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ようこそ、ここは―――
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―――飲み会の日、俺の心配は杞憂だったらしい。
勿論、物語的に良い方向に向かった的な意味でだ。
あの新人が会場入りをした途端に、アレックスはあの新人にすっかり視線を奪われていた。
そのまま俺を無視してあれやこれやとお世話を焼いている。
寂しいなとは思うけど、覚悟してたからそれ以上に何かを思うことがなかった。
………アレだけ欲しかった酒が進まないのは、なんとなくだ。
「そういう顔して呑むもんじゃねぇよ。」
グッと呷ろうとした手酌の酒を、慣れた手つきで取り上げられる。
誰が取ったか、なんて見なくても分かる。
だが俺は俺の酒を取っておきながら当たり前のように隣に座る大きな影を、敢えて思いっきり睨み付けてやった。
「どう吞もうとも、俺の勝手でしょ。先輩。」
アレックスよりも一回り大きな身体。
厳つい三白眼で、右側は黒くてシンプルな眼帯に覆われてる上に眉間に寄った皺のおかげで奴隷商か盗賊かと間違えられそうな雰囲気。
だが実際はうちで一番面倒見が良く情に篤い人で、しかも優しい人だ。
何を隠そうこの人が、アレックスの前に俺の世話を焼いていた人でもある。
………こうして一人で不貞腐れてたら、また構ってくれないかなって打算はちょっとあった。
正直な話、俺はこの先輩が好きだった。
でも気が付けばアレックスとの婚約話が進んでいくし、なによりこの人の性嗜好は異性だ。
だから諦めた訳だけど、その婚約者が運命の出会いを無事に果たした訳だから今日くらいは良いだろう。
キューピッドにだって、ご褒美が欲しい。
「美味しい呑み方をしろって言ってんだよ。ほら、詰めろ。」
言われるがまま身体をズラせば、焦れたのか俺を楽々抱えてから膝の上に乗せる。
そして胡坐をかいた上に俺を乗せると、俺の視界からちやほやと新人を構うアレックスを隠すようにブランケットを被せてくれた。
このブランケットは、俺がまだ先輩に構ってもらった時に買った物だ。
店の空調が強くて寒がる俺に、風邪を引いたらややこしいからって、俺のためだけに先輩が買ってくれた物。
「………これ、誰かに使った?」
「あ?お前以外に誰に使うんだよ。」
わざとらしくクンクンとブランケットの匂いを嗅ぎながらそう言えば、先輩は怪訝そうな声をしながらも笑う。
寄りかかった胸板に、豪快に笑う振動が伝わる。
あー、好き。
俺にもアンナみたいな華奢な身体で、ついてるものついてない股間だったら、少しはチャンスあったのかな?
や、無理だな。
先輩の歴代彼女は、豪快でボンキュッボンな人ばっかりだから。
「俺用?」
「お前【専用】。ちょっと調子出て来たか?」
そういうとこだぞと思いながら素直にちょろく喜べば、先輩がその太い指で俺の唇を撫でてくれる。
これ、好き。
アレックスは人前では俺に抱き着いたりキスしたりしてくれるけど、二人きりだと触れてくれなかった。
思うに、そもそも趣味じゃない冴えない男なんて触りたくもないんだろう。
女将さんの手前、何もスキンシップしない訳にはいかなかったから仕方なく触れてただけで。
「出て来た、から、ちょーだい。」
「………お前ね。ほら、ちょっとだけな。」
アレックスと新人ちゃんの、楽しそうな笑い声が聞こえて来る。
三年だ。
アレックスと俺が婚約者として過ごした時間。
長くはないが短くもない期間一緒に居た相手が、もしかしたらと淡い期待を抱いた相手が、もう俺の存在なんて忘れている。
最初から分かっていたことだし、そもそも異物は俺の方なんだから。
泣く権利なんて、ない。
「………我慢すんな。泣け。」
そう思ったのに、俺にフードを被せるように深くブランケットを被せながら先輩は低くそう言った。
何でこの人は、こうも優しいんだろうか。
みっともなく振られた後輩なんて、放っておけば良いのに。
そういえば、俺後先何も考えてなかったんだけど、このままこの商会に居ても良いんだろうか?
