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魔人襲来編
束の間の日常
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「いや……あの、ノエルさん? その足元に用意されている三本の丸太はいったいどういう……」
「……アキラなら、もう三本は、いける」
「いや、待て、待つんだノエル。俺はこのとおり既に両腕に丸太を二本ずつ抱えているわけで、これにプラス三本ってなるといくら俺が付与術で身体強化を出来るとは言っても流石に無理が……」
「―――いける……よ、ね?」
「……………」
「……………」
見つめ合う彰とノエル。
場を満たすのは重い沈黙。
彰の額からは一筋の滴が滲み出るように流れ落ちる。
彰は思わず逃げ出したい衝動に駆られるが、ノエルの無言の眼差しがそれを許さない。
もしもここで無理に逃走することを選択したとすれば、後でいったいどんな目にあわされるかわからないということを彰は直感で悟っているのだ。
正直、彰としては後のお仕置きの方が恐ろしくてたまらない。
確かに、途中作業そっちのけで修行に勤しんでしまった自分に非が無いとは言えないだろう。
しかし、丸太七本を人間一人で運ぶのはどう考えても物理的に不可能だし、いくら何でもあんまりだ。
流石にこれはやりすぎではなかろうかと思うし、そもそも、いくら彰といえども腕は二本しかない。
人二人分はあるような大きさの丸太を四本抱えているだけでも異常なのに、流石にこの倍に近い数となればどう足掻いても持ちようがなかった。
とはいえこのまま見つめ合っていても仕方がない。
彰はやむを得ないと、直ぐに往復して残りの四本を運びに戻ってくるという内容で、ノエルと交渉をしようとし、
「あっいたいた!! お~い、アキラぁ~~、ボク差し入れを作って来たんだけど―――」
「―――戦略的撤退ッ!!」
―――背後から迫る死の宣告に迷うことなく逃走を選択した。
彰は瞬間雷化にて一瞬にしてリンの背後まで躍り出ると、高速化を付与、全力の撤退を開始する。
(ふッざけんな!! なんだあれッ!? なんか紫色の毒々しい煙が出てんぞ!? しかも色がなんか赤黒い上にぶくぶく泡立っているし、いったい何をしたらあんな暗黒物質が生成されるんだッ!?)
確かに、この場から逃げてノエルの報復を受けることは怖い。
だが、だ。あれを食べることと比べたら報復の方がまだましだ。
間違いない。彰には確信があった。
リンの持ってきた差し入れを食べたが最後、自分に命の保証は無いという確信が……。
「待ってよアキラ!! どうして逃げるのさ!! ボクが丹精込めて作ったこの差し入れをどうして食べてくれないの!?」
「ふざけるな!! リン、お前が込めたのは丹精じゃなくて魔力だろうがッ!! なんで魔法の出力制御は出来るようになったのに事料理となると火加減間違えまくるんだよ!! 見ろそれッ!! もはや焦げるの通り越して溶けだしたマグマみたいになってるじゃねぇかっ!?」
「あ、ばれちゃった? えへへ♪ ちょっと愛情込めすぎちゃって……きゃッ♪」
「やかましいわッ!! んなもん見りゃわかるにきまってんだろうがッ!?」
彰は丸太を四本抱えたまま、タール村へ向けて脱兎のごとく駆けていく。
それは彼の付与術があって初めて出来る離れ業だ。
彼の持つ付与術は丸太を四本両肩に抱えた彼に軽々と馬を超える速度での踏破を可能とさせていた。
しかし、リンも負けてはいない。
彼女も毒々しい名状しがたい差し入れのようなものを片手に持ちながら、≪小規模爆発≫による加速を利用して彰に追いすがっている。
それはしょうもない理由で行われる、凄まじくハイレベルな鬼ごっこだった。
もっとも、彰にとっては命がけではあるのだが。
だが、そこに、
「……アキラ、どうせ行くならこの丸太も持って行かなきゃだめ」
丸太三本を担いだノエルが≪超過駆動≫を駆使し、凄まじい速度で追いすがって来る。
「ノエルっ!? お前そこまでするかっ!? ってか、ここまでそうして持ってこれてるんだったらそのままその三本はノエルが村まで運べば済む話なんじゃ……」
「……か弱い私には、アキラが何を言っているのか、理解できない」
「ノエルさん? 気づいてるとは思うけどその発言、俺の言葉を理解してないと出てこない発言だからね?
