上 下
13 / 20

13

しおりを挟む
嵐の前の静けさだと、高城も吉塚も思っていた。
アレからなんのアクションもない。
高城も警戒して吉塚には気取られないように盗聴器やカメラの類いを探してみたけれど、それすら無い。
しかしあんな目をしておきながら、お二人はお付き合い始めたのですねならストーカー辞めますだなんてなるとはどうしても思えなかったのだ。
実害が無い以上警察に動いてもらうことも出来なくて、高城も吉塚も悶々とした日々を過ごす事になった。

「諦めてくれたのかな。」

ベッドに寝そべる高城の身体に乗り上げて、ぺっとりと胸板に頬をつけながら吉塚はそう言った。
高城の心音が聞こえて落ち着く。
重くはないのだろうかと吉塚は思ったけれど、高城は寧ろ軽過ぎて心配しているくらいだ。
吉塚は食べるのが遅いし少食だ。
しかも肉よりも野菜の方が好きなので、年齢よりも摂取カロリーが低いことの方が高城の悩みだったりする。

「それはない。今日もめっちゃ睨まれたし。」

………そう、高城に対して睨んではくるのだ。
毎朝毎朝、飽きもせず掃除するフリをしては正門付近に立ち、高城と吉塚の姿が見えなくなるまであの不穏な目付きで睨む。
しかし、それ以上何をするということもない。
ただ憎々しげに高城を睨むだけ。
それはそれで気持ちが悪い。

「恋人がモテると大変だわ。」
「それは俺のセリフー。」

吉塚の髪を撫でながら溜息を吐く高城の鼻を、吉塚は軽く摘む。
高城と吉塚が付き合ったという話は噂話として瞬く間に広がり、その真偽を確かめに来た女子達に高城も吉塚も当たり前のように真実だと認めた。
しかしそんなの認めたくはない一部の女子達は当然のように吉塚に嫌がらせをしようとしたが、吉塚自身黙って受け入れるようなタイプの人間でもないし、そもそも高城のプライドに居る四人がそれを許しはしない。
日々水面下で繰り広げられる攻防に、恋人がおモテになると大変だなと思っているのはどちらかといえば吉塚の方であった。
暇潰しになるので嫌いではないのだが。

「それについてはごめんなさい。」
「いいよ。レオンが悪い訳じゃないし、今レオンが出てきたら拗らせるだけだし。」

本日も高城くんを脅したのかとか本当に好きなら真っ当な道にうんぬんと言われたが、そんなのは知らない。
吉塚が高城を好きだと思いそこで終わっているのならばそれは正論だろうが、他の誰でもない高城自身が吉塚のことを好きだと言い、吉塚をただのメスではなく恋人の位置に置いているのだから他人に文句言われる筋合いはないのだ。

「そもそも俺気にしてない。」
「だろうとは思ったけどね。無理してない?」
「してない。ウザくなったら言うかもしれないけど、今は平気。」

ふわりと一つ欠伸をしながら、吉塚は完全に高城を敷布団にしてしまう。
恋人特権だ。

「俺の恋人が男前過ぎて可愛い」
「なんだそれ。」

高城がへらへらと笑いながら言えば、吉塚も楽しそうに笑う。
この時間を手放したくはない。
ご機嫌な吉塚に腕を回しそのまま横に転がれば、吉塚にとってはちょっとしたアトラクションだったらしく声を上げて笑った。

男前で凶暴で、それでいて可愛い。俺だけのメス。

奪われてなるものかと、高城は唸りながら吉塚に深くキスをした。
吉塚に選ばれたのは自分だという確固たる自信はあるが、その理屈が分かるのはケモノである自分達だけだということを高城は理解している。
だからこそ、例え吉塚を貪っている最中でも警戒を怠ることはない。
喘ぎながら自分を呼ぶ吉塚の声だけが、高城にとっての癒しであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

友人とその恋人の浮気現場に遭遇した話

蜂蜜
BL
主人公は浮気される受の『友人』です。 終始彼の視点で話が進みます。 浮気攻×健気受(ただし、何回浮気されても好きだから離れられないと言う種類の『健気』では ありません)→受の友人である主人公総受になります。 ※誰とも関係はほぼ進展しません。 ※pixivにて公開している物と同内容です。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

罰ゲームから始まる不毛な恋とその結末

すもも
BL
学校一のイケメン王子こと向坂秀星は俺のことが好きらしい。なんでそう思うかって、現在進行形で告白されているからだ。 「柿谷のこと好きだから、付き合ってほしいんだけど」 そうか、向坂は俺のことが好きなのか。 なら俺も、向坂のことを好きになってみたいと思った。 外面のいい腹黒?美形×無表情口下手平凡←誠実で一途な年下 罰ゲームの告白を本気にした受けと、自分の気持ちに素直になれない攻めとの長く不毛な恋のお話です。 ハッピーエンドで最終的には溺愛になります。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト

春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。 クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。 夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。 2024.02.23〜02.27 イラスト:かもねさま

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

処理中です...