貴方に幸せの花束を

かかし

文字の大きさ
上 下
36 / 50
中編

白昼夢でも見ていたのだろうか

しおりを挟む
「ハロー、ハロー。メールだよ。」

ルイに一方的に想いと手紙を送り付けた翌日。
頭上から聞き覚えのない、しかしどこか聞き覚えのある声が聞こえた。
………頭上?
意味が分からず見上げれば、近くに植わっていた巨木の枝の上に、まるで猫のように寝転んでいる獣人が居た。
一体誰だと目を凝らせば、ルイといつも一緒に居るあの生意気な兎で。
無礼だと思う前に、何故そんな所に居るんだという疑問が湧いてくる。

暗黙の了解で、一般生徒はご学友の子供達が使う校舎には近寄ってはいけないとなっている。

馬鹿馬鹿しい差別的な考えだが、王家の利益を考えるならば当然の処置なのだろう。
だからこそ、万が一見付かった際は一般生徒に罰則が処せられるというのに。
兎は訝しむ私の前に軽やかに飛び降りると、何も気にすることもなく私にクリーム色の封筒を渡した。

「………何だ、これは。」
「お返事。夜更かしして書いてたんだから、見てくれると嬉しいな。」

【お返事】という言葉に、思わず反応する。
兎はそんな俺にニッコリと笑うと、更に封筒を差し出して来る。
受け取って当然だと言わんばかりの態度に、何故だろうか。
従兄弟であるレオナルドを思い出してしまう。

「信じる信じないは君次第。どうするどうもしないも君次第。その選択に僕は勿論何も言わないし、彼もきっと何も言わないよ。」

まどろっこしい言い方。
ますますレオナルドを思い出して不愉快だった。
どう考えても胡散臭い。
しかし何故だろうか。
コイツは私に、偽りを言わないような気がした。

「………受け取ろう。」
「うん!どーぞ!」

ニコニコと、兎が封筒を渡す。
これが本当にルイからの返信なのかは分からない。
一度だって、受け取ったことはないんだから。
けれどこれはきっと本物だろうと、俺は信じたくなった。

「ありがとう。」

自然と、礼を伝えて兎の頭を撫でていた。
どうしてこんな行動をしてしまったのか分からない。
しかし兎が満足気に笑うから、きっと正解なんだろうと思う。

「じゃあ、今  ちゃ   でね。」

手を離した瞬間、砂嵐のような音が耳の奥で鳴り始める。
兎が何を言ったのかが聞こえず聞き返そうとしたが、そのタイミングで一瞬だけとはいえ立っていられない程の眩暈がした。
咄嗟にたたらを踏み耐えながら、兎を見ると―――

「は?居ない?」

もう、目の前には誰も居なかった。
砂嵐のような音も聞こえず、代わりに学生達の賑やかな声が聞こえた。
そう言えば、兎が居た時は兎の声しか聞こえなかった。
生徒達の声はおろか、風に揺られた木のざわめきすらも。

白昼夢でも見ていたのだろうか。

しかし、私の手元には確かにクリーム色の封筒があった。
何だったのだろうか。
もしかして、また偽物なのか?

『その選択に僕は勿論何も言わないし、彼もきっと何も言わないよ。』

先程の兎の言葉が、頭の中を反響する。
しかし不思議と、疑うという選択肢はそれ以上浮かばなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

花開かぬオメガの花嫁

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
帝国には献上されたΩが住むΩ宮という建物がある。その中の蕾宮には、発情を迎えていない若いΩや皇帝のお渡りを受けていないΩが住んでいた。異国から来た金髪緑眼のΩ・キーシュも蕾宮に住む一人だ。三十になり皇帝のお渡りも望めないなか、あるαに下賜されることが決まる。しかしキーシュには密かに思う相手がいて……。※他サイトにも掲載 [高級官吏の息子α × 異国から来た金髪緑眼Ω / BL / R18]

『結婚間近』で騎士団長たる私が部下たちのオナホなんかになるわけないっ!