てか、丸太三本抱えて走れる女の子がか弱いとか冗談も大概に―――」
「―――刈り取る」
「ちょっと待てノエルっ!? お前今なんてったっ!? 刈り取るって言ったか!? あなたはいったい俺の何を刈り取るつもりなのかなっ!?」
「……問答無用」
「弁明の余地すらもないっ!? うぉぉおおお、絶対に捕まってたまるかぁぁああ!!」
そうして三人は森の中をタール村目指して異常な速度で駆け抜けていく。
とはいえ三人は別に遊んでいるわけではない。
若干二名はともかく、少なくとも彰はれっきとした仕事中だ。
魔人アドラメレクとの戦いから三日ほど、タール村は現在戻ってきた村人総出での復興作業の待っ最中。
そんな中、貴重な男手である彰が治りかけとはいえ休んでいるはずも無く、当然の如く復興作業を手伝っていた。
今も森から資材を調達し、タール村へと運ぶ作業を行っていた。丸太を抱えていたのはそのためだ。
人手の限られているこの村において、力仕事をこなせる彼らは貴重な労働力となっていた。
もっとも、リンに関しては力はあまりなかったために要所で魔法を使った補助を行ったり、それ以外の細々としたサポートを行う役目へと回っていたりする(サポート役へ回ることと、実際に完璧にサポートできるかどうかはまた別の話)。
とにかく、彼らはひとまずそうして平穏な日々を過ごしていたのだった。
だが、まったくもって彰を取り巻く状況は平穏ではない。
というか笑えない。
何しろ自身を追っ手くる二人のうち、方や限界を超えた労働を課そうとしてくるし、方や劇物を無理矢理口に入れようとしてくる凶悪っぷりだ。追い付かれればいよいよ命が危ない。
しかし、彰も伊達に彼女らの指導役を請け負っていた身ではない。
いくら彼女達が各々の異なった自らの成長の仕方を見つけ、その道を突き進むことで日々その力を伸ばしているのだとしても、彰にはそれを上回るものが未だ確かに存在する。
先行きも真っ暗ではない。何しろ終わりは見えている。
彼女らとて、村の中まで入ってしまえばこんなふざけたことはやめざる負えないはずだ。
何しろ先に言った通り、タール村は復興作業の真っ最中。
村の中に入ってまでそんな場違いなはしゃぎ方はしてこない……はずだ。
(あいつらも流石に常識くらいはわきまえているはず。なら、このままいけば俺は間違いなく逃げ切れる。あいつらも成長はしているが、それは俺も例外じゃないんだ。今の俺なら村まで逃げ切るくらいは造作も無いはず……ッ)
自分の常識の無さを棚に上げて思考を固めた彰は速度を落とすことなく森を駆け抜けていく。
このままこの速度で駆け抜けていけば、自分はそのまま村へと飛び込んで逃げ切れる。
……そのはずだった。
しかし、それはあくまで道中何もなければという話。
もしも、もしもその行く手に、村の外、さほど離れた場所ではない所で、広い土地を利用して遊んでいる子供達がいたとすれば。
その前提条件は軽々と覆される。
やむを得ず、彰は子ども達に被害が出ないギリギリの速度を保ちながら村へと近づいていくが、
「あ、アキラお兄ちゃんだ!! お~~い、アキラお兄ちゃ~~ん」
「あ、アキラお兄ちゃんですぅ~」
「あっアキラ兄ちゃんじゃねぇかっ!!
