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幸せになりたいだけなのに
幸せかと言われたら幸せではないのに
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学生の頃から燻っている後悔は、俺の胸に常に存在していた。
本当に好きだったんだ。
大好き過ぎてキスするのがいっぱいいっぱいで、でもやっぱりセックスにも興味があって。
徐々に徐々に、ヤりたいってことばかり考えてしまって、なかなかヤらせてくれないことに不満を持ち始めてしまった。
言い訳するなら、そんな時にうちの学校で一番可愛いって評判だった彼女にアプローチされて、正直良い気になってた。
結果的に彼女の処女で俺の童貞を捨てて、俺は大好きだった筈のあの子を捨てるという暴挙に出てしまった。
最低な男だと、自分でも分かってる。
『そっかぁ………なんか、ごめんね。ずっと苦しめてて。』
それなのに、あの子はそんな俺を責めてはくれなかった。
そっと一筋だけ涙を零して、それでも俺にそう言って謝罪した。
あの子は何にも悪くないのに。
悪いのは俺なのに。
ただただ二人して君を傷付けて、スパイスだなんて盛り上がって。
『今まで、ありがとうございました。』
お願いだから、ありがとうなんて言わないで。
俺を過去にしないで。
自分勝手な想いが、次から次に溢れて止まらない。
深々と頭を下げるあの子に、俺は自分の仕出かしたことの大きさを知った。
あの子の傍は、とても居心地が好かった。
俺のことをキチンと見てくれて、誰よりも俺に寄り添ってくれて。
そもそもあの子だって男の子なのに、当たり前みたいに受け身になってくれてようとしてくれてた。
身体に対する負担も大きいし、面倒だってかけてしまうのに。
多分きっと、誰よりも俺を愛してくれたのはあの子だけだったんだ。
あの子と別れてから、当たり前のように彼女と俺の間には冷めきった空気が流れた。
でも別れる訳にはいかなかった。
あの子を泣かせたのは俺と彼女なのに。
俺とはまた違った理由で、彼女も俺と別れようとはしなかった。
結婚もした、そして子供も産まれた。
でも俺はずっとずっと、あの子だけを想ってきた。
あの子だけを愛してきた。
子供は可愛い。
でも、それだけだ。
俺が欲しいのは、俺とあの子との間の子供だけ。
無理なのは分かってるけど、無理だからこそ、どんな子供だろうが【同じ】だった。
虚しい、泣きたい程に。
家に帰りたくない。
だってあの子が居ないから。
俺はそう思いながら毎日毎日仕事に打ち込んだ。
社内の評価は上がっていくけれど、昇進して給料だって上がっていくけれど、虚しさは消えない。
抱き締めたい、あの子を。
好きだって言って、もう一度チャンスを貰いたい。
恋人になって、パートナーになって、それから―――
「耀司くん、帰りスーパー寄りたい。」
「んー?じゃあ一回車取りに帰るか?」
スッと耳に入ってきた声に、俺は自然と俯いていた顔を上げた。
だって、この声は、愛しいあの子のもので。
俺は少しパニックを起こした思考で、声のした場所を見る。
俺と同じように信号待ちをしている集団。
その中で背を向けているから後ろ姿しか見えないけれど、それでも俺が焦がれて焦がれて仕方ない姿が見えた。
あの子だ。
間違いない!あの子だ!!
「んーん。そんなに買わないし、歩こうよ。」
「良いけど何買うんだ?」
誰も彼もがイヤホンをしていて、或いはスマホを見ていて気付かない。
だからこそ、まるで俺だけが見て、聞いているような錯覚を覚えてしまう。
隣に居る男に甘えるようなあの子の声を。
周りなんて何も気にすることないと言わんばかりに指を絡めて手を繋いでいる、二人の姿を。
なんで?
なんで?
ソイツ、誰?
「台所洗剤。今思い出したけど、残り少ないから夜使ったら切れそう。」
「じゃあドラッグストア行こうぜ。ついでにポップコーンとコーラ買いたい。」
「コーラはまだあるでしょー。大きいのこの間買ったじゃん。」
でも、幸せそうな会話。
もしかして、その男と付き合ってるのか?
