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俺は知らなかったのだが、兄と弟は王宮に喚ばれているらしい。
とはいえ一年半後の話なのだが、それまでに兄や弟に何かしらの危害が加えられては大変だからと、王宮の騎士団の方が護衛という形で本宅の方に来ているらしい。
ならば殆ど兄達の傍に居るのだろうなと思ったのだが、何故かディクセル様は俺の納屋の片付けを頻繁に手伝ってくれた。
「実は私の場合は護衛任務と言う名の休暇なんだよ。帰省ついでにってね。」
一度俺が失礼を承知でお仕事はどうしたのかと聞けば、口の端だけを上げてニヒルに笑ってそう言った。
なんでも、すごく活躍出来たことがあってそのご褒美らしい。
だとしたら、ますます片付けなんて手伝ってる場合じゃないんじゃないだろうか。
ゆっくり身体を休めるべきでは?
「休ませてるよ?」
「働いてるのに?」
「うん。ミリと一緒に居るだけで、私は癒されるんだよ。」
そう言われたけど、未だに言われた言葉の意味は良く分からなかった。
誰かと一緒に居ることで癒されるのならば、愛らしい弟や美しい兄と共に過ごした方が百倍良いと思うから。
でもそう言えば、ディクセル様は静かに首を横に振った。
「オルフェは癒しとは程遠いし、カミラはその………うるさい………」
オルフェは兄、カミラは弟の名前だ。
確かに兄はプライドが高く癒しという訳ではなかったし、カミラは可愛らしい見た目をしているのだが………うるさい。
癇癪持ちで、気に食わないことがあるとキンキンとした声で喚き散らして暴力を奮う。
俺はもう慣れっこだったけれど、ディクセル様には辛いだろう。
「その点、ミリと一緒の時間はいつだって癒されるんだ。」
先程のいたずらっ子のような笑みとは打って変わって、ふわりとした笑顔を浮かべた。
ディクセル様は、いつもそんな顔をして俺を見る。
そんな目で見られる理由なんて、何もないのに。
「運ぶよ。」
「あ、でも………」
「良いから。私も役に立たせて。」
洗い終わったガラス容器が沢山入った籠を、ディクセル様は軽々と持ち上げる。
俺だったら顔を真っ赤にして必死に運んでいるというのに。
凄いなぁと思う。
俺も、鍛えてみようかな。
「何してるの?」
「あっ、えっと、俺も鍛えた方が良いのかなって………思って………」
力こぶを作りたくて腕を曲げて力を入れていた瞬間、外の干場に運び終わったディクセル様が戻って来たものだから恥ずかしくて仕方なかった。
調子に乗ってしまったと悔しさと羞恥で俯く俺の頬を、ディクセル様は優しく撫でてくれた。
「しなくて良いよ。私が、護るから。」
いつもそうだ。
彼は優しい。
俺みたいな奴にも優しいのだから、きっと皆に平等に優しいのだろう。
だって彼は騎士様なのだから。
勘違いしては、いけない。
この時にはもう、俺はそう自分自身に言い聞かせないといけない程にディクセル様を好きになっていた。
だって、仕方ないだろう?
こんな風に俺の近くに居て、俺に優しくしてくれた人は今まで誰も居なかった。
丁稚の人達は俺に優しいけど、雇い主である兄の機嫌を損ねられない。
だから精々出来るのは、俺にこっそりとご飯を押し付けることくらいだ。
それに、俺もディクセル様も男だ。
子を成せる訳じゃない。
ディクセル様は貴族ではないみたいだけど、お世継ぎは必須だろう。
まぁ、俺が女の子だったとしても、ディクセル様から選ばれないだろうけど。
俺は今まで、自分が寂しいと思ってなかった。
俺は今まで、自分が恥ずかしいと思ってなかった。
俺は今まで、自分の生き方が虚しいなんて思ってなかった。
でも今は、ディクセル様と会えなくなると思うと寂しい。
でも今は、こんなドブネズミみたいな生き方をしている自分が恥ずかしい。
でも今は、こんな生き方しか出来ない自分が虚しくて仕方なかった。
ディクセル様が居なくなった後、どうすれば良いんだろうか………。
とはいえ一年半後の話なのだが、それまでに兄や弟に何かしらの危害が加えられては大変だからと、王宮の騎士団の方が護衛という形で本宅の方に来ているらしい。
ならば殆ど兄達の傍に居るのだろうなと思ったのだが、何故かディクセル様は俺の納屋の片付けを頻繁に手伝ってくれた。
「実は私の場合は護衛任務と言う名の休暇なんだよ。帰省ついでにってね。」
一度俺が失礼を承知でお仕事はどうしたのかと聞けば、口の端だけを上げてニヒルに笑ってそう言った。
なんでも、すごく活躍出来たことがあってそのご褒美らしい。
だとしたら、ますます片付けなんて手伝ってる場合じゃないんじゃないだろうか。
ゆっくり身体を休めるべきでは?