ちょっと俺らと遊んでけよ!」
『遊んでけ~』
『遊んでく~』
『遊ばれろ~』
「ちょッばかッ今は悪いがお前らに構ってる場合じゃ―――ってかおいッ誰だ、今ちゃっかり人の事玩具にしようとした奴ッ!?」
かくして、完成したエマを筆頭とした子ども達の包囲網。
正直、ある意味ではかなり手強い。
突破することは容易いが、自分の速度を考えると子ども達に万が一が無いとは言えない。
超えることも、突き抜けることも許されない、完全無欠の包囲網。
端的に言えば遊び相手を見つけた子ども達の純粋な心がゴールを目前とした彰の前に立ちはだかる。
結果として彰は安全地帯を目前に、その足を止めさせられてしまった。
「ふふ、ちょっと遊ばせてよアキラお兄ちゃん!!」
「えへへ、堪忍してくださいですぅ、アキラお兄ちゃん~~」
「そうだそうだ、諦めて俺達に遊ばれやがれぇ~」
『遊ばれやがれぇ~~~』
「あわわわわ、結局お前ら全員俺の事を玩具にする気満々じゃねぇかっ!?
って、っちょ、待て、頼むから待ってくれ、後でたっぷり遊んでも遊ばれてもやるからッ!!
今はとにかく俺を―――」
「俺をどうしてくれっていうのかな? アキラぁ~~」
「……逃がすとでも、思った?」
「………………」
振り返りたくない。
振り返れば間違いなく絶望が待っている。
だが、振り返らなくても絶望はやってくる。
なら、せめて襲い来る絶望がどんなものなのか、この目で確認しておく方が、衝撃は和らげられるだろう。
彰は覚悟を決めて、流れる冷や汗と戦いながら“ギギギギギ”と、まるで古びたブリキの玩具のように首を回して、笑顔のエルフと、無言で禍々しいオーラを放つ猫耳と向かい合った。
「あ、あああ……」
「アキラ、結局ここまでもってこさせられた。か弱い乙女にはもう辛い。アキラには私の分も丸太を運んでもらう必要がある」
「アキラにはこれから頑張ってもらうためにも、差し入れを食べて元気になってもらわないといけないよね?」
「あわわわわわ、た、助け―――」
「……ごめんね、アキラにはまだ仕事がある。あとで貸し出すから、我慢して」
「ささ、アキラはこれでも食べて食べて~~♪」
「ふごッ!!? ふがッ!?!?!?!! おぼぼぼぼぼッッッッッ」
結局、捕まった彰は運んだ丸太をその場において、再び劇物を口にねじ込まれながら、笑顔の二人に両脇を固められて森の奥へと引き摺られていった。
◆◇◆◇
「し、死ぬかと思った……いや、むしろ何回か死んだ気がする……」
「……目を離すとサボる、アキラが悪い、よ。勝手にいなくなると、不安になる……」
「そうそう~~それに素直にボクの差し入れも食べてくれないからいけないんだよ~」
日も落ち始めた頃、今日の作業を終えた彰は両脇を巨乳ボクっ娘エルフと無口系猫耳少女に抱えられて帰宅するという羨まシチュエーションの中にいた。
おそらく、彼の元の世界の男達が今の彼の姿を見れば問答無用で殴りかかっていたであろうことに間違いはない。
しかし、そんな状況の渦中にいる当の青年はというと、非常にくたびれた様子で為すがままにされていた。
彼はもしもそんな状況に晒されていたならこう言ったことだろう。
羨ましいと思うなら俺と同じ目に会ってから言いやがれ、と。
それほどまでに彼は凄まじい目にあってきたのだ。
人二人分はある丸太を十本以上同時に運び、疲れた体には一口食せば舌が物理的に溶けるような味と共に天への招待状が手に入るような劇物を与えられる。
端的に言えば、そりゃもう地獄だったのだ。
いくら頑丈なアキラと言えど、流石にぐったりもするだろう。
しかし、そんな疲れ果てた彰を他所に、両サイドに構える巨乳ボクっ娘エルフと無口系猫耳少女は問答を続けていく。
「……リンのあれは劇物。流石に私も見ていて心苦しかった……」
「あれぇ!? 今日は共同戦線な感じだったのに一瞬で手のひらを返されちゃったよ!?