一緒に住んでいるのか?
どうして?
俺はこんなにも愛し続けているのに………
「全部飲んだ。」
「飲んでないでしょ。後少し残ってるから、気が抜けちゃう前に飲もう?新しいのはそれから。」
「んー………」
子供のような甘えた言葉を言う男に、彼は視線を合わせるように横を向く。
その瞬間、俺が立っている位置からも彼の顔が横顔だけど見えるようになったんだが、男を見つめるその横顔のなんて幸せそうなことか………!
まるで子供を見守る母親のような、慈愛に満ちた表情。
愛しいという感情がありありと伝わる微笑みに、瞳に宿る熱。
「ねぇ、前の二人カップルかな?」
「ホモキモって思ったけど、めっちゃ可愛いじゃん。」
俺の横に居た女子高生達が、クスクスと笑っている声が聞こえる。
馬鹿にしているような笑いではなく、微笑ましそうな笑い。
どう考えたって優しい彼にあんな男は合わないのに、どうしてそんな【似合い】だと言わんばかりの反応をするんだ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ!
本当は分かっていた。
彼にとって、俺は所詮【過去の男】になっているんだろうと。
あんなにも素敵な子だから、新しい男だって居るだろうって分かってた。
でも、それがあんな子供のような男だなんて思わなかった。
あんな男が相手なら、俺でも良いじゃないか!
「じゃあ残ってるコーラちゃんと飲むからアイス買って。」
「え?別にいいけど、どこから出てきたのそのアイス。」
ひっそりと二人の会話を聞いていたらしいサラリーマンが思わず噴き出したようだが、咳き込んだフリで無理矢理誤魔化している。
けれどもそんな周りの様子に気付いた様子はなく、二人は二人だけの会話を続けている。
やがて信号が変わり二人は一斉に歩き出す周りと同じように歩き出したけれど、しっかりとその手は繋がれたままで。
ショックから足が鈍る俺を置き去りに、二人は幸せそうな会話をしながら雑踏の中に消えていく。
俺だって、君と幸せになりたかったのに。
本当に好きだったんだ。
大好き過ぎてキスするのがいっぱいいっぱいで、でもやっぱりセックスにも興味があって。
徐々に徐々に、ヤりたいってことばかり考えてしまって、なかなかヤらせてくれないことに不満を持ち始めてしまった。
言い訳するなら、そんな時にうちの学校で一番可愛いって評判だった彼女にアプローチされて、正直良い気になってた。
結果的に彼女の処女で俺の童貞を捨てて、俺は大好きだった筈のあの子を捨てるという暴挙に出てしまった。
最低な男だと、自分でも分かってる。
『そっかぁ………なんか、ごめんね。ずっと苦しめてて。』
それなのに、あの子はそんな俺を責めてはくれなかった。
そっと一筋だけ涙を零して、それでも俺にそう言って謝罪した。
あの子は何にも悪くないのに。
悪いのは俺なのに。
ただただ二人して君を傷付けて、スパイスだなんて盛り上がって。
『今まで、ありがとうございました。』
お願いだから、ありがとうなんて言わないで。
俺を過去にしないで。
自分勝手な想いが、次から次に溢れて止まらない。
深々と頭を下げるあの子に、俺は自分の仕出かしたことの大きさを知った。
あの子の傍は、とても居心地が好かった。
俺のことをキチンと見てくれて、誰よりも俺に寄り添ってくれて。
そもそもあの子だって男の子なのに、当たり前みたいに受け身になってくれてようとしてくれてた。
身体に対する負担も大きいし、面倒だってかけてしまうのに。
多分きっと、誰よりも俺を愛してくれたのはあの子だけだったんだ。
あの子と別れてから、当たり前のように彼女と俺の間には冷めきった空気が流れた。
でも別れる訳にはいかなかった。
あの子を泣かせたのは俺と彼女なのに。
俺とはまた違った理由で、彼女も俺と別れようとはしなかった。
結婚もした、そして子供も産まれた。
でも俺はずっとずっと、あの子だけを想ってきた。
あの子だけを愛してきた。
子供は可愛い。
でも、それだけだ。
俺が欲しいのは、俺とあの子との間の子供だけ。
無理なのは分かってるけど、無理だからこそ、どんな子供だろうが【同じ】だった。
虚しい、泣きたい程に。
家に帰りたくない。
だってあの子が居ないから。
俺はそう思いながら毎日毎日仕事に打ち込んだ。
社内の評価は上がっていくけれど、昇進して給料だって上がっていくけれど、虚しさは消えない。
抱き締めたい、あの子を。
好きだって言って、もう一度チャンスを貰いたい。
恋人になって、パートナーになって、それから―――
「耀司くん、帰りスーパー寄りたい。」
「んー?じゃあ一回車取りに帰るか?」
スッと耳に入ってきた声に、俺は自然と俯いていた顔を上げた。
だって、この声は、愛しいあの子のもので。
俺は少しパニックを起こした思考で、声のした場所を見る。
俺と同じように信号待ちをしている集団。
その中で背を向けているから後ろ姿しか見えないけれど、それでも俺が焦がれて焦がれて仕方ない姿が見えた。
あの子だ。
間違いない!あの子だ!!
