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序章

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「じゃあ、行ってくるね。」
「終わり次第すぐ迎えに行くからな。」
「はい!いってらっしゃい!」

お父さんとお母さん、それからアレックスに手を振りながらお見送りをする。
その間、僕の手はルイスに繋がれていた。
ルイスはいつも、僕の左側に立ってくれる。
外でも、ルイスの家で遊ぶ時も。

「いつもありがとう。」
「何が?」
「遊んでくれたり、僕の左側に立ってくれたり。」

握られた手に少しだけ力を込めながら、素直にお礼を言う。
左側が見えないから、危ないことや怖いことが左側で起きてると気付きにくくて巻き込まれることが多い。
だからこうしてルイスが立ってくれることはすごく嬉しくて、でも同じくらい申し訳ないなと思う。
だって、その分負担をかけてる訳だから。
ルイスと僕は、同じ年なのに………

「俺が好きにしてることだから、気にしなくて良いんだよ。」
「でも………」

ルイスはいつもそう言って笑ってくれるけど、お荷物なんじゃないかなと思う。
だって、僕が左側に気付けないからルイスに気を付けてもらわないといけないし、遊ぶにしても外遊びが出来ないからいつも家の中だし。
ルイスは本当は外遊びが大好きなのは知ってる。
本当は他の友達に誘われていることも。

「んー、気になるならさ、一つだけお願い聞いて欲しいな。」
「なになに!?僕の出来ることならやりたい!」
「ふふっ、ウィリアムにしか出来ないことだよ。」

優しげな瞳で、ルイスが笑う。
まるで年上の知らないお兄さんのように見えて、ドキドキしてしまう。
歩きながらお話してたから、もうルイスのお家は目の前だ。
早く入ろうって言って誤魔化すこともできたけど、でも、それは違うと思うからルイスの目を見つめたままドキドキする気持ちを耐える。

「ウィリアムの左側に立つのは、ずっと俺優先で居させて欲しい。」
「ふえ?」

けどそんなドキドキする中で言われたのは、そんな簡単でちょっとなぞなこと。
だって、ルイスに負担かけるお詫びに聞くお願いなのに、どうしてその負担に思うだろうことを?
よく分からなくて首を傾げると、ルイスが一瞬だけ僕の手を離したかと思ったら、今度は両手で僕の左手を持ち上げて触れてしまうギリギリまで口に寄せた。
物語に出てくる、騎士様がお姫様に誓いをするようなシーンにも似ててまたドキドキが始まってしまう。

「本当は俺だけにして欲しいけど、それは難しいから………でも、俺が居る時は俺が優先。良い?」
「う、うん………分かった………」

ルイスの勢いに押されて、思わず頷いてしまう。
いや、ルイスがそれで良いんだったら僕としてはすごく嬉しい。
ルイスの双子の弟であるキャロルだったり、他の人だったりが僕の左側に立つことはあるけど、家族以外だとルイスとキャロルが一番緊張しないでいれる程に信頼できる相手だから………。

「でも、それってキャロルと居る時も?」
「というか、普通にキャロルと俺が居るなら俺を優先して。」

気になったことを聞けば、バッサリと切り捨てるようにそう言われた。
普段仲良しなのに、あまりのバッサリ加減に一瞬ポカンと口を開いてしまったが、その表情が僕でも分かるくらいにスネていたので思わず笑ってしまいそうになる。
―――さっきまで、あんなに騎士様みたいだったのに。

「………呆れてる?」
「ううん。むしろ、好きだなって思った。」

ちょっと遠く感じた距離が、また元に戻る。
まぁ、遠く感じてたのは僕の一方的な考えなんだけど。

「す、き?」
「うん、好き。ルイスのこと、好きだよ。………ダメだった?」

そう思いながら素直に好きと伝えたら、今度は何故かルイスの方がポカンとした顔をしたので不安になってしまう。
僕、何か間違えたこと言ったのだろうか?
好きって言われるの、嫌だったろうか。

「ダメじゃない!ダメじゃないよ!俺もウィリアムのこと好きだから!!」

そんな不安が伝わったのか、ルイスは僕の両手をギュッと握って力強くそう言ってくれた。
嬉しいけど、勢いにビックリしてしまう。
まるでこの間のカミナリみたいな激しさだ。

「う、うん!ありがとう!そろそろお家入ろう?」

ビックリはしたけど、好きだと言ってもらえるのはとても嬉しい。
たとえそれが、嘘だとしても。
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