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学校では二人共いつも通りに過ごせた状態で警察署へと向かえた。
高城は常に颯太と昨日颯太を通じて連絡先を交換する事となった警察関係者、百瀬倫太郎とメッセージアプリでやり取りをしていたが、それをけして吉塚に悟られることなく普段通りに接していたし、そうする事で吉塚は一時的とは言え自分を狙うストーカーが居るという不快感を忘れることが出来た。
どうせ警察に行けば嫌でも話さなくてはならないのだから、それを不必要に思い出させなくても良いだろうというのが、高城の考えだ。

「待たせたな。」

警察署の受付のような場所で百瀬の名前を出せば、既に話が通っていたのか会議室のような場所へと通された。
言われる前にどうせ見せるんだしと証拠品である盗聴器やらカメラを広げていると、ややあって少し威圧を感じるような低い声が室内に響いた。

昨晩電話越しで聞いた声だ。

彼が百瀬倫太郎なのかと思い高城はスっと顔を上げて、そして青褪めた。
視線の先の百瀬も、高城の姿を見て明らかに動揺している。
まずい………予想外過ぎて、知らないフリが出来なかった。
二人共意図せず同じタイミングで吉塚に視線を移せば、案の定高城と百瀬の反応に怪訝の表情を浮かべている。

「二人共、知り合いなの?」

当然の質問だが、百瀬はここでそれを答えたくはなかったし、高城も吉塚には知られたくなかった。
しかし黙ってしまった二人に吉塚が不安そうに眉根を寄せていってしまう。
正義感は皆無だが情は人一倍な百瀬にとって弟のように可愛がっている吉塚の表情は辛いし、完全に吉塚に想いを寄せている高城にとってはそれ以上に辛い。

「「こ………ここから出たら話す。」」

結局、そんな約束を取り付けるしか二人の思考には残されてなかった。
それは高城にとって死刑宣告にも等しかったが………せめてこの騒動が終わるまでは傍に居させてくれればと願うばかりである。
兎に角この場ではこの話はこれで終いだ。
百瀬のそんな言葉を合図に本題である盗聴器やらカメラについて話をする。
仕掛けてあった場所や間取りながら細かく話していくと、予想以上に悪質だったのか百瀬の眉間はドンドン深くなっていった。

「話を聞く限り、その家政夫が怪しいとは思う。が………」
「証拠が無いですもんね………」

不法侵入を彼がしたという証拠も形跡もない。
【誰か】が確かに侵入を果たしているのだが、その【誰か】は分からず仕舞いだ。
念の為にと吉塚と高城が学校に行っている間に指紋を採取したらしいが、特に怪しい指紋は見当たらなかった。
照合のために指紋を採取されたものの、恐らくは吉塚と高城の指紋ばかりだろう。

「………指紋初めて採った!」
「ヨッシー、指紋は採取されない方が良いし、採取される機会なんて初めてもクソも一回きりだよ。」

指紋をスキャンした指紋採取用のスキャナーをキラキラとした目で見ながら感嘆の声を上げる吉塚に、高城は冷静にツッコミを入れる。
吉塚が楽しそうなのは何よりだが、自分のデータが警察に渡っているという事実に高城は落ち着かない。
悪い事をするつもりは全く無いし、吉塚を守る為だと分かっているのだが、高城は正直警察自体を信用していなかった。
目の前に居る百瀬も含めて。

「多分お前らのだけだと思うが、一応カメラや盗聴器やらの指紋も含めて照合しておく。………この後はどうする、帰るのか?」
「帰ります。何かご用ですか?」
「用って訳じゃないが、忠恒が心配していたからな。顔見せに行けそうなら行ってやれ。」

百瀬が居る以上出るであろう名前に、今度こそ高城は平然を装った。
吉塚は親戚のパートナーが警察関係者なのだと、昨日改めて説明してくれた。
その警察関係者が百瀬ならば、必然的にその【忠恒】が吉塚の親戚なのだろう。
時折様子を見に来ていたそうだが、丁度あのハウスキーパーが雇われたり高城が転がり込んできたりした時期に色々あり、その時間が取れなかったらしい。

「ハウスキーパーの奴もエントリーシート程度の調べしかしてなかったらしいからな、わりと凹んでんだ。」

許してやってくれと、百瀬は苦笑しながら吉塚と高城の頭をくしゃくしゃと撫でた。
許すも何も………と吉塚と高城は目を合わせて思う。
誰が誰に懸想して、それをどう暴走させるかなんて預言者でもない限り分からない話だ。

「今日は帰りますけど、気にしないで欲しいです。また改めて電話しますとお伝えください。」

ぺこりと礼儀正しく頭を下げて、吉塚は百瀬にそう言った。
気にしないでと言われても、気にするのが人の性だろうけれどもそれでもそこまで【彼】に迷惑をかけたい訳ではないのだ。
取り敢えず帰ったら電話しようと思いながら、吉塚はチラリと隣に居る高城を盗み見た。
ここではない所でなら話すと言ってくれたけれど、吉塚的は高城が言いたくないのならば聞きたくないとも思っている。
でもそれを口に出して伝えるのも、なんだか違う気がして。

「………レオン、帰ろう?」

結局何も思い付かなくて、吉塚は高城の名前を呼んで手を繋ぐだけに留めた。
それでも、たったそれだけでも。
高城には吉塚が離れて行かないんじゃないかと、そう信じられる程の温もりに感じた。

「うん、帰ろうか。」

吉塚の傍に帰って良いのだと、許された気がした。
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