「んーん。そんなに買わないし、歩こうよ。」
「良いけど何買うんだ?」
誰も彼もがイヤホンをしていて、或いはスマホを見ていて気付かない。
だからこそ、まるで俺だけが見て、聞いているような錯覚を覚えてしまう。
隣に居る男に甘えるようなあの子の声を。
周りなんて何も気にすることないと言わんばかりに指を絡めて手を繋いでいる、二人の姿を。
なんで?
なんで?
ソイツ、誰?
「台所洗剤。今思い出したけど、残り少ないから夜使ったら切れそう。」
「じゃあドラッグストア行こうぜ。ついでにポップコーンとコーラ買いたい。」
「コーラはまだあるでしょー。大きいのこの間買ったじゃん。」
でも、幸せそうな会話。
もしかして、その男と付き合ってるのか?
一緒に住んでいるのか?
どうして?
俺はこんなにも愛し続けているのに………
「全部飲んだ。」
「飲んでないでしょ。後少し残ってるから、気が抜けちゃう前に飲もう?新しいのはそれから。」
「んー………」
子供のような甘えた言葉を言う男に、彼は視線を合わせるように横を向く。
その瞬間、俺が立っている位置からも彼の顔が横顔だけど見えるようになったんだが、男を見つめるその横顔のなんて幸せそうなことか………!
まるで子供を見守る母親のような、慈愛に満ちた表情。
愛しいという感情がありありと伝わる微笑みに、瞳に宿る熱。
「ねぇ、前の二人カップルかな?」
「ホモキモって思ったけど、めっちゃ可愛いじゃん。」
俺の横に居た女子高生達が、クスクスと笑っている声が聞こえる。
馬鹿にしているような笑いではなく、微笑ましそうな笑い。
どう考えたって優しい彼にあんな男は合わないのに、どうしてそんな【似合い】だと言わんばかりの反応をするんだ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ!
本当は分かっていた。
彼にとって、俺は所詮【過去の男】になっているんだろうと。
あんなにも素敵な子だから、新しい男だって居るだろうって分かってた。
でも、それがあんな子供のような男だなんて思わなかった。
あんな男が相手なら、俺でも良いじゃないか!
「じゃあ残ってるコーラちゃんと飲むからアイス買って。」
「え?別にいいけど、どこから出てきたのそのアイス。」
ひっそりと二人の会話を聞いていたらしいサラリーマンが思わず噴き出したようだが、咳き込んだフリで無理矢理誤魔化している。
けれどもそんな周りの様子に気付いた様子はなく、二人は二人だけの会話を続けている。
やがて信号が変わり二人は一斉に歩き出す周りと同じように歩き出したけれど、しっかりとその手は繋がれたままで。
ショックから足が鈍る俺を置き去りに、二人は幸せそうな会話をしながら雑踏の中に消えていく。
俺だって、君と幸せになりたかったのに。
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