ようこそ、ここは僕らが主人公の世界です

序章

4

3ヶ月に1回、お店をお休みにして馬車に乗って少し遠くの街に行く。
なんで行くのかは分からない。
でもこの日は家族みんなでおでかけだから、僕は楽しみだったりする。
それに、街に居る友達にも会える。

「街に着いたら少し女将さんと話さないといけないから、大人しく待てる？」
「うん！」

おでかけは嬉しいけど、お父さんもお母さんもお仕事で街に来たのだから待ってるのは全然平気。
いつものことだし。
しかも、お父さんとお母さんが元々働いてた所らしく、皆何かと僕を構ってくれるから寂しくない。
特に―――

「シューヤ！ウィル！」
「アレックス！！」

馬車を降りた瞬間、待ち侘びたとばかりな大きな声が聞こえて、僕は駆け出してお父さんよりは少し小さいけど、他の人よりは大きな身体に飛び付いた。
昔お父さんとお母さんとも働いていたというアレックスは、次期社長さんというとっても偉い人なのに僕を一番構ってくれる優しい人だ。

「ちょっと見ないだけで大きくなったなぁ！シューヤに似て可愛くなって！」
「んむっ、くすぐったいよ」

アレックスはぐりぐりと僕のほっぺたにほっぺたを押し付けながらそう言うけど………それ、いつも言ってる………。
お母さんに似てるって言われるのはすごく嬉しいけど、ちょっと聞き飽きちゃった………。
思わずお父さんとお母さんを見れば、お父さんが呆れたような溜息を吐いて僕をアレックスから取り上げてくれた。

「あ！」
「あ！じゃねぇよ。人を誘拐犯みたいに言うな。俺の子だ。」

不満そうなアレックスの声に、お父さんが呆れたようにそう言って僕をしっかりと抱き締めた。
何気に、いつもの流れだったりする。
お父さんとアレックスは仲が悪い訳じゃないんだけど、なんだか僕とお母さんがアレックスに構われ過ぎるのが好きじゃないみたい。
僕がちょっと困ったら、こうして取り上げるように抱っこしてくれる。

「まぁいいけど………母さんと話すんだろう？その間預かるよ。」
「アレックス………その申し出は嬉しいんだけど、今日は君にも話があるんだ。」
「俺にも？」

お母さんの言葉に、また僕を抱っこしようと伸ばしていた腕を止めた。
………そっか、今日はアレックスと遊べないのか………残念………
ちょっとだけしょんぼりとした気持ちを、お父さんの服をぎゅっと掴んで誤魔化してみる。
どうしようかな。
アレックスに遊んでもらえるものだと思ってたから、寂しいな。

「あ、ウィリアム！来てたんだね！」

他にもいつも構ってくれる人は居るけど、でも皆お仕事だし、アレックスみたいに大事な用事があるかもしれないとネガティブでもあり至って当たり前でもある思考が頭を占める。
そんな時、僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。
聞き覚えしかない、僕の大好きな声………！

「ルイス！」
「お、丁度良かったな。下りるか？」
「うん！」

お父さんに下ろしてもらって、声の主に駆け寄る。
そこに居たのは、僕と同じ年のお友達、ルイスだ。
ルイスは街の入口の薬草屋さんの子供で、僕と同じ年なんだけど他のどの子よりも大人っぽくて頼りになる存在だ。
顔もまるで協会に描かれた天使様みたいに可愛くて、皆からの人気者だ。
そんなルイスは、僕が片目が不自由だと知っているからか特に優しくしてくれる。
嬉しいけど、皆に申し訳ないなとも思う。

「フィリップさん、シューヤさん。お久しぶりです。ウィリアムと俺の家で遊んで良いですか？」
「うん。寧ろお願いして良いかな？」
「いつも悪いな。」

お父さんとお母さんが、ホッとしたような顔をしてルイスにそう言った。
一人で待つのは、やっぱり心配をかけてしまうみたいだ。
僕は全然平気だけど………
でも寂しかったから、僕もちょっとホッとしたのは内緒だ。