17 / 36
Aの真実
③
しおりを挟む
彼は俺のモノだけど、俺だけのモノじゃない。
それが真実ではあったけど、俺は特に辛いとは思わなかった。
だって俺は正式な婚約者なのだから。
ごく自然にキスをしたり、人前で堂々といちゃいちゃしたりする権利がある。
それはかなりのアドバンテージだった。
特に、フィリップに対して。
フィリップも彼も公私はしっかりとしているし義理堅いので、婚約前のような近い距離間で話したり二人だけで出掛けたりするのは辞めているようだった。
つまり二人揃ってそれは近過ぎる距離感だと思ってたということだよなともやもやしたが、だが二人が距離を取ったのならばそれはそれでラッキーだ。
その開いた距離に、俺が収まれば良いだけ。
「シューヤ!」
「アレックス。どうした?」
所詮俺は次男だし、あまり騒ぎたてるのは彼も困るだろうと婚姻の日取りが確定するまでは社外秘にしている。
だが俺は公私混同だと怒られない程度にはシューヤに絡みにいった。
何度も言うが、俺に足りない唯一は彼とのコミュニケーションだ。
俺は彼のことを表面上しか知らないし、彼もまた、俺のことを知っているのは表面上以下だろう。
だがそんなことにはめげずにあの日約束した観劇を含めたデートに何度も誘い、人前でも堂々と態度に出して彼に触れた。
そのおかげで少し固かった彼の態度は徐々に軟化していき、今では俺が絡みにいけば苦笑しながらも腕を伸ばしてくれる。
呆れられて、諦められているんだろうと言われたらそこまでだが、それでも彼が俺を受け入れてくれたことに変わりないのだ。
まあ、二人きりの時はどうにも緊張が勝って触れることすら出来ないヘタレ野郎な訳だが。
それでもこのまま俺という存在に慣れてもらって、そして俺と結婚してくれる。
その未来が俺には確かに見えてたし、俺にとって真実だと思っていた。
あの日までは
「てかアレックスは俺が行かなくても新人歓迎会行かなくちゃダメだよ。」
忘れもしない、あの新人歓迎会の日。
俺は何故かそれが決まった日から【行きたくない】と思っていたし、実際何かしら理由を作って彼と一緒に不参加にしようかとずっと考えていた。
ずっと胸騒ぎがしていたんだ。
歓迎会に出たら、何もかもが終わると。
そしてそれは、実際その通りだった。
新人達の中に居た、接客業に携わる者としてはかなり引く程に派手な爪をした新人。
その新人を見た瞬間、俺はこの子に尽くさなければと思ってしまった。
何故だ?
何故そんなことを思う?
明らかに剥離した俺の思考に吐き気が込み上げてくるのに、どんどん思考に靄がかかったようになってやがて何も考えられなくなった。
否、違う。
この子に尽くさなくては。
この子を愛さなくては。
この子に愛して欲しい。
この子は俺だけのモノだ。
その考えばかりが頭の中を占める。
彼のことなんて、もうすっかり頭から抜けていた。
視界の端にあのブランケットを持っているフィリップが、彼の方に向かうのが見えていたのに!
それが真実ではあったけど、俺は特に辛いとは思わなかった。
だって俺は正式な婚約者なのだから。
ごく自然にキスをしたり、人前で堂々といちゃいちゃしたりする権利がある。
それはかなりのアドバンテージだった。
特に、フィリップに対して。
フィリップも彼も公私はしっかりとしているし義理堅いので、婚約前のような近い距離間で話したり二人だけで出掛けたりするのは辞めているようだった。
つまり二人揃ってそれは近過ぎる距離感だと思ってたということだよなともやもやしたが、だが二人が距離を取ったのならばそれはそれでラッキーだ。
その開いた距離に、俺が収まれば良いだけ。
「シューヤ!」
「アレックス。どうした?」
所詮俺は次男だし、あまり騒ぎたてるのは彼も困るだろうと婚姻の日取りが確定するまでは社外秘にしている。
だが俺は公私混同だと怒られない程度にはシューヤに絡みにいった。
何度も言うが、俺に足りない唯一は彼とのコミュニケーションだ。
俺は彼のことを表面上しか知らないし、彼もまた、俺のことを知っているのは表面上以下だろう。
だがそんなことにはめげずにあの日約束した観劇を含めたデートに何度も誘い、人前でも堂々と態度に出して彼に触れた。
そのおかげで少し固かった彼の態度は徐々に軟化していき、今では俺が絡みにいけば苦笑しながらも腕を伸ばしてくれる。
呆れられて、諦められているんだろうと言われたらそこまでだが、それでも彼が俺を受け入れてくれたことに変わりないのだ。
まあ、二人きりの時はどうにも緊張が勝って触れることすら出来ないヘタレ野郎な訳だが。
それでもこのまま俺という存在に慣れてもらって、そして俺と結婚してくれる。
その未来が俺には確かに見えてたし、俺にとって真実だと思っていた。
あの日までは
「てかアレックスは俺が行かなくても新人歓迎会行かなくちゃダメだよ。」
忘れもしない、あの新人歓迎会の日。
俺は何故かそれが決まった日から【行きたくない】と思っていたし、実際何かしら理由を作って彼と一緒に不参加にしようかとずっと考えていた。
ずっと胸騒ぎがしていたんだ。
歓迎会に出たら、何もかもが終わると。
そしてそれは、実際その通りだった。
新人達の中に居た、接客業に携わる者としてはかなり引く程に派手な爪をした新人。
その新人を見た瞬間、俺はこの子に尽くさなければと思ってしまった。
何故だ?
何故そんなことを思う?
明らかに剥離した俺の思考に吐き気が込み上げてくるのに、どんどん思考に靄がかかったようになってやがて何も考えられなくなった。
否、違う。
この子に尽くさなくては。
この子を愛さなくては。
この子に愛して欲しい。
この子は俺だけのモノだ。
その考えばかりが頭の中を占める。
彼のことなんて、もうすっかり頭から抜けていた。
視界の端にあのブランケットを持っているフィリップが、彼の方に向かうのが見えていたのに!
35
お気に入りに追加
140
あなたにおすすめの小説
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
ボクのドールハウス
かかし
BL
※皆の地雷を平気で踏み抜いてます!
※ヒント:攻め以外もクズ
※不快だなと思ったらもう見なかったフリをして戻るボタン&履歴削除しましょう
無自覚クズ×世話焼き平凡………と見せ掛けたヤベェ奴らの話。
一度全部見たあとに最初に戻ると、台詞が違って聞こえるよ!
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる