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序章

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「ウィリアムー、お迎えが来たわよー!」

すっかりすやすやと寝ていた僕は、おばさんの呼び声で慌てて目を覚ました。
しまった!
いくらなんでも、友達の家で寝過ぎた!!
急いで起き上がろうとしたけど、前からルイス後ろからキャロルに抱き締められて身動きが取れない。
どうしよう。
二人共すやすやと眠っているから起こすのが忍びない。

「………ふっ、ふふっ」
「ルイス!起きてたの!?」

わたわたと一人で慌てていると、僕の頭の上から楽しそうな笑い声が漏れ聞こえた。
まさかと思って見上げれば、元々目を覚ましていたのだろう。
僕を抱き締めたまま、ルイスは器用に口元を押さえて笑っていた。
ひどいやつだ!
ルイスは時々、こういう意地悪なことをしてくる。

「ごめんね。あわあわしてるウィリアムが可愛かったから。」

全然ごめんって感じじゃない笑い方されて、僕はちょっとムッとなった。
けどウソでも可愛いって言われて嬉しいから、ゆるしてあげることにする。
それにしても、ルイスは起きてるから離してって言えるけど、キャロルは本当に眠ってるんだろうから困るなぁ………
キャロルは一度寝ると、なかなか起きない。

「でもお迎え来たみたいだから起きようか。」
「キャロルは?」
「キャロは捨てて良いよ。」

うん?
若干話がかみ合ってない気がするな。
腕が重いから起こして欲しいなと思って言ったんだけど、ルイスはぺいって音がしそうなくらいの勢いでキャロルの腕を僕から退けると、優しく抱き起こしてくれた。
キャロル、起きちゃったかなと思ったけど、眠そうに唸っただけで起きる気配はない。

「あいさつは、したかったけど。」
「母さんが呼んだのに寝てる方が悪い。ほら、行こう。」

ちょっと残念だなと思ったけど、ルイスが左手を引いてそう言うから仕方なく置いて行くことにした。
ごめんね、キャロル。
お家帰ったらすぐお手紙書いて明日にでも送るから、許してね。
そう思いながら玄関に行くと―――

「………えっ。」
「あ!アレックスー!」
「ウィル!おいでー!」

お父さんとお母さんかと思ったら、アレックスがお迎えに来てくれた。
もしかしたら二人共まだお話が長引いているのかも………と思ったけど、アレックスが屈んで腕を広げてくれたからルイスの手を離してその胸の中に飛び込む。
ひょいと僕を抱き上げる太い腕は、やっぱり憧れちゃう。
お父さんくらいにとは言わない。
でも俺もいつかこのくらいの筋肉欲しいなぁ。

「うぃ、ウィリアム!」
「ルイス?」

ぐりぐりとアレックスの首に顔を埋めて甘えていると、ルイスがいつもよりちょっと大きな声で僕のことを呼んだ。
こんな風に大きい声を出すルイスが珍しくて、僕はちょっとビックリしながらもルイスの方を見て………そしてもう一度ビックリした。
ルイスがすごく、辛そうな顔してたから。

「………どうしたの?どっか痛い?」
「ううん、そうじゃなくて………その、アレックス様と知り合いなのは知ってたけど、仲良し、なの?」

不安そうに瞳を揺らしながら、ルイスはそう聞いた。
ルイスがどういう意味でそんなことを聞いてくるのか分からなかったけど、仲良しなのは事実だから僕はうなずいた。
その瞬間、アレックスが僕をギュッと抱き締めた。

「そうだよ。俺とウィルは仲良しなんだ。ルイスくんだよね。ウィルと遊んでくれてありがとう。」

そうして僕が返事をする前に、何故かアレックスが自慢げな言い方でそう言った。
その言葉を聞いて、ルイスの顔が怖くなる。
………え?
二人って、仲悪いの?

「………坊ちゃん、大人気ない。ルイスも、止めろ。アレックス坊ちゃんはお前をからかってるだけだ。」

どうしたら良いか分からずオロオロしてると、ルイスのお父さんが呆れたようにそう言って二人を止めてくれた。
でも止まってくれるのかな?
不安で震えそうになったけど、二人共同じタイミングでギュッと目を瞑って溜息を吐くと、睨み合うのを止めてくれた。
喧嘩にならなくて良かった………

「怖がらせちゃったね、ごめんねウィリアム。」
「ううん。大丈夫。」

いつもの優しい笑顔で、ルイスがそう笑ってくれたからホッとする。
やっぱりルイスは、笑ってる方が好きだ。

「じゃあ坊ちゃん、女将さんにも宜しくお伝えください。シューヤ達にも。」
「ああ。」
「あ、ルイス、バイバイ!また遊ぼうね!」

ルイスのお父さんがそう言ったのを合図に、アレックスが僕を抱えなおす。
今からもう帰るんだろうと思ったから、僕はアレックスに抱っこされたままルイスに手を振った。
本当はルイスにいつものようにバイバイのハグをして欲しかったけど、多分アレックスは下ろしてくれないだろうから手を振るだけにする。

「………うん。遊ぼうね、ウィリアム。」
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みんなの感想(1件)

さくら夏目
2024.07.07 さくら夏目

こんにちははじめまして(⁠^⁠^⁠)

こういうお話凄く好きです♪

ウィリアムが妹を魔獣から庇う心境が悲し過ぎて心が痛かったですけど、今はこんなにも幸せで良かったです(⁠*⁠´⁠ω⁠`⁠*⁠)

これからまた色々な事があるのでしょうが、今はルイスとキャロルに甘々に愛されていて欲しいです(⁠≧⁠▽⁠≦⁠)

お父さんとお母さんの話も一気読みしました(⁠^⁠^⁠)
うん、勘違いしまくって最終的に幸せになった彼と旦那さんのスパダリが素敵でした~♪♪
ハッピーエンド大好きです

これからも更新楽しみにしてます
一読者として宜しくお願いしますm(_ _)m

かかし
2024.07.07 かかし

初めまして!
感想ありがとうございます!
しかも前作まで読んで頂き、本当にありがとうございます!

基本的には甘々でやっていこうとは思うので、どうか安心して楽な気持ちで見て頂ければと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します!

解除

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