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ようこそ、ここは―――

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その【いつか】は、わりと早く来た。
この世界では16歳になると、神殿で魔力の鑑定が行われるらしい。
殆どが魔力の無い人間ばかりだが、稀に魔力のある人間が居るらしく、そういった【特別な存在】は王宮で王家の保護の下で働くことになる。

ここまで言えば分かるだろう?

アンナは魔力持ちだったんだ。
しかも質も量も歴代最高らしい。
よく知らないけど、神官?の人達がそう言って騒いでたから間違いないのだろう。
どうもアンナはこのまま王宮へと連れて行かれるらしい。
そもそもこの神殿に来た時から、たまたま視察に来ていた第三王子様がアンナにずっと見惚れてたからこのままアンナは王宮に娶られることになるのかもしれない。
素晴らしい、シンデレラストーリー。

やっぱりアンナが主人公なんだろう、この世界は。

聖女様だと、アンナを崇めるその場に居る人達。
先に鑑定して魔力無しと分かった俺は、部屋の隅でポツンとその風景を見るしかできない。
めでたしめでたしなのか、それともこれから物語が始まるのか。
いずれにしても俺は用無しだ。
名も無き役にも立たないモブは、早急に舞台から降りるに限る。
やんややんやと囲まれるアンナを後目に、俺はそっと出入口から出て行く。
神官達もアンナも王族も、誰も退場したモブには気付かない。
当たり前な話だ。

ふぁっと一つ欠伸して、さてはてどうしたものかと考える。
いずれ王族の仲間入りするかもしれないアンナに、俺みたいな得体の知れない奴が近付くのは宜しくないだろう。
けれど口でなんと言おうとも、王族や貴族は信用する筈がない。
立場のある人間こそ、得体の知れない存在を厭う。
だから多分このまま街外れに居続けたら、あっさりと殺されてしまうかもしれない。

未練は無いけど命は惜しい。

パパっと荷物を纏めて街から出よう。
道中で魔獣に襲われて死ぬかもしれないけど。
次の街までスムーズに行けるのかも分からない、もしかしたら途中で行き倒れになるかもしれない。
それでも、権力に殺されるよりもマシだと思った。

「何処へ行く。」

そんな俺の背中に、聞き覚えのない声がぶつかる。
まさか誰かに声を掛けられるなんて思ってなくて驚いて振り向けば、そこには厳つい甲冑に身を包み帯刀をした、背の高い男が居た。
フルプレートだから顔は分からない。
てかこういう場ではヘルメットを外すのが普通じゃないの?
職務に忠実とか?
それとも、俺が何がするって思って警戒しているのだろうか?
アホくさ。

「別に。貴方には関係無いのでは?」

慣れてきたとは言え、やはり謂れのない悪いに晒されるのは気分が悪い。
俺がアンナに何かするとでも思ってるのだろうか。

「貴方達は俺がアンナになにかするのではとか、アンナの黒歴史は排除すべきだとか思ってるかもしれませんが、俺だって馬鹿じゃないし、アンタ達みたいな悪意しか向けて来ない奴らと関わりたくないんですよ。心配しないでももう今この瞬間からアンナに近寄りも関わりもしないし、なんならこの街から消えるのでどうぞご心配なく。」

苛立ちのまま、騎士(仮)に一息にそう言って俺は踵を返す。
なんで俺がそんな風に見られなくてはならない?
街の人達からそんな目で見られるのは分かる。
だっていきなり現れた得体の知れない奴だぞ?
どんな聖人でも警戒するに決まってる。
でも、コイツらはそんなバックボーンなんて知らない筈だ。
つまり(実際は違うけど)善良な市民である可能性が高いにも関わらず、ただ聖女になるであろうアンナの汚点になるんじゃないかという謎の思い込みで俺を排除しようとする訳だろう?

「アンタ達に俺は羽虫以下の命かもしれないけど、俺だって生きていたいんだよ。」

多分この辺りが目かなって場所に目を向けて、必死に睨みつけてみる。
これで目が合ってなかったら滑稽なんだが、まぁ、そうなった時はヘルメット着けたままのコイツが悪いってことで。
この位の責任転嫁は、許されるだろう?
俺みたいな羽虫に歯向かわれると思ってなかったのか、震えているせいでカチャカチャとプレートが耳障りな音を奏で始める。
抜刀はしない理性はあるのか。
そう思いながら俺は、一か八かで踵を返した。

向けた背中に抜刀されなかったのは、奇跡以外の何物でもないだろう。

俺はそのことに感謝などせず、ただひたすらに足を動かしアンナの家まで戻ると、僅かばかりの貴重品だけを持って出て行った。
未練なんて何も無かった。

嗚呼、俺はいつだって、逃げてばかりだな。
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