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ゆうくんは俺の王子様!

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ゆうくんに会いたくて会いたくて仕方なかったけど、今日はゆうくんはあの場所に居ない日だと思い出してしょんぼりとしてしまう。
どうしようかな。
ゆうくんの家に行っちゃう?
でも流石に家主が居ない時にお邪魔するのは失礼だよね。
取り敢えず一か八かで実家に行ってみるかーと、久しぶりに実家の方へ足を運ぶ。
入れたらラッキー、入れなかったらその時だ。

「………ん?アレ?」

そう思いながら足を運んでいると、実家の前に見たこともない黒塗りの車が三台ほど停まっていた。
入口にはスーツを着たイカつい男二人。
お客さんだろうか。
それなら立ち去ろう。
残念残念、と思ったんだけど何故だろう。
俺はこの状態のあの中に、入らなくていけないような気がして―――

「あの………」
「ああ?あ、お前。」

恐る恐る玄関に居る内の一人に話し掛けてみたら、何故かめちゃくちゃ驚いたような顔をされた。
もう一人の方も慌てた様子だ。
しかも何か、俺のこと知ってて慌ててるっぽいんだけど………うん、誰?

「あの、そこ一応俺も家人で………入って良いですか?」
「はぁ?えっ?マジか………ちょ、ちょっと待て!オイ、兄貴に伝えて来い!」
「は、はいぃぃ!」

どう見ても堅気ではない雰囲気の二人に意を決してそう主張してみれば、驚いた顔をしていた人が慌てていた人に指示を飛ばして、その慌てていた人が家の中へと入って行った。
土足じゃん。
別にいいけど。

「………あの、どうぞ!」
「アッハイ………ドウモ………」

………かと思えばめちゃくちゃバタバタと足音を立てながらそう言って扉を開けてくれたので、遠慮なく中へと入って行く。
つか玄関とか久しぶりに入ったな。
いっつも勝手口とか窓からだったしなーと思いながら靴を脱ぐと、何故かさっきの人にリビングへと通される。
あれ?君の家だった?
俺もしかして入る家間違えた?

「お連れしやした!兄貴!」

ちょっとビビりながらリビングに行くと………何この地獄絵図。
血塗れでぐったりとした父親と、その傍らで顔を殴られている兄。
母と妹はブルブルと震えて抱き合いながら、部屋の隅に居た。
えぇ………修羅場?
俺も殴られる感じ?
やっぱり帰るべきだったかーと思いながら視線を上げて―――

「ゆうくん!?」

きれいさっぱりになってるツヤツヤでオールバックにまとめられた髪だけど、垢なんて無さそうな健康的に焼けた肌だけど、なんなら無精髭が無いけど!
それでもそれでも、ぐったりとしている父親をソファに腰掛けながら足蹴にしている人物は間違いない。
俺の王子様だ!

「おう。やっぱり分かったか。」
「なんでなんで!?えっ、ゆうくんが臭くない!」
「大分失礼だなお前………まぁ良い、おいで。」

ゆうくんが腕を広げる。
今日一番会いたかった人。
俺の愛した人。
でも綺麗なゆうくんはちょっと違和感。
やっぱりワイルド系イケメンだったのね、好きって思うけど超違和感。
でも好き、行っちゃう。

「ゆうくん!」
「いつもより時間掛けて来たな。小綺麗な俺は嫌か?」
「うーん………違和感。」

ゆうくんは嘘が嫌いな人なので、正直に言う。
この修羅場、この状況。
多分ゆうくんはヤクザ的な人で、その中でも偉い人なんだろうなっていうのは分かる。
失礼過ぎるから俺殺されるだろうなって思うけど、どうせ殺されるならゆうくんに殺されたい。
なんなら一発犯されてから殺されたい。
あ、勿論ゆうくんにね。

「違和感はあるけど好き。ねぇ、ゆうくんヤクザさん?なんでホームレスしてたの?」
「あ?趣味だ趣味」

未だに父親を足蹴にしているゆうくんの足に対面で乗っかって、ついでに俺の大好きなぶっとい首筋に腕を回す。
どんな趣味だよと思いながら兄を殴っていた人をチラ見すれば、困ったような顔で首を横に振られた。
どうやら彼らにも理解出来ない趣味らしい。

