりにも気の毒だという人向け

【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。 イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。 父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。 イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。 カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。 そう、これは─── 浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。 □『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。 □全17話

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

処理中です...