上 下
8 / 10
序章

8

しおりを挟む
すぅすぅと穏やかな寝息を立てて眠るウィリアムを抱えて、ルイスはベッドへと移動した。
ウィリアムは意外に寝穢い。
一度眠るとちょっとのことではなかなか起きない。
こうしてベッドに移動させる時はありがたいなと思うけど、いろいろ心配になってしまう。

「左側は俺のだから、キャロルは右側ね。」
「良いよ。てか俺も約束しよっかなー。右側は俺優先にしてねって。」

ケラケラと笑いながら、スカートが皺になるのも構わずキャロルはころりとベッドに寝転んだ。
もちろん、ウィリアムの右側になるように。
そんなキャロルの態度にルイスはウィリアムを抱えたまま溜息を一つ吐くと、わざとスカートの上にウィリアムを寝かしつけて自分は左側に寝転んだ。
ルイスの部屋にあるベッドは、最近買い換えてもらったばかりの新しいベッドだ。
部屋の半分近くを埋めてしまうベッドだが、いつまでも三人で眠れるようにと父と母が気を遣って買ったベッドだ。

―――なんでいつまでも三人なんだよ。俺は二人が良いんだけど。

そう不満に思ったものの、大きなベッドで兄弟で挟むとウィリアムがベッドが落ちる心配がないのは事実なのでグッと我慢をする。
ルイスにとって、初めて会った時からウィリアムは守るべき者だ。
それは不自由な左目もそうなのだが、その同じ年齢と思えない程に小さな体躯。
人見知りが激しく、縋るようにシューヤやフィリップの服を掴んでいた姿を見て、なんだこの可愛らしい生き物はと衝撃を受けたのだ。

『こんにちは!ぼくはルイス!きみは?』
『………うぃりあむ………』

反応が素っ気なかったことも、ルイスも衝撃を与えた。
ルイスは自分自身でも顔も愛想が良いことも自覚をしていた。
だからこそ、ちょっと自分がにっこり笑えば人見知りの子でも絆されてくれると信じていた。
しかし、ウィリアムはビクリと怯えたように身体を震わせると、名前だけ言ってフィリップの後ろに隠れてしまった。

『(………嫌われた?何もしてないのに?)』
『あー。悪いな、坊主。ウィルは大人ばっかりの所で育ったから、同じくらいの子供と会ったことねぇんだ。』

フィリップが困ったように笑う。
嫌われてないことは分かったけれど、好かれてないことも分かってしまってどうしたら良いのかが分からなかった。
でもこの可愛い子と仲良くはしたい。
できれば他の子とは仲良くしなくて良いから、自分だけとは仲良くして欲しいともルイスは思った。
なんなら、今この場には居ない双子の弟であるキャロルとも仲良くして欲しくないくらいには、ルイスはこの小さな男の子と仲良くしたかった。

『えっと、ウィリアムは、ごほんすき?』

取り敢えず、好きなことを把握しないと話にならない。
すっかりフィリップの足に隠れてしまったウィリアムに、ルイスは一つ質問を投げてみた。
大人しい子は本が好きだという安易な考えからだったが、ウィリアムに対しては正解だったようだ。

『ごほん?』

キラキラとした目で、ひょっこりとウィリアムが顔を覗かせる。
その瞬間、ルイスはもう完全に心臓が射貫かれてしまった。
この街には、見目が良い子はそこそこ居る。
父達に着いて行った王都では、もっと美しく可愛い子がたくさん居た。
それでもルイスには、まるで一等輝く宝石のように思えたのだ。
そしてそれは、今でも変わらない。

『う、うん!うちにいっぱい、ほんあるよ!』

だからおいで、と手を伸ばす。
するとてこてこという可愛らしい足音を立てながらルイスに近寄ると、その小さな掌でキュッと握ってくれた。

―――やっぱり、この子は俺が守らないと!

今よりも幼いルイスの頭の中を埋めたのは、その決意だけだった。
あんなにも警戒心バチバチだったにも関わらず、本があるよの一言で警戒を解いて着いて来てしまう。
こんなにもチョロい子、すぐに誘拐されてしまう!
我が家に閉じ込めてしまわなければ!
ルイスはそう思い、シューヤとフィリップの許可を得て家へと迎え入れた。
勿論、左手を握り自然と左側に立てるようにして。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ウソツキは権利だけは欲する

かかし
BL
ナルシストでプライドの高い俺様系クズ美形(でも根は真面目だし甘えた)が、自分のライバル同期(無口無表情系美形)にぎゃふんと言わせるためにソイツの片想い相手の仕事のできない同期の不器用地味平凡(でも根は頑固のママ属性)に手を出したらうっかりハマってしまっておぎゃり始める話 一度完結した話ですが、続きが書きたくなったので連載中に戻しました。 受けより攻めのがおチョロチョロ シリアス成分少なめにする予定ですが、突然重いのが来る時もありますのでご注意ください。