そもそも、料理の腕に関してはノエルちゃんも私と大差ないはずだよねッ!?」
「……私は既に潔く諦めた。私にその方向の才能は無い。
むしろ私は食べる専門。具体的には一生アキラの手料理食べられれば、将来安泰、問題なし」
「身勝手な発言なのにさりげなく養ってもらうアピールが含まれている!? むむむ、やるなぁ~ノエルちゃん、これはボクも負けていられないよぉ……」
「……大丈夫、リンも発想は悪くない。目的は同じ、共に頑張ろう。……勝つのは私だけど……」
「うん!! そうだねノエルちゃん!! 一緒に頑張ろう!! ……勝つのはボクだけど」
人を間に挟みながら、何やらバチバチし始める二人。
正直、間に挟まれている彰としてはたまったものでは無い。
彰は無意味と知りつつも、間から二人にささやかな主張を行う。
「あの~人を挟んでバチバチするのやめてくれますかね?
俺も流石に今日は疲れたから休みたいわけで……。
というかそのバトル、どこにも当事者の俺の意見が盛り込まれていないんだけども、そこのところは大丈夫?」
「………………」
「………………」
彰の言葉に、自らの言動を振り返ったのか黙する二人。
ようやく自分の言葉が伝わったのかと、彰は安堵の息と共に、二人の間から抜け出そうとし、
『―――ぐぬぬぬぬ~~~~ッ』
「―――勝手に再戦しないで俺の話を聞いてッ!?」
再びバチバチし始めた二人に脱出を阻まれてしまった。
結局、彰のささやかな主張は何の意味も為していなかったらしい。
そのことに彰は更に疲れを覚えてしまう。
女子の戦いの前では男の立場とは斯くも悲しいものなのか。
「ふふふ、アキラは随分好かれているのねぇ~これはエマも大変かしら? うふふ」
「マリナさんも見てないで助けてくれよ……」
「え~、いいじゃない。モテモテで~、持てるのはアキラがいい男だって証拠よ?」
「いやいやからかわないでくれよ、マリナさん。これはモテてるっていうより弄ばれてるって方が正確だって……」
「あらあら、うふふ。これはちょっと面白いことになっているわね」
「……マリナさん?」
「あ、いえいえなんでもないわ。まぁ頑張ってね?」
「そんな人事みたいに……当事者の苦労も分かってくれよ……はぁ……」
彼の両サイドを陣取る二人は彼そっちのけでバチバチし続けている。
頼みの綱だったマリナは状況を見て微笑んでいるだけで助けてくれる様子はない。
仕方なく、先のやり取りで言葉での抵抗は無意味だと悟っていた彰は、なんとか自力でバチバチする二人の間から抜け出すと、巻き込まれないように少し離れて様子を見守ることにする。
するとそこに、
「お帰りなさい! アキラお兄ちゃん!!」
第三者、純真村娘こと、エマが果敢に乱入してくる。
エマは彰を見つけると、名前を呼びながら嬉しそうに抱き着いてきた。
彰は無垢な少女の笑顔に荒んだ心が癒されるような思いを抱きながら、笑顔でエマを抱きかかえる。
「お、エマか! ただいま~、今日は遊んでやれなくてごめんな?」
「ううん大丈夫!! また今度遊んでね! みんなも遊びたがってたから―! 私とは今遊んでくれれば大丈夫だよ!!」
「そっか、今度あいつらとも遊んでやるかぁ~、まぁどっちが遊ばれてるのかはわからないんだが。
で、何して遊びたいんだエマ?」
「う~ん、おままごと!! 私がお母さんでアキラお兄ちゃんがお父さん!!」
「え、夫婦なのか? むしろ兄妹のが無難な気もするけど……」
「む~~いいのッ!! 私がママでアキラお兄ちゃんがパパ!! ハイ決定、異論は認めないんだもん!!」
「ああ、ああ、わかったわかった。ったく、しょうがねぇなぁ……」
そう言いながら二人は楽し気に奥の部屋へと消えていった。
マリナは少しの驚きと共にそれを見送る。
正直、ノエルとリンは可愛い。美少女と言って全く問題が無い二人だ。
あの二人が相手となると、娘の恋路は楽な道ではないだろうな~と、マリナは思っていたのだが、あの二人を出し抜いてあっさりと彰を連れ出すところを見ると、そうそう負けてはいないのかもしれないな~と、彼女は思わず感心してしまっていた。
もっとも、エマが優れているというよりも、単に二人が間抜けなだけなのかもしれないが。
「あらあら、うちの娘も負けてないわねぇ……これは孫の顔を見れる日も遠くないかしら?」
「孫ッ!? 許さんぞっ!! エマはずっと私の娘だ!! 嫁にはやらん!!」
