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愛していると泣き叫ぶ獣

じゃ、帰るか

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結局、荷造りは俺の鞄に康介の貴重品を突っ込むだけで終わった。
見送りというだけの体で外に出る康介が荷物を持っているのはおかしいだろうから、取り敢えず手ぶらで出て誤魔化す為だ。
一か八か。
下手すれば俺も康介も怪我するかもしれねぇ。
そこまでゴリラじゃねぇとは思いたいが、でも康介が怪我したらしたでそれ言い訳に病院駆け込めるねなんて呑気に笑うもんだから、もういっそそれでも良いかと思った。
勿論、康介に絶対怪我を負わせるつもりはないが。

「じゃ、帰るか。」
「うん。お見送り位はするよ。置いたままの荷物もあるし。」

声を張り上げた訳じゃない。
わざとらしかったり、白々しかったら逆効果だからだ。
それでもドアのすぐそこに居る秋元に聞こえるような音量で、俺達はそう会話をして繋いでいた手を離した。
そうして閉じたままだったドアをゆっくりと開ける。
そこには案の定、狭い廊下の手すりにもたれかかる秋元が居た。

「………康介が見送る必要無いだろう?」
「どうして?僕の招いたお客様だよ。彼の車に僕の荷物だってある。」

恐怖からか震えた声で、秋元の言葉に康介が反論する。
大丈夫だと慰めてやりたいが、グッと耐える。
兎に角二人で駐車場に行くまでは康介に頑張ってもらわないといけないし、俺はそれを見守るしかできない。
不甲斐ねえよな………

「俺が取って来るよ。」
「僕の荷物なのに?やめてよ、僕、自分の荷物人に触られるの嫌いなんだ。」

初耳案件だが?
まあ、多分口からでまかせだろうけど。
………でまかせだよな。
俺結構康介の荷物触ったり勝手に運んだりしてるぞ。

「ここで待ってて。すぐ戻るから。何かあったら呼ぶし、良いでしょう?」

しかし康介はまっすぐと秋元を見つめてそう言い、俺の背中を押してその場から離れようとする。
ゾッとする程の冷たい視線が俺と康介を見つめたが、唇を噛み締めて耐えた。
今はまだ、これだけ。

「………分かった。」

明らかに納得していないような声色で、秋元はそう言って不快そうに眉根を寄せた。
お前がする表情じゃないだろう、それ。
そう思いながら二人でアパートの階段をゆっくりと降りる。
少し後ろを歩かれるとつい癖で手を繋いでしまいそうになるが、そこは意識して我慢。
頑張れ、俺。

「ほら、勝手に探せ。」

念の為ぶっきらぼうにそう言ってロックを解除し、後部座席を開ける。
探すふりをして後部座席に入る康介を脇目に見ながら、不自然にならないように運転席へと乗り込む。
気付くな。
気付くな、まだ。

「良いよ!出して!」
「………っ!お前っ!」

気付いて走って来る秋元よりも一瞬早く、後部座席を閉めた康介の合図で発進する。
取り敢えずは発進直後の事故にだけ気を付けて。
アイツもアイツで車乗ってるだろうから、このまま俺ん家に直行は少し危険だと思う。
尾行されて家の場所分かられちゃ意味がねぇ。

「………追って来てるか?」
「分かんない。多分、まだ大丈夫だと思うけど。」

バックミラーで一応確認してみるが、確かに今の所後ろを走る車は無い。
漸く深呼吸出来る気がするが、まだ油断はしたくない。

「………康介、取り敢えず一旦コンビニ寄って良いか?」
「良いけど、どうしたの?」
「ちょっと人に連絡する。」

明日外堀埋めるにしても、味方は多い方が良い。
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