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宝石より高ぇんだぞ
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「さぁ、ソフィア………」
「で、ですが………!」
「大事な事だよ。ワガママを言ってはいけない。」
涙目で訴えるソフィアに、俺は静かに首を横に振った。
無理矢理しては嫌われるかもしれない。
けれども俺は諦める訳にはいかないのだ。
「さぁ、ソフィア………脱ぎなさい。」
お風呂の時間だ。
****
………と、言う訳で俺はソフィアの似合いもしないブカブカのドレスをひん剥き、庶民のよりは大きな………でも貴族にしては慎ましい我が家の風呂に手ずからで入れることにした。
まぁ婚約者の身で共に湯船に浸かる訳にはいかないので、俺はただワイシャツの袖を捲っているだけだけれども。
「何もユージーン様がされなくても………」
「んー。こればかりは正直に言うが、うちにメイドは最低限しか居ません。」
これはマジで。
この世界のクソみたいな仕組みが関係するのだが、簡単に言うとメイドや執事の斡旋に関しては必ず王都にある斡旋会社を通さないといけない。
階級云々は全く関係無いし、貴族商人も勿論関係ない。
執事やメイドを雇う以上必ず斡旋会社を通し、給金はメイドや執事達個人に払うが莫大なマージンをメイドや執事達は取られてしまう。
しかもそのマージンは固定。
つまり、雇い主が貧乏な場合メイドや執事達の給金は殆どマージンで消えて雀の涙となってしまう。
雇い主の立場からしてみれば相当な金額払っているにも関わらず、だ。
「うちの領民達を雇い入れたい所だが、そんなことしようものなら寧ろ苦労を強いてしまうからね。今うちに居るのは本当に少人数なんだ。」
しかも性格にかなり難があるタイプの。
そんな人間掃除以外任せられるかって話だし、更に言うなら仕事が出来なさすぎて俺達がした方が何千倍も早い。
クビにしたいが貴族である以上メイドや執事は必須だ。
おもてなしとかいうクソみたいな文化の為になぁ!
「だから基本的に今回の教育も含めて慣れるまでは俺がやるし、だけど慣れたらその………」
「自分でする、という事ですね。」
「不甲斐なくて申し訳ない………」
困ったように笑いながら湯船の中に座るソフィアのボサボサでギトついた髪を洗いながら、俺は心からの謝罪をした。
適当にやっていた商売を本格的に始動させよう………せめてまともな連中に入れ替えれるくらいの金は欲しい………後ソフィアに苦労させないくらいの金。
俺も父上も母上も、貴族らしからぬ貴族なので自分のことは自分で出来てしまうせいで、どうしても奉公人の質に関しては後回しになってしまうのだ。
外面が良過ぎるから、おもてなしの際には真面目にいい子ちゃんをキッチリできているのも、その最たる理由だったりする。
「一回流すよ。縁に頭乗せて、目を瞑って。」
「は、はい!」
縁に乗せられた小さな頭を支えながらしっかりと濯ぐものの、ギトギトした感触は落ちきらなかった………。
あまり洗い過ぎると今度はパサパサになってしまうので、身を起こさせてもう一度だけ洗うことにする。
一応濃い色の入浴剤入れて身体は見ないようにしているが、それでも分かってしまう程に肋骨が浮いているというレベルではないくらいにガリガリの身体は、欲情よりも先に心配しか出てこない。
とりあえず太らせよう。
この体型なら正直10キロ太らせても平均以下なのではないか?
