31 / 36
Fの嘘
⑩
しおりを挟む
さて、問題はシューヤの人見知りとそれに伴うストレスだったが、以前のシューヤを知らない奴らばかりなのとほぼ年寄りというのが良かったのか、案外あっさりと村に馴染んだ。
まぁ、シューヤは真面目で良い子だから元々年寄り受けが良い。
寧ろ地元民の筈の俺がシューヤに迷惑かけてないだろうなと言われる始末だ。
「フィル、見て。アジェルばあさまに、貰った。」
シューヤはまだカタコト感は抜けなかったが、だいぶ言葉はスムーズになった。
うちの村の年寄り達はゆっくりとした性格なのが幸いだったのだろう。
今も隣家のばあさんから両手いっぱいに貰った野菜を嬉しそうに掲げて俺の所に来た。
お人好しなじいさんばあさんに可愛がられてるおかげか、最近のシューヤは毛艶が良い。
痩せっぽちなのは、相変わらずだが。
「おー。随分立派なの貰って来たな。アジェルばあさんにうちに卸せって言っとけ。」
「………って、フィルが言ったら、余計な、お、お世話って、言っておいでって。」
「おおう。見透かしてやがる。」
大事そうに野菜を外の洗い場の盥の中に並べながら、シューヤはにこにこと楽しそうに笑う。
俺はそんなシューヤを後ろから抱き締めながら、陽に当たったからか少し赤くなっている項に鼻を寄せた。
日焼け止め仕入れるか。
ばあさん共もおしゃれしてぇだろ。
「フィル、ダメ。」
「んー。何で。」
「俺、今汚い。」
恥ずかしそうにイヤイヤと首を横に振るシューヤの項に汗が光る。
それを認めた瞬間、ぞくぞくとした興奮が走った。
俺は嘘を吐いたままだしシューヤは痩せっぽちのままだが、実はここに移り住んで二ヶ月経つか経たないかという時に俺はあっさりと手を出した。
無理だろ。
改装の間に借りてた借家は狭く、二人で寄り添って眠らないといけない程なんだぞ?
惚れた相手と二人きり、邪魔するモノは何もなく静かなベッドの上。
しかも嘘であれ恋人同士だ。
ぶっちゃげ手を出さない方が失礼なレベルだと、言い訳をさせて欲しい。
「それにまだお昼、だから。」
「はいはい。」
野菜を置き終わったシューヤは身体を捩って俺と向き合うような体制になると、思いっきり腕で俺の身体を押した。
全然ビクともしないんだが、俺も仕事があるのは事実だ。
名残惜しいが腰を抱き寄せてキスをして、家に戻るよう促す。
陽はまだ長いし、俺もまだ終わらない。
「お昼寝しててくれないか?今日は飯食いに行こう。」
「うん。」
額にキスをして、名残惜しいが身体を離す。
にこにこと手を振って家へと戻って行く背中を見送りながら、今日は早めに閉めるかと考える。
どうせじいさんばあさん共も日が暮れる前に家に帰っちまうからな。
こういう風に時間に融通が利くのが、クソ田舎の自営業の利点だ。
そう思いながら俺は一つ伸びをした。
この後起きる絶望に気付かずに、のんびりと。
まぁ、シューヤは真面目で良い子だから元々年寄り受けが良い。
寧ろ地元民の筈の俺がシューヤに迷惑かけてないだろうなと言われる始末だ。
「フィル、見て。アジェルばあさまに、貰った。」
シューヤはまだカタコト感は抜けなかったが、だいぶ言葉はスムーズになった。
うちの村の年寄り達はゆっくりとした性格なのが幸いだったのだろう。
今も隣家のばあさんから両手いっぱいに貰った野菜を嬉しそうに掲げて俺の所に来た。
お人好しなじいさんばあさんに可愛がられてるおかげか、最近のシューヤは毛艶が良い。
痩せっぽちなのは、相変わらずだが。
「おー。随分立派なの貰って来たな。アジェルばあさんにうちに卸せって言っとけ。」
「………って、フィルが言ったら、余計な、お、お世話って、言っておいでって。」
「おおう。見透かしてやがる。」
大事そうに野菜を外の洗い場の盥の中に並べながら、シューヤはにこにこと楽しそうに笑う。
俺はそんなシューヤを後ろから抱き締めながら、陽に当たったからか少し赤くなっている項に鼻を寄せた。
日焼け止め仕入れるか。
ばあさん共もおしゃれしてぇだろ。
「フィル、ダメ。」
「んー。何で。」
「俺、今汚い。」
恥ずかしそうにイヤイヤと首を横に振るシューヤの項に汗が光る。
それを認めた瞬間、ぞくぞくとした興奮が走った。
俺は嘘を吐いたままだしシューヤは痩せっぽちのままだが、実はここに移り住んで二ヶ月経つか経たないかという時に俺はあっさりと手を出した。
無理だろ。
改装の間に借りてた借家は狭く、二人で寄り添って眠らないといけない程なんだぞ?