「ふふふ、あなたはちょっと黙っていて下さいね?」
「ふぐッ……」
嫁という単語を聞きつけて、他の部屋から顔を出したエリックがマリナによって一瞬で黙らされたところで、ようやく言い合いをしていたノエルとリンが彰の不在に気づいた。
「……む、しまった。また無駄乳と話していたせいで幼女にアキラを奪われた……不覚」
「だから無駄乳って言わないでッ!? 無駄じゃないよ!!」
「……邪魔乳」
「邪魔でもっ……無いとは言い切れないけど……でも、でもぉ~~」
「(むっ、邪魔なら私にくれればいいのに……)」
「えっ? ノエルちゃん今なんて―――」
「とにかく、今はリンに構ってる場合じゃない。私はアキラを追う。
アキラは私のパートナー、誰にも絶対渡さない、よ」
「ボ、ボクだってアキラの……その……あの……あああ、もうっ!! 待ってよノエルちゃん~、ボクも行くよぉ~~!!」
慌てて彰とエマの後を二人が追う。
その姿を心なしか落ち込んだエリックを宥めながら、マリナが優しい目線で見守っていた。
「うふふ、私たちの息子はモテモテねぇ~~、これはあの子も苦労しそうね、あなた?」
「ふっ、私たちの息子なのだからそれぐらいでなければ困るさ。―――だが、エマは」
「―――お黙りなさい、あなた? うふふふ……」
「はぐっ……」
そうしてマリナはエリックの心を再び抉ると、夕飯の仕度を始めた。
―――これが彰が目を覚ましてからの数日間、彼らがすごしている日常だ。
彰が目を覚まして直ぐにタール村から逃げ出した面々は村に帰ってきた。
彼ら曰く、三人を彰に託したものの、結局三人と彰が心配になり、みんなで戻ってきたとのこと。
そうして、ようやく覚悟を決めて戻ってきたところ、そこには既に魔人や魔物姿もマリナや彰達の姿も無かった。
慌てた彼らが急いで彰達を探したところ、無事に残っていたマリナの家に人気あり、そこでようやく事態の確認ができたということらしい。
それからは魔物たちによってかなりの被害を受けてしまった村を立て直すべく、連日村人総出の復興作業が行われている。
もっとも、それも彰達一行の協力があったおかげで恐ろしい速度で進んでおり、村は以前の通りとはいかないまでも、殆どそれに近い光景は取り戻している。
おそらくこの復興作業も数日中には終わるであろう。
故に―――決断の時は近づいていた。
「……アキラなら、もう三本は、いける」
「いや、待て、待つんだノエル。俺はこのとおり既に両腕に丸太を二本ずつ抱えているわけで、これにプラス三本ってなるといくら俺が付与術で身体強化を出来るとは言っても流石に無理が……」
「―――いける……よ、ね?」
「……………」
「……………」
見つめ合う彰とノエル。
場を満たすのは重い沈黙。
彰の額からは一筋の滴が滲み出るように流れ落ちる。
彰は思わず逃げ出したい衝動に駆られるが、ノエルの無言の眼差しがそれを許さない。
もしもここで無理に逃走することを選択したとすれば、後でいったいどんな目にあわされるかわからないということを彰は直感で悟っているのだ。
正直、彰としては後のお仕置きの方が恐ろしくてたまらない。
確かに、途中作業そっちのけで修行に勤しんでしまった自分に非が無いとは言えないだろう。
しかし、丸太七本を人間一人で運ぶのはどう考えても物理的に不可能だし、いくら何でもあんまりだ。
流石にこれはやりすぎではなかろうかと思うし、そもそも、いくら彰といえども腕は二本しかない。
人二人分はあるような大きさの丸太を四本抱えているだけでも異常なのに、流石にこの倍に近い数となればどう足掻いても持ちようがなかった。
とはいえこのまま見つめ合っていても仕方がない。
彰はやむを得ないと、直ぐに往復して残りの四本を運びに戻ってくるという内容で、ノエルと交渉をしようとし、
「あっいたいた!! お~い、アキラぁ~~、ボク差し入れを作って来たんだけど―――」
「―――戦略的撤退ッ!!」
―――背後から迫る死の宣告に迷うことなく逃走を選択した。
彰は瞬間雷化にて一瞬にしてリンの背後まで躍り出ると、高速化を付与、全力の撤退を開始する。
(ふッざけんな!! なんだあれッ!? なんか紫色の毒々しい煙が出てんぞ!? しかも色がなんか赤黒い上にぶくぶく泡立っているし、いったい何をしたらあんな暗黒物質が生成されるんだッ!?)