「休ませてるよ?」
「働いてるのに?」
「うん。ミリと一緒に居るだけで、私は癒されるんだよ。」
そう言われたけど、未だに言われた言葉の意味は良く分からなかった。
誰かと一緒に居ることで癒されるのならば、愛らしい弟や美しい兄と共に過ごした方が百倍良いと思うから。
でもそう言えば、ディクセル様は静かに首を横に振った。
「オルフェは癒しとは程遠いし、カミラはその………うるさい………」
オルフェは兄、カミラは弟の名前だ。
確かに兄はプライドが高く癒しという訳ではなかったし、カミラは可愛らしい見た目をしているのだが………うるさい。
癇癪持ちで、気に食わないことがあるとキンキンとした声で喚き散らして暴力を奮う。
俺はもう慣れっこだったけれど、ディクセル様には辛いだろう。
「その点、ミリと一緒の時間はいつだって癒されるんだ。」
先程のいたずらっ子のような笑みとは打って変わって、ふわりとした笑顔を浮かべた。
ディクセル様は、いつもそんな顔をして俺を見る。
そんな目で見られる理由なんて、何もないのに。
「運ぶよ。」
「あ、でも………」
「良いから。私も役に立たせて。」
洗い終わったガラス容器が沢山入った籠を、ディクセル様は軽々と持ち上げる。
俺だったら顔を真っ赤にして必死に運んでいるというのに。
凄いなぁと思う。
俺も、鍛えてみようかな。
「何してるの?」
「あっ、えっと、俺も鍛えた方が良いのかなって………思って………」
力こぶを作りたくて腕を曲げて力を入れていた瞬間、外の干場に運び終わったディクセル様が戻って来たものだから恥ずかしくて仕方なかった。
調子に乗ってしまったと悔しさと羞恥で俯く俺の頬を、ディクセル様は優しく撫でてくれた。
「しなくて良いよ。私が、護るから。」
いつもそうだ。
彼は優しい。
俺みたいな奴にも優しいのだから、きっと皆に平等に優しいのだろう。
だって彼は騎士様なのだから。
勘違いしては、いけない。
この時にはもう、俺はそう自分自身に言い聞かせないといけない程にディクセル様を好きになっていた。
だって、仕方ないだろう?
こんな風に俺の近くに居て、俺に優しくしてくれた人は今まで誰も居なかった。
丁稚の人達は俺に優しいけど、雇い主である兄の機嫌を損ねられない。
だから精々出来るのは、俺にこっそりとご飯を押し付けることくらいだ。
それに、俺もディクセル様も男だ。
子を成せる訳じゃない。
ディクセル様は貴族ではないみたいだけど、お世継ぎは必須だろう。
まぁ、俺が女の子だったとしても、ディクセル様から選ばれないだろうけど。
俺は今まで、自分が寂しいと思ってなかった。
俺は今まで、自分が恥ずかしいと思ってなかった。
俺は今まで、自分の生き方が虚しいなんて思ってなかった。
でも今は、ディクセル様と会えなくなると思うと寂しい。
でも今は、こんなドブネズミみたいな生き方をしている自分が恥ずかしい。
でも今は、こんな生き方しか出来ない自分が虚しくて仕方なかった。
ディクセル様が居なくなった後、どうすれば良いんだろうか………。
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