「それとね、ソフィア。」
「はい。」
「悪いけど余程のことがない限りソフィアをフェルナンド商会に帰すことは出来ない。はい、もう一回流すから目を閉じて。」
いくらマナーを固めても、少しでもと太らせても、あの環境なら元の木阿弥になってしまう。
ゆっくり丁寧に髪の泡を落としながら、俺はソフィアにそう告げた。
金は貰うしソフィアも貰う。
だが、我が家はこれっぽっちもフェルナンド商会を信用していないので、アイツらが俺達を見下しているのをいい事に俺達が有利になる契約を結んだ。
その一つが、ソフィアの身の振り方だ。
「………ですか?」
「ん?」
「私、もう、家に帰らなくていいんですか?」
震える声で、ソフィアはそう言って涙を流した。
髪の毛のベタつきも、絡まり放題だった毛先もさっぱりとしただけでだいぶ印象は変わる。
そう。
彼女が普通に育っていれば、きっと貧乏貴族の俺なんかは手を出せない場所に彼女は居た訳だ。
その点では、ある意味フェルナンド会長に感謝だな。
「そうだよ。ここが君の家だ。」
家族である筈のあの男自身がソフィアから家族を奪ってくれたおかげで、俺はこうも簡単に家族ヅラができるのだから。
「で、ですが………!」
「大事な事だよ。ワガママを言ってはいけない。」
涙目で訴えるソフィアに、俺は静かに首を横に振った。
無理矢理しては嫌われるかもしれない。
けれども俺は諦める訳にはいかないのだ。
「さぁ、ソフィア………脱ぎなさい。」
お風呂の時間だ。
****
………と、言う訳で俺はソフィアの似合いもしないブカブカのドレスをひん剥き、庶民のよりは大きな………でも貴族にしては慎ましい我が家の風呂に手ずからで入れることにした。
まぁ婚約者の身で共に湯船に浸かる訳にはいかないので、俺はただワイシャツの袖を捲っているだけだけれども。
「何もユージーン様がされなくても………」
「んー。こればかりは正直に言うが、うちにメイドは最低限しか居ません。」
これはマジで。
この世界のクソみたいな仕組みが関係するのだが、簡単に言うとメイドや執事の斡旋に関しては必ず王都にある斡旋会社を通さないといけない。
階級云々は全く関係無いし、貴族商人も勿論関係ない。
執事やメイドを雇う以上必ず斡旋会社を通し、給金はメイドや執事達個人に払うが莫大なマージンをメイドや執事達は取られてしまう。
しかもそのマージンは固定。
つまり、雇い主が貧乏な場合メイドや執事達の給金は殆どマージンで消えて雀の涙となってしまう。
雇い主の立場からしてみれば相当な金額払っているにも関わらず、だ。
「うちの領民達を雇い入れたい所だが、そんなことしようものなら寧ろ苦労を強いてしまうからね。今うちに居るのは本当に少人数なんだ。」
しかも性格にかなり難があるタイプの。
そんな人間掃除以外任せられるかって話だし、更に言うなら仕事が出来なさすぎて俺達がした方が何千倍も早い。
クビにしたいが貴族である以上メイドや執事は必須だ。
おもてなしとかいうクソみたいな文化の為になぁ!
「だから基本的に今回の教育も含めて慣れるまでは俺がやるし、だけど慣れたらその………」
「自分でする、という事ですね。」
「不甲斐なくて申し訳ない………」
困ったように笑いながら湯船の中に座るソフィアのボサボサでギトついた髪を洗いながら、俺は心からの謝罪をした。
適当にやっていた商売を本格的に始動させよう………せめてまともな連中に入れ替えれるくらいの金は欲しい………後ソフィアに苦労させないくらいの金。
俺も父上も母上も、貴族らしからぬ貴族なので自分のことは自分で出来てしまうせいで、どうしても奉公人の質に関しては後回しになってしまうのだ。
外面が良過ぎるから、おもてなしの際には真面目にいい子ちゃんをキッチリできているのも、その最たる理由だったりする。
「一回流すよ。縁に頭乗せて、目を瞑って。」
「は、はい!」
縁に乗せられた小さな頭を支えながらしっかりと濯ぐものの、ギトギトした感触は落ちきらなかった………。
あまり洗い過ぎると今度はパサパサになってしまうので、身を起こさせてもう一度だけ洗うことにする。
一応濃い色の入浴剤入れて身体は見ないようにしているが、それでも分かってしまう程に肋骨が浮いているというレベルではないくらいにガリガリの身体は、欲情よりも先に心配しか出てこない。
とりあえず太らせよう。
この体型なら正直10キロ太らせても平均以下なのではないか?
「それとね、ソフィア。」
「はい。」
「悪いけど余程のことがない限りソフィアをフェルナンド商会に帰すことは出来ない。はい、もう一回流すから目を閉じて。」
いくらマナーを固めても、少しでもと太らせても、あの環境なら元の木阿弥になってしまう。
ゆっくり丁寧に髪の泡を落としながら、俺はソフィアにそう告げた。
金は貰うしソフィアも貰う。
だが、我が家はこれっぽっちもフェルナンド商会を信用していないので、アイツらが俺達を見下しているのをいい事に俺達が有利になる契約を結んだ。
その一つが、ソフィアの身の振り方だ。
「………ですか?」
「ん?」
「私、もう、家に帰らなくていいんですか?」
震える声で、ソフィアはそう言って涙を流した。
髪の毛のベタつきも、絡まり放題だった毛先もさっぱりとしただけでだいぶ印象は変わる。
そう。
彼女が普通に育っていれば、きっと貧乏貴族の俺なんかは手を出せない場所に彼女は居た訳だ。
その点では、ある意味フェルナンド会長に感謝だな。
「そうだよ。ここが君の家だ。」
家族である筈のあの男自身がソフィアから家族を奪ってくれたおかげで、俺はこうも簡単に家族ヅラができるのだから。
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