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序章

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「ウィルー!そろそろ行くよー!」
「はーい!」

お母さんに呼ばれて、僕は急いでお出かけ用リュックを背負った。
僕はお父さんとお母さんの養子になった時、「ウィリアム」という名前をつけてもらった。
僕の本当の名前は僕の代わりのあの子のものだったから、これは本当に嬉しかった。
お母さんの生まれた場所では、子供の名前は両親からの最初のプレゼントだと言われているらしい。
だからこの名前は、僕だけのプレゼントだった。

「忘れ物無い?」
「大丈夫!お母さんは大丈夫?この間ハンカチ忘れてた。」
「あー………大丈夫!よし、行こう!お父さんが待ってる!」

ポケットの中をしっかりと確認したお母さんは、そう言って僕を抱き上げた。
お母さんは周りの人達………それこそ村のおじいちゃんおばあちゃんよりも細く小さいけど、僕も町に住む同じ年の年齢の子達より細くて小さいからお母さんでも抱き上げることはできた。
家の戸締りをしっかり確認して、馬車を停めている場所へと向かう。
そこには御者の人と馬車を整備しているお父さんが居た。

「フィルごめん!待たせた!」
「んー?今終わった所だし、気にすんな。おいで、ウィル。」

手洗い桶で手を洗ったお父さんが、そう言って僕に手を伸ばす。
どうしようかな。
お母さんの抱っこ好きだけど、お父さんの抱っこも好きだから悩む。

「悩んでるねー。」
「可愛いな。」
「悩む時の仕草がフィリップの旦那そっくりですなぁ。」

むむっと悩んでいると、ほのぼのとしたお父さんとお母さんの声、そして御者さんのしみじみとした声が聞こえた。
お父さんに似ているって言われるのは、嬉しい。
悩みに悩んだ末、僕はお父さんの方へと手を伸ばすことにした。

「よし。おいで、シューヤ。一人で乗れるか?」
「乗れるし。………乗れるし。」

お母さんはどうも馬車が苦手みたいで、乗る時にはお父さんが支えながら乗せるか、何度か深呼吸しながらじゃないと乗れない。
僕は抱っこしてもらったばかりだけどお父さんに下ろしてアピールをして下ろしてもらって、お母さんよりも早く馬車に飛び乗る。

「お母さん。」
「ん?」
「おいで」

ふっかふかのソファになってるキャリッジに座って両手を広げる。
お父さんがいつもやってるやつ。
少しでもお母さんが楽になれば良いなと思いながらしたんだけど、どうやら大成功みたいだ。
しばらくお口を開けてポカンとしたかと思えば、嬉しそうに笑って深呼吸も無しに乗って僕をギュッと抱き締めてくれた。

「うちの子が最高に可愛い!!」
「今のは可愛い!」
「えっ!?なに!?どうして俺が目を離した瞬間に可愛いことするの坊ちゃん!」

作戦が大成功したことに思わず鼻息を荒くすれば、お父さん達は嬉しそうな顔をしてくれる。
下手に顔色を伺うより、素直な気持ちを出した方が喜んでもらえると、お父さんもお母さんも根気強く教えてくれた。
本当に、二人の子供になれて良かった。
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