「人間観察の一環だ。落ちた人間に対して、一番本性が出るだろ。」
「なるほどー。でも俺結構ゆうくんと会ってたけど、ヤクザって暇じゃないでしょ?大丈夫なの?」

俺はホームレスのゆうくんしか知らない。
このヤクザさんの名前もよく知らない人のことは本当に知らないんだけど、でも多分偉い人だろうからマジで暇なんてなかった筈だ。
でも俺と会うゆうくんはいつも臭くて汚かった。

「………それなんだがな、そろそろクソみてぇなこと辞めろと親父に怒られてな。」
「そりゃそうだ。」

誰だって言う。
ホームレスのゆうくんにベタ惚れな俺だって、第三者の立場なら言うよ。
ホームレスごっことか難易度高すぎるわ。

「誤魔化し誤魔化しやってたがとうとう怒鳴られてな。そもそもホームレスの分際で嫁拵えるな、それならホームレスなんざ辞めて連れて来いって言われちまって………」
「え?ゆうくんお嫁さん居るの!?」

やっぱり俺はゆうくんのお姫様になれないんだ………。
泣くのはウザいだろうからグッと耐えてみるけど、悲しくてじんわりと視界が滲んでしまう。
でも当たり前な話だ。
ヤクザの偉い人になれるくらいにはゆうくんは頭が良くて強いんだろう。
その上こんなにも格好良いってなると、誰もが放ってはおかない。
当たり前なこと………なんで気付かなかったんだろう………

「大翔が嫁になるんじゃねぇのか。」
「………え?」
「俺はそのつもりだが?」

グッと握りしめてしまった俺の掌を、ゆうくんは優しく解きながらそう言った。
え?
てか今なんて言った?
今ゆうくん、俺にとってめちゃくちゃ都合のいいこと言わなかったか?

「だって、ゆうくんこの間………もっと好きにならなきゃダメだって………」
「当たり前だろ。お前あの時に俺が手に入ってたらホームレスじゃねぇって分かった時点で『じゃあホームレスじゃないゆうくんは要らない』って言ってただろうが」

そんな筈ない!
………とは、言えない自分が情けない。
正直あの日までは俺はまだゆうちゃんに無意識に甘えていたから、ホームレスじゃなくてこんなにもマトモで綺麗なゆうくんを見たら気が引けて身を引いたかもしれない。
かもしれないってか絶対引いてた。

「で?ホームレスでも何でもねぇ、相模雄大(サガミユウダイ)の嫁になってくれるか?」
「………うん!なる!ゆうくんのお嫁さんになる!」

ギュッとゆうくんに抱き着いて、甘えるように俺からゆうくんの唇を舐める。
そうすればゆうくんは嬉しそうに目を細めて、いつものように俺の唇を貪ってくれた。
誰かの小さな悲鳴が聞こえる。
そう言えば、一応俺の家族に当たる人達がこの場に全員集合してたなと思い出した。

「ゆうくん………ゆうくん………」
「んー?」
「ね、そういえばなんでここに居るの?」

キスの合間に強請るように聞いてみるけど、ゆうくんが唇を離してくれなくて答えれないようなことなんだろうか、それ程のことをこの中の誰か………恐らく一番傷が深い父親がやらかしたのかと不安になる。

「………僭越ながら俺が説明致します。コイツらは俺らの事務所で金を借りておきながら今日夜逃げしようとしましてね。」

ふーん、夜逃げねぇ。
俺の唇に、鼻に、瞼に。
音を立てながら降ってくるゆうくんのキスを受け止めながら、兄を殴っていた人の話を聞く。
ごめんなさい、全然話聞く体制になってなくて。
相槌すらできてないけど、ちゃんと聞いてます。

「元々そういう気配はあったんで、見張ってた訳ですが案の定。まぁ夜逃げする金があるということは多少なりとも回収出来るだろうと踏み込んだ次第なのですが………」
「まさかお前が帰ってくるとはな。どうしたんだ。」

漸くゆうくんの唇の雨が止んで一息。
でももう俺自身もトロトロになっちゃって話を理解するのに少しだけ時間がかかってしまう。
えっと、なんで、って………

「ゆうくんに、謝ろうと思って………」
「なにを?」
「転校生に言われてゆうちゃんにバイバイしたんだけど、ウザくてゆうくんに俺ウザがられたんじゃないかって思って………」
「待て待て。落ち着いて一から話せ。」

回らない頭のまま一生懸命話そうとしたけど通じなかったので、何度か深呼吸して頭を落ち着かせる。
5分程時間をかけてなんとか頭を落ち着かせた後、今日の出来事を全部話した。
ゆうちゃんとバイバイしたこと。
泣き喚く長谷川くん見て鬱陶しかったこと。
でも俺って似たようなことゆうくんにしたよなって思ったら怖くなったこと。

「………ああ、なるほどな。ありゃ股間にキたから全然ウザくもなんともねぇよ。謝んな。」

そう言ってゆうくんに撫でてもらえてホッとする。
良かった、ゆうくんに嫌われてなかった………。
ゆうくんに嫌われたら文字通り生きていけないので、とっとと死に場所を探すところだった。
ヤクザさんなら良い死に場所しってるかな?

