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Aの真実

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それが真実ではあったけど、俺は特に辛いとは思わなかった。
だって俺は正式な婚約者なのだから。
ごく自然にキスをしたり、人前で堂々といちゃいちゃしたりする権利がある。
それはかなりのアドバンテージだった。
特に、フィリップに対して。

フィリップも彼も公私はしっかりとしているし義理堅いので、婚約前のような近い距離間で話したり二人だけで出掛けたりするのは辞めているようだった。
つまり二人揃ってそれは近過ぎる距離感だと思ってたということだよなともやもやしたが、だが二人が距離を取ったのならばそれはそれでラッキーだ。
その開いた距離に、俺が収まれば良いだけ。

「シューヤ!」
「アレックス。どうした?」

所詮俺は次男だし、あまり騒ぎたてるのは彼も困るだろうと婚姻の日取りが確定するまでは社外秘にしている。
だが俺は公私混同だと怒られない程度にはシューヤに絡みにいった。
何度も言うが、俺に足りない唯一は彼とのコミュニケーションだ。
俺は彼のことを表面上しか知らないし、彼もまた、俺のことを知っているのは表面上以下だろう。

だがそんなことにはめげずにあの日約束した観劇を含めたデートに何度も誘い、人前でも堂々と態度に出して彼に触れた。
そのおかげで少し固かった彼の態度は徐々に軟化していき、今では俺が絡みにいけば苦笑しながらも腕を伸ばしてくれる。
呆れられて、諦められているんだろうと言われたらそこまでだが、それでも彼が俺を受け入れてくれたことに変わりないのだ。
まあ、二人きりの時はどうにも緊張が勝って触れることすら出来ないヘタレ野郎な訳だが。
それでもこのまま俺という存在に慣れてもらって、そして俺と結婚してくれる。
その未来が俺には確かに見えてたし、俺にとって真実だと思っていた。


「てかアレックスは俺が行かなくても新人歓迎会行かなくちゃダメだよ。」

忘れもしない、あの新人歓迎会の日。
俺は何故かそれが決まった日から【行きたくない】と思っていたし、実際何かしら理由を作って彼と一緒に不参加にしようかとずっと考えていた。
ずっと胸騒ぎがしていたんだ。
歓迎会に出たら、何もかもが終わると。

そしてそれは、実際その通りだった。

新人達の中に居た、接客業に携わる者としてはかなり引く程に派手な爪をした新人。
その新人を見た瞬間、
何故だ?
何故そんなことを思う?
明らかに剥離した俺の思考に吐き気が込み上げてくるのに、どんどん思考に靄がかかったようになってやがて何も考えられなくなった。

否、違う。

この子に尽くさなくては。
この子を愛さなくては。
この子に愛して欲しい。
この子は俺だけのモノだ。

その考えばかりが頭の中を占める。
彼のことなんて、もうすっかり頭から抜けていた。
視界の端にフィリップが、彼の方に向かうのが見えていたのに!
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