別に誰かしらに「次男坊の婚約者です」って紹介された訳じゃないから、世間体のために辞めろと言われることはないのかもしれない。
でも、やっぱり【元婚約者】と【婚約者】が大腕振って同じ職場で働いているのは気まずいだろう。
「俺、辞めなきゃってなったら次どこ行こう」
「辞めるのか?シューヤが辞めるんなら俺も着いて行くかー。どこ行く?いっそ王都に行くか?」
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら言えば、先輩はそう言って笑い俺を優しく抱き締めた。
馬鹿じゃん。
なんで俺だけの問題なのに、アンタが着いて来るんだよって言いたかったけど、涙を抑えるのに必死で言うに言えなかった。
勿論、物語的に良い方向に向かった的な意味でだ。
あの新人が会場入りをした途端に、アレックスはあの新人にすっかり視線を奪われていた。
そのまま俺を無視してあれやこれやとお世話を焼いている。
寂しいなとは思うけど、覚悟してたからそれ以上に何かを思うことがなかった。
………アレだけ欲しかった酒が進まないのは、なんとなくだ。
「そういう顔して呑むもんじゃねぇよ。」
グッと呷ろうとした手酌の酒を、慣れた手つきで取り上げられる。
誰が取ったか、なんて見なくても分かる。
だが俺は俺の酒を取っておきながら当たり前のように隣に座る大きな影を、敢えて思いっきり睨み付けてやった。
「どう吞もうとも、俺の勝手でしょ。先輩。」
アレックスよりも一回り大きな身体。
厳つい三白眼で、右側は黒くてシンプルな眼帯に覆われてる上に眉間に寄った皺のおかげで奴隷商か盗賊かと間違えられそうな雰囲気。
だが実際はうちで一番面倒見が良く情に篤い人で、しかも優しい人だ。
何を隠そうこの人が、アレックスの前に俺の世話を焼いていた人でもある。
………こうして一人で不貞腐れてたら、また構ってくれないかなって打算はちょっとあった。
正直な話、俺はこの先輩が好きだった。
でも気が付けばアレックスとの婚約話が進んでいくし、なによりこの人の性嗜好は異性だ。
だから諦めた訳だけど、その婚約者が運命の出会いを無事に果たした訳だから今日くらいは良いだろう。
キューピッドにだって、ご褒美が欲しい。
「美味しい呑み方をしろって言ってんだよ。ほら、詰めろ。」
言われるがまま身体をズラせば、焦れたのか俺を楽々抱えてから膝の上に乗せる。
そして胡坐をかいた上に俺を乗せると、俺の視界からちやほやと新人を構うアレックスを隠すようにブランケットを被せてくれた。
このブランケットは、俺がまだ先輩に構ってもらった時に買った物だ。
店の空調が強くて寒がる俺に、風邪を引いたらややこしいからって、俺のためだけに先輩が買ってくれた物。
「………これ、誰かに使った?」
「あ?お前以外に誰に使うんだよ。」
わざとらしくクンクンとブランケットの匂いを嗅ぎながらそう言えば、先輩は怪訝そうな声をしながらも笑う。
寄りかかった胸板に、豪快に笑う振動が伝わる。
あー、好き。
俺にもアンナみたいな華奢な身体で、ついてるものついてない股間だったら、少しはチャンスあったのかな?
や、無理だな。
先輩の歴代彼女は、豪快でボンキュッボンな人ばっかりだから。
「俺用?」
「お前【専用】。ちょっと調子出て来たか?」
そういうとこだぞと思いながら素直にちょろく喜べば、先輩がその太い指で俺の唇を撫でてくれる。
これ、好き。
アレックスは人前では俺に抱き着いたりキスしたりしてくれるけど、二人きりだと触れてくれなかった。
思うに、そもそも趣味じゃない冴えない男なんて触りたくもないんだろう。
女将さんの手前、何もスキンシップしない訳にはいかなかったから仕方なく触れてただけで。
「出て来た、から、ちょーだい。」
「………お前ね。ほら、ちょっとだけな。」
アレックスと新人ちゃんの、楽しそうな笑い声が聞こえて来る。
三年だ。
アレックスと俺が婚約者として過ごした時間。
長くはないが短くもない期間一緒に居た相手が、もしかしたらと淡い期待を抱いた相手が、もう俺の存在なんて忘れている。
最初から分かっていたことだし、そもそも異物は俺の方なんだから。
泣く権利なんて、ない。
「………我慢すんな。泣け。」
そう思ったのに、俺にフードを被せるように深くブランケットを被せながら先輩は低くそう言った。
何でこの人は、こうも優しいんだろうか。
みっともなく振られた後輩なんて、放っておけば良いのに。
そういえば、俺後先何も考えてなかったんだけど、このままこの商会に居ても良いんだろうか?
別に誰かしらに「次男坊の婚約者です」って紹介された訳じゃないから、世間体のために辞めろと言われることはないのかもしれない。
でも、やっぱり【元婚約者】と【婚約者】が大腕振って同じ職場で働いているのは気まずいだろう。
「俺、辞めなきゃってなったら次どこ行こう」
「辞めるのか?シューヤが辞めるんなら俺も着いて行くかー。どこ行く?いっそ王都に行くか?」
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら言えば、先輩はそう言って笑い俺を優しく抱き締めた。
馬鹿じゃん。
なんで俺だけの問題なのに、アンタが着いて来るんだよって言いたかったけど、涙を抑えるのに必死で言うに言えなかった。
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