確かに、この場から逃げてノエルの報復を受けることは怖い。
だが、だ。あれを食べることと比べたら報復の方がまだましだ。
間違いない。彰には確信があった。
リンの持ってきた差し入れを食べたが最後、自分に命の保証は無いという確信が……。
「待ってよアキラ!! どうして逃げるのさ!! ボクが丹精込めて作ったこの差し入れをどうして食べてくれないの!?」
「ふざけるな!! リン、お前が込めたのは丹精じゃなくて魔力だろうがッ!! なんで魔法の出力制御は出来るようになったのに事料理となると火加減間違えまくるんだよ!! 見ろそれッ!! もはや焦げるの通り越して溶けだしたマグマみたいになってるじゃねぇかっ!?」
「あ、ばれちゃった? えへへ♪ ちょっと愛情込めすぎちゃって……きゃッ♪」
「やかましいわッ!! んなもん見りゃわかるにきまってんだろうがッ!?」
彰は丸太を四本抱えたまま、タール村へ向けて脱兎のごとく駆けていく。
それは彼の付与術があって初めて出来る離れ業だ。
彼の持つ付与術は丸太を四本両肩に抱えた彼に軽々と馬を超える速度での踏破を可能とさせていた。
しかし、リンも負けてはいない。
彼女も毒々しい名状しがたい差し入れのようなものを片手に持ちながら、≪小規模爆発≫による加速を利用して彰に追いすがっている。
それはしょうもない理由で行われる、凄まじくハイレベルな鬼ごっこだった。
もっとも、彰にとっては命がけではあるのだが。
だが、そこに、
「……アキラ、どうせ行くならこの丸太も持って行かなきゃだめ」
丸太三本を担いだノエルが≪超過駆動≫を駆使し、凄まじい速度で追いすがって来る。
「ノエルっ!? お前そこまでするかっ!? ってか、ここまでそうして持ってこれてるんだったらそのままその三本はノエルが村まで運べば済む話なんじゃ……」
「……か弱い私には、アキラが何を言っているのか、理解できない」
「ノエルさん? 気づいてるとは思うけどその発言、俺の言葉を理解してないと出てこない発言だからね?
てか、丸太三本抱えて走れる女の子がか弱いとか冗談も大概に―――」
「―――刈り取る」
「ちょっと待てノエルっ!? お前今なんてったっ!? 刈り取るって言ったか!? あなたはいったい俺の何を刈り取るつもりなのかなっ!?」
「……問答無用」
「弁明の余地すらもないっ!? うぉぉおおお、絶対に捕まってたまるかぁぁああ!!」
そうして三人は森の中をタール村目指して異常な速度で駆け抜けていく。
とはいえ三人は別に遊んでいるわけではない。
若干二名はともかく、少なくとも彰はれっきとした仕事中だ。
魔人アドラメレクとの戦いから三日ほど、タール村は現在戻ってきた村人総出での復興作業の待っ最中。
そんな中、貴重な男手である彰が治りかけとはいえ休んでいるはずも無く、当然の如く復興作業を手伝っていた。
今も森から資材を調達し、タール村へと運ぶ作業を行っていた。丸太を抱えていたのはそのためだ。
人手の限られているこの村において、力仕事をこなせる彼らは貴重な労働力となっていた。
もっとも、リンに関しては力はあまりなかったために要所で魔法を使った補助を行ったり、それ以外の細々としたサポートを行う役目へと回っていたりする(サポート役へ回ることと、実際に完璧にサポートできるかどうかはまた別の話)。
とにかく、彼らはひとまずそうして平穏な日々を過ごしていたのだった。
だが、まったくもって彰を取り巻く状況は平穏ではない。
というか笑えない。