「兄貴、コイツらどうします?」

話が落ち着いたと判断したのか、さっき情報説明をしてくれた人が淡々とゆうくんにそう聞いた。
そうだ、ゆうくんお仕事中だった………俺めちゃくちゃ邪魔してるじゃん。申し訳ない………。

「大翔、お前はどうしたい?」
「へ?俺?」
「ああ。お前が半分ホームレスみてぇな生活したり、同級生からパパ活みてぇなことさせられたり………全部そもそもコイツらがお前を冷遇したことが切欠だぞ?」

まぁ確かにそうかもしれない。
親の愛、なんてものは与えられてなかった。
精々この高校生活までのお金くらいだろうか?
でも入学金以降は自分で賄えと言われていたので、俺は中学の頃に新聞配達のバイトで貯めていた分を何とか切り崩しつつ、高校に入ってからもバイトしてなんとかやっていた。
それでももうすぐ底を尽きそうで、いっそ辞めようかと考えていたくらいだ。
でも、否、だからこそ―――

「どうでもいい。別に好きでもないし嫌いでもないから、どうなろうとも何とも思わないよ。恨む程関わってないし。」

ゆうくんに嫌われたらガチで生きていけないけど、後はホントどうでもいい。
そもそも口にも出したけど、恨み辛みを抱く程関わってないし。

「俺って寧ろ恵まれて方だと思うよ?暴力は無いし、なんとか生きてるし、ゆうくんにも会えたし。」

そう!そこ大事!
そもそも俺はこうも冷遇されてなければ雨風を凌ぐ場所を探そうとあの公園に行かなかったし、そうなるとゆうくんは絶対会えなかった!
だから俺は恵まれてるんだよ。

「だからゆうくんが、ゆうくん達の中で適正だと判断した方法で処理して。」

つまり、お仕事に私情を挟むのはどうかと思うって意味よ。
ゆうくんが怒ってるのも何となくわかる。
それが夜逃げしようとしたってことだけじゃなくて、明らかに俺を置いて行くつもりだったこととか、後は今までの俺への仕打ちに対してだということも十分わかる!
でもそれとこれとは話が別。

「………やっぱり最高だな、俺の嫁さんは。」

ゆうくんはニヤリと楽しそうに笑うと父親を蹴り飛ばし、楽しそうに俺を横抱きにして立ち上がった!
びっくりした………いきなりだったからめちゃくちゃびっくした………

「いつもの通り遊んでろ。俺は一足先に帰る。」

ゆうくんの言葉に、皆楽しそうに返事をする。
絶望の表情を浮かべる母と妹と目が合ったけれど、そもそも自分達が仕出かしたことなので俺は知らない。
それよりもゆうくんからお姫様抱っこされてちんこフルおっき状態でめちゃくちゃキツい。
もしかしてゆうくんとエッチ出来る?
嬉しい、けど………

「先に戻るぞ。出せ。」
「ゆうくん、ゆうくん」
「ん?」
「俺初夜は最低でも三日は風呂入ってないゆうくんと迎えたい。」

俺をお姫様抱っこしたまま車に乗り込んだゆうくんに、俺は溢れんばかりの愛情を込めてそう伝えた。
途端に何故か空気が凍ったけれど、仕方ない。
チンカスだらけのゆうくんのちんぽを俺の口で綺麗にしたいし、体臭の濃いゆうくんに種付けプレスされながら結腸イジメて欲しいんだもん。

「ね?お願い!」
「可愛言い方でエグい要望言ってんじゃねぇぞ。してやるけども。」
「やったぁ!」

やっぱり俺は恵まれている。
俺は可愛くもないし才能は無いし、性格が良い訳じゃない。
寧ろ悪いやつだし相当なビッチだ思う。
それでも俺は手に入れてしまったのだ。
めでたしめでたしで終わる、最高の物語を。
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