君の好きなものを、全部

かかし

文字の大きさ
上 下
5 / 16

宝石より高ぇんだぞ

しおりを挟む
「さぁ、ソフィア………」
「で、ですが………!」
「大事な事だよ。ワガママを言ってはいけない。」

涙目で訴えるソフィアに、俺は静かに首を横に振った。
無理矢理しては嫌われるかもしれない。
けれども俺は諦める訳にはいかないのだ。

「さぁ、ソフィア………脱ぎなさい。」

お風呂の時間だ。

****

………と、言う訳で俺はソフィアの似合いもしないブカブカのドレスをひん剥き、庶民のよりは大きな………でも貴族にしては慎ましい我が家の風呂に手ずからで入れることにした。
まぁ婚約者の身で共に湯船に浸かる訳にはいかないので、俺はただワイシャツの袖を捲っているだけだけれども。

「何もユージーン様がされなくても………」
「んー。こればかりは正直に言うが、うちにメイドは最低限しか居ません。」

これはマジで。
この世界のクソみたいな仕組みが関係するのだが、簡単に言うとメイドや執事の斡旋に関しては必ず王都にある斡旋会社を通さないといけない。
階級云々は全く関係無いし、貴族商人も勿論関係ない。
執事やメイドを雇う以上必ず斡旋会社を通し、給金はメイドや執事達個人に払うが莫大なマージンをメイドや執事達は取られてしまう。
しかもそのマージンは固定。
つまり、雇い主が貧乏な場合メイドや執事達の給金は殆どマージンで消えて雀の涙となってしまう。
雇い主の立場からしてみれば相当な金額払っているにも関わらず、だ。

「うちの領民達を雇い入れたい所だが、そんなことしようものなら寧ろ苦労を強いてしまうからね。今うちに居るのは本当に少人数なんだ。」

しかも性格にかなり難があるタイプの。
そんな人間掃除以外任せられるかって話だし、更に言うなら仕事が出来なさすぎて俺達がした方が何千倍も早い。
クビにしたいが貴族である以上メイドや執事は必須だ。
おもてなしとかいうクソみたいな文化の為になぁ!

「だから基本的に今回の教育も含めて慣れるまでは俺がやるし、だけど慣れたらその………」
「自分でする、という事ですね。」
「不甲斐なくて申し訳ない………」

困ったように笑いながら湯船の中に座るソフィアのボサボサでギトついた髪を洗いながら、俺は心からの謝罪をした。
適当にやっていた商売を本格的に始動させよう………せめてまともな連中に入れ替えれるくらいの金は欲しい………後ソフィアに苦労させないくらいの金。
俺も父上も母上も、貴族らしからぬ貴族なので自分のことは自分で出来てしまうせいで、どうしても奉公人の質に関しては後回しになってしまうのだ。
外面が良過ぎるから、おもてなしの際には真面目にいい子ちゃんをキッチリできているのも、その最たる理由だったりする。

「一回流すよ。縁に頭乗せて、目を瞑って。」
「は、はい!」

縁に乗せられた小さな頭を支えながらしっかりと濯ぐものの、ギトギトした感触は落ちきらなかった………。
あまり洗い過ぎると今度はパサパサになってしまうので、身を起こさせてもう一度だけ洗うことにする。
一応濃い色の入浴剤入れて身体は見ないようにしているが、それでも分かってしまう程に肋骨が浮いているというレベルではないくらいにガリガリの身体は、欲情よりも先に心配しか出てこない。
とりあえず太らせよう。
この体型なら正直10キロ太らせても平均以下なのではないか?

「それとね、ソフィア。」
「はい。」
「悪いけど余程のことがない限りソフィアをフェルナンド商会に帰すことは出来ない。はい、もう一回流すから目を閉じて。」

いくらマナーを固めても、少しでもと太らせても、あの環境なら元の木阿弥になってしまう。
ゆっくり丁寧に髪の泡を落としながら、俺はソフィアにそう告げた。
金は貰うしソフィアも貰う。
だが、我が家はこれっぽっちもフェルナンド商会を信用していないので、アイツらが俺達を見下しているのをいい事に俺達が有利になる契約を結んだ。
その一つが、ソフィアの身の振り方だ。