雲丹はち
BL
婚約者との結婚間近となった騎士団長クレイグが着任したのは、素行の悪さで有名な第七騎士団だった。 しかし就任後、部下たちの態度はとても友好的で……? 歓迎会で酔いがまわった頃、本性むき出しの男たちがクレイグに襲いかかる!

ああ、異世界転生なんて碌なもんじゃない

深海めだか
BL
執着美形王子×転生平凡 いきなり異世界に飛ばされて一生懸命働いてたのに顔のいい男のせいで台無しにされる話。安定で主人公が可哀想です。 ⚠︎以下注意⚠︎ 結腸責め/男性妊娠可能な世界線/無理やり表現

【完結】生贄赤ずきんは森の中で狼に溺愛される

おのまとぺ
BL
生まれつき身体が弱く二十歳までは生きられないと宣告されていたヒューイ。そんなヒューイを村人たちは邪魔者とみなして、森に棲まう獰猛な狼の生贄「赤ずきん」として送り込むことにした。 しかし、暗い森の中で道に迷ったヒューイを助けた狼は端正な見た目をした男で、なぜかヒューイに「ここで一緒に生活してほしい」と言ってきて…… ◆溺愛獣人攻め×メソメソ貧弱受け ◆R18は※ ◆地雷要素:受けの女装/陵辱あり(少し)

【完結】ぼくは伴侶たちから溺愛されてます。とても大好きなので、子供を産むことを決めました。

ゆずは
BL
 ぼくの、大好きな二人。  だから、望まれたとおりに子供を宿した。  長男のエリアスは、紫と緑のオッドアイに綺麗な金髪。  次男のイサークは、瞳は空色、髪は輝く銀髪だった。  兄弟なのに全然色が違って、でも、すごく可愛らしい。  ぼくは相変わらずの生活だけれど、どんなことも許せてしまう大好きな二人と、可愛い息子たちに囲まれて、とてもとても幸せな時を過ごしたんだ。  これは、そんなぼくが、幸せな時を過ごすまでの物語。  物語の終わりは、「めでたし、めでたし」。  ハッピーエンドに辿り着くまでの、ぼくの物語。 *R18表現は予告なく入ります。 *7/9完結しました。今後、番外編を更新するかもです。

藤枝蕗は逃げている

木村木下
BL
七歳の誕生日を目前に控えたある日、蕗は異世界へ迷い込んでしまった。十五まで生き延びたものの、育ててくれた貴族の家が襲撃され、一人息子である赤ん坊を抱えて逃げることに。なんとか子供を守りつつ王都で暮らしていた。が、守った主人、ローランは年を経るごとに美しくなり、十六で成人を迎えるころには春の女神もかくやという美しさに育ってしまった。しかも、王家から「末姫さまの忘れ形見」と迎えまで来る。 美形王子ローラン×育て親異世界人蕗 ムーンライトノベルズ様でも投稿しています

【完結】平凡オメガが幼馴染の年下アルファと番うまで。

赤牙
BL
平凡な容姿のオメガのレンは、オメガらしくないと言われ続け自分に自信をなくしていた。 普通の幸せが欲しかっただけなのに、その幸せすらも手にできず卑屈になっていく日々。 そんなレンを揶揄う十歳年下のハヤト。 同じアパートのお隣さんで、腐れ縁のハヤトとレンだったが、ある日を境に一線を越えてしまう。 ハヤトがアルファだと分かり、戸惑うレンはハヤトの幸せをこんな自分が奪ってはいけないと逃げ出してしまう…… 生意気な年下アルファ×ネガティブな平凡オメガのハピエンのお話です。 オメガバースの設定をお借りしています。

悪役手下モブの受難

キログラム
BL
悪役手下のそれまたモブの俺が、今日も美少女戦士ストロベリーにやられてとぼとぼと帰っていると、イケメンに捕まり家に連れ込まれちゃった。 俺の匂いに発情する変態イケメンに付き纏わられる話。 ふんわりファンタジーなので、魔法とか魔力が都合よく出てきます。 R18要素は予告なく入ります。無理矢理表現もありますのでご注意下さい。 毎朝6時投稿。全19話完結しました。 ムーンライトノベルズ様にも投稿してます。

処理中です...