貴方に幸せの花束を

かかし

文字の大きさ
上 下
25 / 50
中編

あいをこめて

しおりを挟む
―――夢を、見た。

僕が【何か】に対して子守唄を歌いながら、編み物をしている夢。
何に対してかは、見えない。
でもそれは【物体】であると、僕は理解していた。

『  は、その歌が好きだね。』

【何か】が僕にそう言った。
僕は編み物をする手を止めずに頷く。
その間、歌うのも止めなかった。
まるで【何か】に歌って聞かせるように。

『それは何の歌?』
『子守唄だよ。子供をねかしつける時に歌うんだ。』

僕がそう言えば、【何か】は不思議そうに光を瞬かせた。
何の光かは分からない。
でも何の光か、僕は知っていた。
そんな矛盾した考えを持ったまま、目の前の僕と【何か】の会話を見る。

『では何故それを歌っているの?ここには僕と  しか居ないのに。』
『だからだよ。    に聴かせているんだ。』
『眠らないのに?』

【何か】が不思議そうに僕にそう言った。
僕は穏やかな笑顔でそうだよと頷く。
そんな笑みを浮かべた記憶なんてないのに、でも僕はすんなりと受け入れることが出来た。

『愛しいから、だよ。』

僕が笑う。
【何か】が照れたように光を一瞬だけ強くして、嗚呼、この子は本当に愛しいと思った。
懐かしい愛しさに、涙が出てくる。

『可愛い子にも、歌ってあげたくなるんだ。』
『僕は  なのに、可愛いの?』
『そうだよ。』

編み物をする手を止めて、僕は【何か】を撫でる。
掌から感じるじんわりとした温かさは、血が通っているからではない。
それでも、僕はその温かさが確かに愛しかった。

『可愛くて、愛おしい。    、僕の可愛い    。』

そもそも、【何か】だって僕に撫でられた所で何も感じない。
それでも、僕は愛しいという気持ちの表し方をこれしか分からなかった。
【何か】は何でも知っている。
【何か】はそれこそ、しようと思えばきっと何だって出来る。

『僕達の、可愛い天使。』

それでも、僕は【何か】の為に教えてあげたいと思った。
それでも、僕は【何か】の為になんでもしてあげたいと思った。
だって【何か】は、僕達の愛しい       なんだから。

『………あの人達も、そう思ってる?』
『勿論!』

感情はない筈なのに、【何か】の声はひどく寂しげに聞こえた。
きっと、【彼ら】が忙しくして会いに来れないから、飽きられたのではないかと不安に感じでいるんだろうと思った。
誰も彼もそんな事は感じないと笑うだろうけど、僕はそう思ったんだ。

『  も  も、君を愛してるよ。』
『でも僕は、  だから………』
『それがどうしたの?それでも君は、ここに居るだろう?』

編みかけたセーターをテーブルに置いて、【何か】を抱き締める。
そこに意味なんて無いと、誰もが笑うだろう。
だって、   は何も感じないのだから。
それでも僕は、僕自身のエゴの為に抱き締めた。

『確かに存在する、僕達の愛しい子だ。』

その言葉は何の慰みも持たない。
それは分かっていたけれど、それでも少しでも【この子】に伝われば良いと思った。
僕のエゴも、愛も、何もかも。

『………  。』
『なぁに?』
『もう一度、歌ってほしい………』
『うん、いいよ。可愛い子。』

僕の持ち得る、全ての感情を込めて。
僕は歌う。
誰も眠らない子守唄を。


























ハロー、ハロー

君の愛を、献身を
ある人はままごとだと嘲笑い
ある人はただの自己愛だと蔑んだ

ハロー、ハロー

それでも君は笑ったね
それでも良いと
本当に分かって欲しい人だけ、分かれば良いんだって
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

花開かぬオメガの花嫁

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
帝国には献上されたΩが住むΩ宮という建物がある。その中の蕾宮には、発情を迎えていない若いΩや皇帝のお渡りを受けていないΩが住んでいた。異国から来た金髪緑眼のΩ・キーシュも蕾宮に住む一人だ。三十になり皇帝のお渡りも望めないなか、あるαに下賜されることが決まる。しかしキーシュには密かに思う相手がいて……。※他サイトにも掲載 [高級官吏の息子α × 異国から来た金髪緑眼Ω / BL / R18]

『結婚間近』で騎士団長たる私が部下たちのオナホなんかになるわけないっ!

雲丹はち
BL
婚約者との結婚間近となった騎士団長クレイグが着任したのは、素行の悪さで有名な第七騎士団だった。 しかし就任後、部下たちの態度はとても友好的で……? 歓迎会で酔いがまわった頃、本性むき出しの男たちがクレイグに襲いかかる!

ああ、異世界転生なんて碌なもんじゃない

深海めだか
BL
執着美形王子×転生平凡 いきなり異世界に飛ばされて一生懸命働いてたのに顔のいい男のせいで台無しにされる話。安定で主人公が可哀想です。 ⚠︎以下注意⚠︎ 結腸責め/男性妊娠可能な世界線/無理やり表現

【完結】平凡オメガが幼馴染の年下アルファと番うまで。

赤牙
BL
平凡な容姿のオメガのレンは、オメガらしくないと言われ続け自分に自信をなくしていた。 普通の幸せが欲しかっただけなのに、その幸せすらも手にできず卑屈になっていく日々。 そんなレンを揶揄う十歳年下のハヤト。 同じアパートのお隣さんで、腐れ縁のハヤトとレンだったが、ある日を境に一線を越えてしまう。 ハヤトがアルファだと分かり、戸惑うレンはハヤトの幸せをこんな自分が奪ってはいけないと逃げ出してしまう…… 生意気な年下アルファ×ネガティブな平凡オメガのハピエンのお話です。 オメガバースの設定をお借りしています。

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

夜毎僕を抱く旦那様には偽りだけしか残されていない

あんみつ~白玉をそえて~
BL
読み切り短編BLです

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

悪役手下モブの受難

キログラム
BL
悪役手下のそれまたモブの俺が、今日も美少女戦士ストロベリーにやられてとぼとぼと帰っていると、イケメンに捕まり家に連れ込まれちゃった。 俺の匂いに発情する変態イケメンに付き纏わられる話。 ふんわりファンタジーなので、魔法とか魔力が都合よく出てきます。 R18要素は予告なく入ります。無理矢理表現もありますのでご注意下さい。 毎朝6時投稿。全19話完結しました。 ムーンライトノベルズ様にも投稿してます。

処理中です...