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「私は違うよ?」

中学三年生のある昼休み、進学先の高校について三人で話していた時にあの子は至極当然と言った感じでそう言った。
場所は俺とあの子が居るクラス。
昼休みの度に、幼馴染は俺らのクラスに来てあの子とご飯を食べていたから堂々と三人で居れる、貴重な時間。
いつものように雑談していた時にあの子がそういうものだから、しれっと盗み聞きをしていたのだろうクラス全員が固まった。
勿論、俺も幼馴染も。
だって悔しいがあの子と幼馴染はずっとセットみたいな、コンビみたいな扱いだった。
だから皆誰しも幼馴染とあの子は同じ高校に進学するのだろうと思っていた。
だから俺も幼馴染と同じ進学先を選んだのに………

「は?なんで?」
 
真っ先に我に返り、言葉を発したのは幼馴染だった。
余程衝撃だったのだろう、声は少し震えていた。
しかしあの子はそんな幼馴染を一瞥すると、うーんと少し唸ってから弁当の唐揚げを口に放り込んだ。

「何でもクソも、圧倒的偏差値の違いよ。普通に考えて。」

それはそうだと、納得してしまう。
幼馴染は元々学年トップの成績だし、俺もあの子に幼馴染の駒として認められるようにかなり努力して上位の成績を修めている。
だがあの子は中間の成績だ。
良くもないし悪くもない。
だが成績にムラがある。
そんな普通の中学生。

「私立に行く経済力も我が家には無いし、公立は目指すけどね。引越しもあるし。」
「ひ、引越し!?」

これまた納得どころか説得しようのない理由を言われると同時に、全然納得も理解もできない理由を告げられた。
引越しってなんの事だ?
そんな話、今まで一回も聞いたことない。
幼馴染ならば聞いていたのかとチラリと見れば、一体意味が分からないという顔をしていた。
つまり、幼馴染にすらあの子は引越しの詳細を告げていなかったらしい。

「うん。急だけど、お父さんが県外に転勤になっちゃって………単身赴任は寂しーって言うから仕方ないなぁって皆で着いて行くことにしたの。私も高校受験の時期で環境も変えやすいし、兄ちゃんもどっち道春に大学進学で一人暮らしの予定だしね。」

兄弟が居たのかとか、家族仲良さそうだなとか、新情報も出てくるけどそれ以上に引越しも県外なのも辛い。
単身赴任も選択肢に入るくらいだから、距離はあるのだろう。
どの位の距離なのだろうか。

「………聞いてない。」
「そりゃね。言って君にあっさりと話を終わらせられたら寂しくて死んじゃうとも思ったし、私も私で何気に引越しして君と離れ離れだっていうのも寂しかったしねー。」

寂しそうな顔で、あの子は拗ねた表情を浮かべる幼馴染にそう言った。
彼女も彼女なりに寂しかったのだろう。
その寂しさの要因に、俺や他のクラスメイト達は含まれていないのは流石としか言えないが。

「寂しい?」
「寂しい。」
「ふふっ、一生会えない訳じゃないから、離れても構ってよ。」

携帯無いけどパソコンのメールアドレスは持ってるし、とあの子は言った。
なにそれ。
俺も教えて欲しい。
幼馴染をエサにしたら、教えてくれないだろうか。

「でもお前面倒くさがりじゃん。」
「確かに。」

幼馴染の言葉に、あの子が笑う。
俺はいつもの通り、その瞳には映らない。
【悔しい】と思った。
でもそれよりも、【怖い】と思った。
目の届かない所にあの子が行ってしまう。
あの子は特別キレイな訳でも特別可愛い訳でもないし、性格だってそう良い訳じゃない。
でも面倒見が良くて優しいから、誰かがあの子に惚れてしまうかもしれない。
あの子だって、誰かに惚れてしまうかもしれない。

【気持ちが悪い】と思った。

俺でも幼馴染でもない男と、あの子が手を繋ぎ幸せそうに笑う姿を想像しただけで吐き気が込み上げて来る。
幼馴染なら、まだ我慢出来る。
仕方ないと飲み込める。
でも他の男はダメだ。

「どうした?体調でも悪いのか?」

あの子の声が聞こえ、ハッと我に返って項垂れていた頭を上げる。
幼馴染の体調が悪いのかと焦ったが、何故かあの子が見つめているのは俺だった。
………今のは、俺に対して言ったのか?

「だ、大丈夫………」
「大丈夫そうには見えないけどね。ほら、野菜食え。」

ぽいっと俺の弁当箱の蓋に乗せられたのは、ほうれん草とベーコンを炒めた物。
あの子の大好物で、いつも美味しそうに頬張っているメニューだ。
それを俺にくれるだなんて………!

「ほうれん草は鉄分たっぷりだ。私の大好きなヒーローのようにムキムキになれる。」
「鉄分はそうだけど、ムキムキは違うだろ。」
「嬉しい………!ありがとう!」

あの子にはどうやら好きなヒーローが居るらしい。
そのヒーローみたいになったら俺のことも好いてくれるだろうか、そう思いながら一口食べる。
少しバターの風味がするから、多分バターソテーなんだろうなと思いながら咀嚼する。
実の所ほうれん草は苦手なんだが、これは美味しい。

「美味しい。」
「でしょ?自信作だ。」

えっへんと胸を張ってあの子から言われた言葉に、俺は思わず箸を落としそうになった。
もしかしてこれ、あの子が作ったのか?
簡単に食べてしまったけど、俺の胃の中に入ったのはあの子が作った貴重な食糧だったのか!

「お前、料理とか出来るのか。」
「切る焼く炒めるは出来る。」
「ほぉん。良かったな。」

にやにやと笑いながら聞いてくる幼馴染の言葉に、俺は無言で首を縦に振りながらゆっくり味わう。
美味しい、舌に合う。
最高過ぎる。
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