僕よりも可哀想な人はいっぱい居る

かかし
BL
※虐待を仄めかす表現があります ※誘拐犯と被害者の話といえば、誘拐犯と被害者の話 ※特定のCMを否定するつもりで書いてはいません ※何かしらを肯定するつもりでも書いていません ※あくまでもフィクション、ある種のファンタジー ※犯罪表現がありますが、それらの行為を推奨するものではありません ※寧ろ非推奨。犯罪、ダメ、絶対

人参のグラッセを一個

かかし
BL
※6話目と7話目がコピペミスにより同じモノになっていたと教えて頂き、3月19日に修正致しました。この場を借りてお礼申し上げますありがとうございました… そして皆様には多大なご迷惑をおかけして申し訳ございません 見目の良い弟からは見下され、両親からはあからさまに差別された軽度の吃り持ち平凡高校生が諦めることもなく幸せを大事にしたり、ガラが悪いけど美形で溺愛体質な男に愛されたりする話。 溺愛美形×平凡です ※予告無しに暴力表現やイジメ表現があります ※吃りの表現があります ※法律も医学知識も0な人間が書いてます ※その辺の矛盾とかおかしさ感じても目を瞑って頂ければ幸いです pixivにて連載していた話で、番外編も含めて既に完結済みです。

王室の醜聞に巻き込まれるのはごめんです。浮気者の殿下とはお別れします。

あお
恋愛
8歳の時、第二王子の婚約者に選ばれたアリーナだが、15歳になって王立学園に入学するまで第二王子に会うことがなかった。 会えなくても交流をしたいと思って出した手紙の返事は従者の代筆。内容も本人が書いたとは思えない。 それでも王立学園に入学したら第二王子との仲を深めようとしていた矢先。 第二王子の浮気が発覚した。 この国の王室は女癖の悪さには定評がある。 学生時代に婚約破棄され貴族令嬢としての人生が終わった女性も数知れず。 蒼白になったアリーナは、父に相談して婚約を白紙に戻してもらった。 しかし騒ぎは第二王子の浮気にとどまらない。 友人のミルシテイン子爵令嬢の婚約者も第二王子の浮気相手に誘惑されたと聞いて、友人5人と魔導士のクライスを巻き込んで、子爵令嬢の婚約者を助け出す。 全14話。 番外編2話。第二王子ルーカスのざまぁ?とヤンデレ化。 タイトル変更しました。 前タイトルは「会ってすぐに殿下が浮気なんて?! 王室の醜聞に巻き込まれると公爵令嬢としての人生が終わる。婚約破棄? 解消? ともかく縁を切らなくちゃ!」。

平凡くんと【特別】だらけの王道学園

蜂蜜
BL
自分以外の家族全員が美形という家庭に生まれ育った平凡顔な主人公(ぼっち拗らせて表情筋死んでる)が【自分】を見てくれる人を求めて家族から逃げた先の男子校(全寮制)での話。 王道の転校生や生徒会、風紀委員、不良に振り回されながら愛されていきます。 ※今のところは主人公総受予定。

魂なんて要らない

かかし
BL
※皆様の地雷や不快感に対応しておりません ※少しでも不快に感じたらブラウザバックor戻るボタンで記憶ごと抹消しましょう 理解のゆっくりな平凡顔の子がお世話係で幼馴染の美形に恋をしながらも報われない不憫な話。 或いは、ブラコンの姉と拗らせまくった幼馴染からの好意に気付かずに、それでも一生懸命に生きようとする不憫な子の話。 着地点分からなくなったので一旦あげましたが、消して書き直すかもしれないし、続きを書くかもしれないし、そのまま放置するかもしれないし、そのまま消すかもしれない。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

20年掛けて地味子に報われない恋をし続けたイケメンの話

かかし
恋愛
―――初めて見た時、何だこの地味なチビと思った。 目に少しかかる程に長い前髪に、ひょろひょろの身体。 同じ学年のどの女子よりも真っ白で、だからって可愛げがある訳じゃない。 いじめられる程の目障りさじゃないが、居ても居なくても変わらない。 そんなアイツだったが、妙に目に付いたのは俺の幼馴染の所為でもある。 (本編抜粋) 恋も極めれば愛になる。 自分の顔が良いことを自覚している「俺」が、クズデブチビの三拍子揃った「幼馴染」限定で距離感バグってる頭おかしく口が悪い「あの子」にちょっと気持ち悪い方向で恋をし続ける話。 今の所アルファポリスさま限定で気まぐれ更新です。 どうぞお付き合いください。

処理中です...