「………ですか?」
「ん?」
「私、もう、家に帰らなくていいんですか?」

震える声で、ソフィアはそう言って涙を流した。
髪の毛のベタつきも、絡まり放題だった毛先もさっぱりとしただけでだいぶ印象は変わる。
そう。
彼女が普通に育っていれば、きっと貧乏貴族の俺なんかは手を出せない場所に彼女は居た訳だ。
その点では、ある意味フェルナンド会長に感謝だな。

「そうだよ。ここが君の家だ。」

家族である筈のあの男自身がソフィアから家族を奪ってくれたおかげで、俺はこうも簡単に家族ヅラができるのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お妃候補は正直しんどい

きゃる
恋愛
大陸中央に位置する大国ヴェルデ。その皇太子のお妃選びに、候補の一人として小国王女のクリスタが招かれた。「何だか面接に来たみたい」。そう思った瞬間、彼女は前世を思い出してしまう。 転生前の彼女は、家とオフトゥン(お布団)をこよなく愛する大学生だった。就職活動をしていたけれど、面接が大の苦手。 『たった今思い出したばかりだし、自分は地味で上がり症。とてもじゃないけど無理なので、早くおうちに帰りたい』 ところが、なぜか気に入られてしまって――

王子と半分こ

瀬月 ゆな
恋愛
リリーナ・ディアモント、十七歳。 十五歳になってから結婚相手を探しはじめたが、順調だと思われた侯爵家嫡男との縁談が寸前で白紙となってからと言うもの、すでにもう十六回連続で「好きな人ができてしまった」とお断りされ続けている。 いくらなんでもこれはおかしい。腕利きの占い師に見てもらえば、リリーナは対になる紋章を魂に刻まれた相手としか結ばれない星の下に産まれたらしい。 魂に刻まれた紋章という手がかりにするにはあまりにも心許ない情報に途方に暮れていると、王家の使いが訪ねて来た。 何でもリリーナと対になる紋章は王太子が持っており、リリーナを王太子妃に迎えたいということだが――。 いまいち納得のいかない理由から婚約者の関係になった、恋愛面に限らず色々とドライな王子様と、どうせなら幸せになりたくて頑張る伯爵令嬢が本当の夫婦になるまでのお話。 第一部完結しました。第二部の連載は夏以降を予定しています。 「小説家になろう」様でも第一部が完結した状態まで掲載しています。

聖女失格 〜脳死で頼るの辞めてもらって良いですか?〜

嘉幸
恋愛
異世界とか勘弁して! ある日突如異世界に若返り特典付きで聖女として転移した時岡時枝(ときおかときえ)は、家に帰せと憤怒するも、その方法はないと言われる。 さらに、この世界を救ってほしいと他力本願な願いに、怒りが湧く。 はぁ?失格聖女?上等なんですけど。なんでも良いけど脳死で私を頼るの、辞めてもらって良いですか? --------------------- 短めの長編ですので楽しく読んでいただければ幸いです ガバガバ設定です。 恋愛なのかファンタジーなのか迷ってます コロコロ変えてすみません…… たまには元気いっぱいの主人公も良いかなと。楽しんでください。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~

扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。 公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。 はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。 しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。 拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。 ▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

真実の愛<越えられない壁<金

白雪の雫
恋愛
「ラズベリー嬢よ!お前は私と真実の愛で結ばれているシャイン=マスカット男爵令嬢を暴行した!お前のような嫉妬深い女は王太子妃に相応しくない!故にお前との婚約は破棄!及び国外追放とする!!」 王太子にして婚約者であるチャーリー=チョコミントから大広間で婚約破棄された私ことラズベリー=チーズスフレは呆然となった。 この人・・・チーズスフレ家が、王家が王家としての威厳を保てるように金銭面だけではなく生活面と王宮の警備でも援助していた事を知っているのですかね~? しかもシャイン=マスカットという令嬢とは初めて顔を合わせたのですけど。 私達の婚約は国王夫妻がチーズスフレ家に土下座をして頼み込んだのに・・・。 我が家にとってチャーリー王太子との結婚は何の旨味もないですから婚約破棄してもいいですよ? 何と言っても無駄な出費がなくなるのですから。 但し・・・貧乏になってもお二人は真実の愛を貫く事が出来るのでしょうか? 私は遠くでお二人の真実の愛を温かい目で見守る事にします。 戦国時代の公家は生活が困窮していたという話を聞いて思い付きました。 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義です。

処理中です...