惚れた相手と二人きり、邪魔するモノは何もなく静かなベッドの上。
しかも嘘であれ恋人同士だ。
ぶっちゃげ手を出さない方が失礼なレベルだと、言い訳をさせて欲しい。
「それにまだお昼、だから。」
「はいはい。」
野菜を置き終わったシューヤは身体を捩って俺と向き合うような体制になると、思いっきり腕で俺の身体を押した。
全然ビクともしないんだが、俺も仕事があるのは事実だ。
名残惜しいが腰を抱き寄せてキスをして、家に戻るよう促す。
陽はまだ長いし、俺もまだ終わらない。
「お昼寝しててくれないか?今日は飯食いに行こう。」
「うん。」
額にキスをして、名残惜しいが身体を離す。
にこにこと手を振って家へと戻って行く背中を見送りながら、今日は早めに閉めるかと考える。
どうせじいさんばあさん共も日が暮れる前に家に帰っちまうからな。
こういう風に時間に融通が利くのが、クソ田舎の自営業の利点だ。
そう思いながら俺は一つ伸びをした。
この後起きる絶望に気付かずに、のんびりと。
47
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説
王子様と魔法は取り扱いが難しい
南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。
特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。
※濃縮版
王弟転生
焼きたてメロンパン
BL
※主人公および他の男性キャラが、女性キャラに恋愛感情を抱いている描写があります。
性描写はありませんが男性同士がセックスについて語ってる描写があります。
復讐・ざまあの要素は薄めです。
クランドル王国の王太子の弟アズラオはあるとき前世の記憶を思い出す。
それによって今いる世界が乙女ゲームの世界であること、自分がヒロインに攻略される存在であること、今ヒロインが辿っているのが自分と兄を籠絡した兄弟丼エンドであることを知った。
大嫌いな兄と裏切者のヒロインに飼い殺されるくらいなら、破滅した方が遙かにマシだ!
そんな結末を迎えるくらいなら、自分からこの国を出て行ってやる!
こうしてアズラオは恋愛フラグ撲滅のために立ち上がるのだった。
【完結】スイートハニーと魔法使い
福の島
BL
兵士アグネスは幼い頃から空に思い憧れた。
それはアグネスの両親が魔法使いであった事が大きく関係している、両親と空高く飛び上がると空に浮かんでいた鳥も雲も太陽ですら届く様な気がしたのだ。
そんな両親が他界して早10年、アグネスの前に現れたのは甘いという言葉が似合う魔法使いだった。
とっても甘い訳あり魔法使い✖️あまり目立たない幸薄兵士
愛や恋を知らなかった2人が切なく脆い運命に立ち向かうお話。
約8000文字でサクッと…では無いかもしれませんが短めに読めます。
【完結】《BL》拗らせ貴公子はついに愛を買いました!
白雨 音
BL
ウイル・ダウェル伯爵子息は、十二歳の時に事故に遭い、足を引き摺る様になった。
それと共に、前世を思い出し、自分がゲイであり、隠して生きてきた事を知る。
転生してもやはり同性が好きで、好みも変わっていなかった。
令息たちに揶揄われた際、庇ってくれたオースティンに一目惚れしてしまう。
以降、何とか彼とお近付きになりたいウイルだったが、前世からのトラウマで積極的になれなかった。
時は流れ、祖父の遺産で悠々自適に暮らしていたウイルの元に、
オースティンが金策に奔走しているという話が聞こえてきた。
ウイルは取引を持ち掛ける事に。それは、援助と引き換えに、オースティンを自分の使用人にする事だった___
異世界転生:恋愛:BL(両視点あり) 全17話+エピローグ
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
それはきっと、気の迷い。
葉津緒
BL
王道転入生に親友扱いされている、気弱な平凡脇役くんが主人公。嫌われ後、総狙われ?
主人公→睦実(ムツミ)
王道転入生→珠紀(タマキ)
全寮制王道学園/美形×平凡/コメディ?
とある隠密の受難
nionea
BL
普通に仕事してたら突然訳の解らない魔法で王子の前に引きずり出された隠密が、必死に自分の貞操を守ろうとするお話。
銀髪碧眼の美丈夫な絶倫王子 と 彼を観察するのが仕事の中肉中背平凡顔の隠密
果たして隠密は無事貞操を守れるのか。
頑張れ隠密。
負けるな隠密。
読者さんは解らないが作者はお前を応援しているぞ。たぶん。
※プロローグだけ隠密一人称ですが、本文は三人称です。
太陽に恋する花は口から出すには大きすぎる
きよひ
BL
片想い拗らせDK×親友を救おうと必死のDK
高校三年生の蒼井(あおい)は花吐き病を患っている。
花吐き病とは、片想いを拗らせると発症するという奇病だ。
親友の日向(ひゅうが)は蒼井の片想いの相手が自分だと知って、恋人ごっこを提案した。
両思いになるのを諦めている蒼井と、なんとしても両思いになりたい日向の行末は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる