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卒業パーティーの日。
俺のエスコートで登場した彼女には、様々な悪意の視線が突き刺さった。
恥ずかしい話、俺はこの時初めて彼女にこんな悪意の満ちた噂が出回っていることを知った。
俺とキルミアはお互い納得の上で別れたのに、全て彼女のワガママのせいだということになってしまっていた。
恥知らずの悪女という事実と異なる言葉から、彼女の容姿に至るまで。
よくもまあそこまで思いつくものだと呆れてしまうが、そうなってしまった原因は俺だ。
庇いたくて抱き寄せた肩は、やんわりと避けられる。
『大丈夫です、今更なので。不快な思いをさせて申し訳ございません。』
ふんわりと笑い、彼女は言った。
様々な感情が俺の頭の中を駆け巡る。
だが彼女はそんな俺を置き去りに、すっと背筋を伸ばして前を見据えた。
そんな彼女を、俺は本当に初めて見た。
いつも俯いて、おどおどと怯えていたのが彼女だ。
それなのに今、俺の隣に居る女性はそんな面影なんてまるでない。
間違いなく彼女なのに、知らない女性をエスコートしている気分にすらなってしまう。
『このドレスに相応しい存在になれるよう、努力致します。』
渡した時に一頻り泣いた彼女は、涙を拭おうとする俺の手を拒絶しながらそう言った。
淑女らしく、努力をする。
それは、良いことなのだろう。
貴族女性としての気概すら感じる、良い意味での変化。
けれどもそこに、俺は必要なのだろうか?
そんな疑問が浮かんでは消え、その度に愚問だと過去の俺が鼻で笑う。
………とにかく、俺はなんとかギリギリで彼女の夫の座を手に入れることができた。
だが、だからといって安心はできない。
俺は彼女の心を手に入れた訳ではないのだから。
そんな俺に、彼女の為に出来ることとは何だろうか。
考えて、それでも分からなくて。
結局望むこと何一つ満足にできない俺は、純白のウエディングドレスを身に纏い、いつもよりも派手目の、それでも美しく化粧を施された彼女に本当の笑みで隣を歩いてもらうことすら出来なかった。
「ミリア。」
「………はい。」
花嫁の控室で、この日のためだけに作られたドレスに身を包む彼女は俯いている。
ヴェールで表情は見えない。
けれどもきっと、喜んではいないだろう。
本当は彼女が何を望んでいるか分かっていた。
今、隣国でとても評判の高いドレスデザイナーが居る。
突如現れたそのデザイナーは今までにない革新的なドレスデザインを生み出し続けているらしいが、そのデビューともいえる作品は、お菓子をモチーフにしたドレスらしい。
表舞台には徹底的に姿を現さないしブランド名以外名乗らないその謎のデザイナーは、つまりは、【彼】なのだろうと俺も………そしてミリアも察していた。
きっと、ミリアも彼の作ったウエディングドレスを身に纏いたかったろうし、彼だってミリアにウエディングドレスを作りたかっただろう。
だって、一生に一度だ。
でもだからこそ、俺は彼に作って欲しくなかった。
結局俺は彼女の想いよりも、くだらない嫉妬を優先させた。
何一つ変わってない、幼稚な男だ。
「綺麗だ。本当に………」
「ありがとうございます、ケイネル様。」
「ミリア。」
俺の歩む先には、俺のも含めて俺自身が踏み躙り続けた恋情の残骸がある。
その残骸の上に跪いて彼女に縋る俺は、さぞ滑稽だろうとは思う。
それでも―――
「俺と、結婚してくれてありがとう。これから先一生、君の為に尽くすことを誓う。」
それは呪いの言葉。
彼女の人生に俺は一生、纏わりつくのだ。
例え君が死んで生まれ変わったとしても。
俺のエスコートで登場した彼女には、様々な悪意の視線が突き刺さった。
恥ずかしい話、俺はこの時初めて彼女にこんな悪意の満ちた噂が出回っていることを知った。
俺とキルミアはお互い納得の上で別れたのに、全て彼女のワガママのせいだということになってしまっていた。
恥知らずの悪女という事実と異なる言葉から、彼女の容姿に至るまで。
よくもまあそこまで思いつくものだと呆れてしまうが、そうなってしまった原因は俺だ。
庇いたくて抱き寄せた肩は、やんわりと避けられる。
『大丈夫です、今更なので。不快な思いをさせて申し訳ございません。』
ふんわりと笑い、彼女は言った。
様々な感情が俺の頭の中を駆け巡る。
だが彼女はそんな俺を置き去りに、すっと背筋を伸ばして前を見据えた。
そんな彼女を、俺は本当に初めて見た。
いつも俯いて、おどおどと怯えていたのが彼女だ。
それなのに今、俺の隣に居る女性はそんな面影なんてまるでない。
間違いなく彼女なのに、知らない女性をエスコートしている気分にすらなってしまう。
『このドレスに相応しい存在になれるよう、努力致します。』
渡した時に一頻り泣いた彼女は、涙を拭おうとする俺の手を拒絶しながらそう言った。
淑女らしく、努力をする。
それは、良いことなのだろう。
貴族女性としての気概すら感じる、良い意味での変化。
けれどもそこに、俺は必要なのだろうか?
そんな疑問が浮かんでは消え、その度に愚問だと過去の俺が鼻で笑う。
………とにかく、俺はなんとかギリギリで彼女の夫の座を手に入れることができた。
だが、だからといって安心はできない。
俺は彼女の心を手に入れた訳ではないのだから。
そんな俺に、彼女の為に出来ることとは何だろうか。
考えて、それでも分からなくて。
結局望むこと何一つ満足にできない俺は、純白のウエディングドレスを身に纏い、いつもよりも派手目の、それでも美しく化粧を施された彼女に本当の笑みで隣を歩いてもらうことすら出来なかった。
「ミリア。」
「………はい。」
花嫁の控室で、この日のためだけに作られたドレスに身を包む彼女は俯いている。
ヴェールで表情は見えない。
けれどもきっと、喜んではいないだろう。
本当は彼女が何を望んでいるか分かっていた。
今、隣国でとても評判の高いドレスデザイナーが居る。
突如現れたそのデザイナーは今までにない革新的なドレスデザインを生み出し続けているらしいが、そのデビューともいえる作品は、お菓子をモチーフにしたドレスらしい。
表舞台には徹底的に姿を現さないしブランド名以外名乗らないその謎のデザイナーは、つまりは、【彼】なのだろうと俺も………そしてミリアも察していた。
きっと、ミリアも彼の作ったウエディングドレスを身に纏いたかったろうし、彼だってミリアにウエディングドレスを作りたかっただろう。
だって、一生に一度だ。
でもだからこそ、俺は彼に作って欲しくなかった。
結局俺は彼女の想いよりも、くだらない嫉妬を優先させた。
何一つ変わってない、幼稚な男だ。
「綺麗だ。本当に………」
「ありがとうございます、ケイネル様。」
「ミリア。」
俺の歩む先には、俺のも含めて俺自身が踏み躙り続けた恋情の残骸がある。
その残骸の上に跪いて彼女に縋る俺は、さぞ滑稽だろうとは思う。
それでも―――
「俺と、結婚してくれてありがとう。これから先一生、君の為に尽くすことを誓う。」
それは呪いの言葉。
彼女の人生に俺は一生、纏わりつくのだ。
例え君が死んで生まれ変わったとしても。
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