君の好きなものを、全部

かかし

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閑話:私こそがヒロイン

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私は生まれながらのヒロインだ。
比喩じゃなくて、本当に。
私には前世の記憶がある。
その時点で特別だけど、今世での私はその前世で見た小説のヒロインだった。
ね?ヒロインでしょ?

悪い男爵令息の婚約者に虐げられて悲しんでいる親友の為に奔走するヒロインが、第二王子と出会って幸せになる話。
それなのに―――

「えっ………?婚約、しない?」

それなのに、肝心の親友は悪役男爵令息と婚約しないらしい。
そんなの、困る。
この子が男爵令息と婚約して虐げられないと、私は第二王子と出会うことが出来なくなっちゃうのに………。

「そうよ。オールフェンド男爵令息様は、もう婚約者も居らっしゃるようだし、それに………」
「それに?」

婚約者?
そんなの嘘だ。
16歳になっても婚約者が居ないくらいに性格が悪いって小説には書いてあったもの。
だからメリッサが婚約者になったのに。

「それに、私にオールフェンド男爵令息様の婚約者は荷が勝ちすぎるわ。」

どういうこと?
荷が勝ちすぎるって何?
ちょっと暴力的でワガママな男爵令息なだけでしょう?ユージーン・オールフェンドって。
意味が分からない。

「それ、誰の話なの?ユージーン・オールフェンド男爵令息様は、領民を愛するとても素晴らしい方よ。」

メリッサは不快そうに眉を顰めてそう言うと、うるさい位にその【素晴らしさ】を語ってきた。
何でもユージーン・オールフェンドはその顔の良さと賢さで多くの女性を虜にしながらも、領民を優先する女性じゃないと結婚をしたくないとお断りしているらしい。
なにそれ意味分かんない。
小説のユージーンは確かにイケメンとは書かれていたけれど、そんな男じゃなかった。
しかも王太子の友人?
そんな訳ない!
小説でユージーンは、悪役令息のフォトンと一緒に王太子からとても嫌われていたのに!

「で?」
「え?」
「で、そのオールフェンド男爵令息の婚約者って誰なの?」
「えっと、フェルナンド商会の次女の、ソフィアって子よ。」

フェルナンド商会は聞いたことある。
小説でちらっとだけで出てたから。
でも、ソフィアなんて子は知らない。
そんな子、名前はおろか存在すら描写されてなかった筈。

「今度、王太子殿下主催の夜会に出席されるそうなの。楽しみよね。」
「え?ええ、そう、ね………」

どういうこと?
王太子が主催する夜会なんて、正直初耳過ぎる。
メリッサは出席するみたいだけど、招待状なんてうちには来てない。
うちだって男爵なのに?
メリッサやユージーンと立場は一緒の筈よ。
ううん。
私はヒロインだから、二人よりもずっとずっと特別な筈よ。

「ソフィアさんのお披露目も兼ねて開催されるらしいの。」

王太子が?
なんでわざわざ男爵令息の婚約者の平民娘の為に、夜会を開くっていうのよ。
冗談でしょう?
メリッサのバカみたいな妄想に決まってるわ。
そうじゃないとおかしいじゃない。
これは私の為の物語りなのに。
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