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幸せになりたいだけなのに
幸せになってると、思いたかった
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―――俺に対してやったことと、同じことしてくれるよな。
昨夜、彼から言われた言葉がずっと頭の中をぐるぐると回ってる。
今からパートの面接なのに。
しっかりしないといけないのに。
そもそもどうやって相手の人と私を引き合わせるつもりなのだろうか。
久しぶりに身に纏ったリクルートスーツとビジネスバッグとは違った息苦しさが胸を締め付ける。
私は悪くない。
確かにアイツからあの人を奪ったようになってしまったけど、私はあの人を正気に戻してあげただけだ。
そして今回はまた人を不幸にしようとしているらしいアイツに思い知らせてやるんだと、言い訳しようと思ったら出来る。
でも、最近は本当にそれが正しいのか分からなくなってきていた。
だって、あの人はあの日からちっとも私を見てくれてない。
いつだって、あの人の心にはアイツばかりが居座っている。
冴えない、どこにでも居るようなカースト底辺の男なのに、どうしてアイツばかりが。
そんな憂鬱な気分のまま、面接先である会社に足を運ぶ。
このままパートに合格したら、そんな暇はないからって断れるかもしれない。
そんな淡い期待をある種の活力にしながら、気が付けば俯いていた視線を上げると―――
「………え?」
アイツが、居た。
どこにでも居るような顔だから、そっくりな別人の可能性もある。
正直隣に居る男も、よく似ていた。
それでも何故だろう。
私は間違いなくアイツ、諌山康介だと確信した。
なんでここに?
もしかして、ここに勤めてるの?
最悪なんだけど!
何が最悪って、諌山が居ることもそうだけど、ここに諌山が務めるってことは例の諌山の旦那?もここに居るってことでしょ?
しかも、あの人の取引担当ってことは当然その人は営業だから、もしも私が面接合格してパートになったら関わる可能性もある。
つまり、昨夜のあの人の言葉を、実行しないといけない状態になってしまった。
「すいません、銀山さん。部署違うのに手伝ってもらって。」
「いえいえ、俺も別件で用があったのでついでですよ。」
諌山はもう一人の陰キャっぽい地味な奴と話していて、私に気付かない。
それがすごく嫌だと思った。
私はずっとアンタに振り回されてるのに、アンタは何でそんな幸せそうなの?
そもそもアンタみたいな奴が結婚してるのがおかしくない?
ずっとずっとあの人のこと縛り付けてるクセに、自分は地味なクセにイケメンな旦那見付けて幸せになってるのとか。
「私は幸せじゃないのに?」
思わず呟いた言葉は、紛れもない本心だった。
王子様みたいに格好良い旦那が居る。
高校の頃から付き合って、順当に結婚して、子供だって二人居る。
同性婚なんてしてるアイツよりも、世間体はずっとずっと良いし誰がどう聞いても【絵に描いたような幸せな家庭】だ。
『せめて康介に似てる部分が一つでもあれば良かったのに。』
でも実際は違う。
あの人は子育てに協力はしてくれるけど愛情は持ってない。
あの人は子供達と一緒に眠ったことはないし、なんなら子供の寝顔を見ながらそう呟いたのを聞いたこともある。
子供が聞いたらどうするのと思ったけど、無意識に呟いたっぽかったから尚更腹立たしい。
私だけじゃない、子供達すら愛してないあの人の世界は、いつだってアイツだけ。
「………許さない。」
僻みだって分かってる。
自分が悪いんだって、本当は分かってる。
でもそれはきっとあの人をアイツから奪ったからだよね?
だから返してあげる。
私をいつまで経っても見てくれないあの人なんて、もう要らない。
だから貴方の幸せを、私に譲って?
昨夜、彼から言われた言葉がずっと頭の中をぐるぐると回ってる。
今からパートの面接なのに。
しっかりしないといけないのに。
そもそもどうやって相手の人と私を引き合わせるつもりなのだろうか。
久しぶりに身に纏ったリクルートスーツとビジネスバッグとは違った息苦しさが胸を締め付ける。
私は悪くない。
確かにアイツからあの人を奪ったようになってしまったけど、私はあの人を正気に戻してあげただけだ。
そして今回はまた人を不幸にしようとしているらしいアイツに思い知らせてやるんだと、言い訳しようと思ったら出来る。
でも、最近は本当にそれが正しいのか分からなくなってきていた。
だって、あの人はあの日からちっとも私を見てくれてない。
いつだって、あの人の心にはアイツばかりが居座っている。
冴えない、どこにでも居るようなカースト底辺の男なのに、どうしてアイツばかりが。
そんな憂鬱な気分のまま、面接先である会社に足を運ぶ。
このままパートに合格したら、そんな暇はないからって断れるかもしれない。
そんな淡い期待をある種の活力にしながら、気が付けば俯いていた視線を上げると―――
「………え?」
アイツが、居た。
どこにでも居るような顔だから、そっくりな別人の可能性もある。
正直隣に居る男も、よく似ていた。
それでも何故だろう。
私は間違いなくアイツ、諌山康介だと確信した。
なんでここに?
もしかして、ここに勤めてるの?
最悪なんだけど!
何が最悪って、諌山が居ることもそうだけど、ここに諌山が務めるってことは例の諌山の旦那?もここに居るってことでしょ?
しかも、あの人の取引担当ってことは当然その人は営業だから、もしも私が面接合格してパートになったら関わる可能性もある。
つまり、昨夜のあの人の言葉を、実行しないといけない状態になってしまった。
「すいません、銀山さん。部署違うのに手伝ってもらって。」
「いえいえ、俺も別件で用があったのでついでですよ。」
諌山はもう一人の陰キャっぽい地味な奴と話していて、私に気付かない。
それがすごく嫌だと思った。
私はずっとアンタに振り回されてるのに、アンタは何でそんな幸せそうなの?
そもそもアンタみたいな奴が結婚してるのがおかしくない?
ずっとずっとあの人のこと縛り付けてるクセに、自分は地味なクセにイケメンな旦那見付けて幸せになってるのとか。
「私は幸せじゃないのに?」
思わず呟いた言葉は、紛れもない本心だった。
王子様みたいに格好良い旦那が居る。
高校の頃から付き合って、順当に結婚して、子供だって二人居る。
同性婚なんてしてるアイツよりも、世間体はずっとずっと良いし誰がどう聞いても【絵に描いたような幸せな家庭】だ。
『せめて康介に似てる部分が一つでもあれば良かったのに。』
でも実際は違う。
あの人は子育てに協力はしてくれるけど愛情は持ってない。
あの人は子供達と一緒に眠ったことはないし、なんなら子供の寝顔を見ながらそう呟いたのを聞いたこともある。
子供が聞いたらどうするのと思ったけど、無意識に呟いたっぽかったから尚更腹立たしい。
私だけじゃない、子供達すら愛してないあの人の世界は、いつだってアイツだけ。
「………許さない。」
僻みだって分かってる。
自分が悪いんだって、本当は分かってる。
でもそれはきっとあの人をアイツから奪ったからだよね?
だから返してあげる。
私をいつまで経っても見てくれないあの人なんて、もう要らない。
だから貴方の幸せを、私に譲って?
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