貴方に幸せの花束を

かかし

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中編

ちゃんと、理解してる

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「ら、らぶれたーだ………」

あの青色の手紙を見終わって、僕は顔が真っ赤になるのを感じた。
以前の僕も含めて、生まれて初めてこんな愛の溢れる手紙を貰った。
どうしよう。
誰かと間違えてるのかなと思ったけど、名前をハッキリと書かれてるから間違いないだろう。
でも話したことあるって、一体誰なのだろうか………。

ベッドの上に便箋を広げて、推理してみる。
あ、因みに便箋の色は封筒と同じく淡い青色だった。

まずは【遠くから】って表現と何度も出てくる【許されない】ってワード。
多分なんだけど、この人はご学友候補の子供じゃないのだろうか。
基本的にご学友候補の子はご学友候補の子とのみ交友関係を広げていく。
勿論、学園卒業後にそこから広げていくパターンもあるけど。
でも学園の中に居る時は、王族が優先だ。
一般学生に構ってる暇なんてない。

更に言うなら恋愛とか婚約とか、そういう将来に関わることは尚更ご学友候補の子達同士でやるものだ。
だって、王族に仕える才能が無いものを王族に引き入れる訳にはいかないから。

でもそれを前提にしてしまうと今度はこの手紙はイタズラか、若しくは誰かと勘違いしているかという線が浮上するのだ。

だって僕がこの学園で、或いはこの学園に入学する前に名乗って会話したことあるのは二人だけ。
ドミニク様と、レオナルド王子様だけだ。
でもこの二人は、僕のことをとても嫌っている。
関わってないから嫌われてはないだろうけど好かれる筈がないし、こんなラブレターなんて貰える筈がない。

でもヘクターくんは【危害を加えるものじゃない】と言っていた。
【良いことが書かれている】とも。

だとしたらこれは悪戯じゃない可能性もある訳で………じゃあ、誰なんだろうか?
僕が覚えていないだけで、誰かと話した?
でもご学友候補になる程の人とお話して、覚えてないなんてそんなことある?

じゃあやっぱりそもそもご学友候補じゃないとか?
でもそれなら普通に話し掛けられる筈だ。
同じクラスの子達とは皆話してるし、違うクラスだからって話しかけちゃダメなんて決まりはない。

「どうしたら良いと思う?」
「結局僕に聞いちゃうのか。」
「だってヘクターくんなら助けてくれそうだから。」

暫くうんうん唸ってた僕だけど、結局どうしようもなくなってヘクターくんのスペースに突撃することにした。
甘え過ぎかなとも思ったけど、ベッドに座って本を読んでいたヘクターくんがいつもの笑顔でおいでと呼んでくれたので遠慮なくベッドに腰掛ける。
二人分の体重にベッドが軋んでビックリしたけど、ヘクターくんは何も言わないからそのまま居座ることにした。

「隣に来る?」
「ううん、ここで良い。」

一人用のベッドなのに隣に座っちゃうと狭いだろうから、足元で大人しくしておく。
ヘクターくんは他に何を言う訳じゃなく僕からお手紙を受け取ると、真剣な顔でその手紙を読み始めた。
可愛い垂れ耳が何かに反応してぴくぴくと動いて可愛いと思っちゃうのは、流石に失礼だろうか。

「ねぇ、君はこの手紙はカタルシス様やレオナルド王子ではないって言ってたね。」
「うん。」
「どうしてそう思うの?」

綺麗な琥珀色の瞳が、僕をジッと見つめる。
どうしてって、だって二人は僕のことが嫌いだから。
僕のことを、愛してくれなかったから―――

、そう言ってたの?」

ううん。
でも、分かるよ。
ちゃんと、
ちゃんと、んだ。


「僕はそうは思わない。思ったことは、ないよ。」

沈みそうになる思考が、ヘクターくんの言葉でハッとクリアになる。
もう一度、今度は自分の意思でヘクターくんの瞳を見る。
何でだろう。
さっきはちょっと怖く見えたけど、今は全然平気だ。

「ありがとう。」
「ううん。意地悪してごめんね。ねぇ、お返事は書かないの?」

そう言われてハッとする。
そうだ。
お手紙貰ったんだから、お返事をしないといけない。
誰なのかが分からない以上気持ちにお応え出来ないけど、でもどんな人なのか気になるし………

「でも、どうやってお返事を送ったら良いのかな?」
「僕がなんとかしてあげる。でも、ナイショだよ?」

ヘクターくんはそう言って、僕にお手紙を返してくれた。
何で内緒なんだろうって思うけど、僕は素直に頷いて立ち上がる。
今は取り敢えず、ヘクターくんを信じよう!

「お返事書いてくる!」
「行ってらっしゃい。でも、夜更かしはダメだよ?」
「うん!ありがとう!」

ヘクターくんにお礼を言って、僕は自分のスペースに戻って机から便箋セットを取り出す。
クリーム色の、大量生産品。
それでも僕にとってはちょっとお高い買い物だったそれに、僕は僕の気持ちを綴っていく。
正直とっちらかって見難いだろうとは思う。
でも、是非とも読んで欲しいんだ。

もしかしたら、君を傷付けてしまうのかもしれないけど。
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