何しろ自身を追っ手くる二人のうち、方や限界を超えた労働を課そうとしてくるし、方や劇物を無理矢理口に入れようとしてくる凶悪っぷりだ。追い付かれればいよいよ命が危ない。
しかし、彰も伊達に彼女らの指導役を請け負っていた身ではない。
いくら彼女達が各々の異なった自らの成長の仕方を見つけ、その道を突き進むことで日々その力を伸ばしているのだとしても、彰にはそれを上回るものが未だ確かに存在する。
先行きも真っ暗ではない。何しろ終わりは見えている。
彼女らとて、村の中まで入ってしまえばこんなふざけたことはやめざる負えないはずだ。
何しろ先に言った通り、タール村は復興作業の真っ最中。
村の中に入ってまでそんな場違いなはしゃぎ方はしてこない……はずだ。
(あいつらも流石に常識くらいはわきまえているはず。なら、このままいけば俺は間違いなく逃げ切れる。あいつらも成長はしているが、それは俺も例外じゃないんだ。今の俺なら村まで逃げ切るくらいは造作も無いはず……ッ)
自分の常識の無さを棚に上げて思考を固めた彰は速度を落とすことなく森を駆け抜けていく。
このままこの速度で駆け抜けていけば、自分はそのまま村へと飛び込んで逃げ切れる。
……そのはずだった。
しかし、それはあくまで道中何もなければという話。
もしも、もしもその行く手に、村の外、さほど離れた場所ではない所で、広い土地を利用して遊んでいる子供達がいたとすれば。
その前提条件は軽々と覆される。
やむを得ず、彰は子ども達に被害が出ないギリギリの速度を保ちながら村へと近づいていくが、
「あ、アキラお兄ちゃんだ!! お~~い、アキラお兄ちゃ~~ん」
「あ、アキラお兄ちゃんですぅ~」
「あっアキラ兄ちゃんじゃねぇかっ!!
ちょっと俺らと遊んでけよ!」
『遊んでけ~』
『遊んでく~』
『遊ばれろ~』
「ちょッばかッ今は悪いがお前らに構ってる場合じゃ―――ってかおいッ誰だ、今ちゃっかり人の事玩具にしようとした奴ッ!?」
かくして、完成したエマを筆頭とした子ども達の包囲網。
正直、ある意味ではかなり手強い。
突破することは容易いが、自分の速度を考えると子ども達に万が一が無いとは言えない。
超えることも、突き抜けることも許されない、完全無欠の包囲網。
端的に言えば遊び相手を見つけた子ども達の純粋な心がゴールを目前とした彰の前に立ちはだかる。
結果として彰は安全地帯を目前に、その足を止めさせられてしまった。
「ふふ、ちょっと遊ばせてよアキラお兄ちゃん!!」
「えへへ、堪忍してくださいですぅ、アキラお兄ちゃん~~」
「そうだそうだ、諦めて俺達に遊ばれやがれぇ~」
『遊ばれやがれぇ~~~』
「あわわわわ、結局お前ら全員俺の事を玩具にする気満々じゃねぇかっ!?
って、っちょ、待て、頼むから待ってくれ、後でたっぷり遊んでも遊ばれてもやるからッ!!
今はとにかく俺を―――」
「俺をどうしてくれっていうのかな? アキラぁ~~」
「……逃がすとでも、思った?」
「………………」
振り返りたくない。
振り返れば間違いなく絶望が待っている。
だが、振り返らなくても絶望はやってくる。
なら、せめて襲い来る絶望がどんなものなのか、この目で確認しておく方が、衝撃は和らげられるだろう。
彰は覚悟を決めて、流れる冷や汗と戦いながら“ギギギギギ”と、まるで古びたブリキの玩具のように首を回して、笑顔のエルフと、無言で禍々しいオーラを放つ猫耳と向かい合った。
「あ、あああ……」
「アキラ、結局ここまでもってこさせられた。か弱い乙女にはもう辛い。アキラには私の分も丸太を運んでもらう必要がある」
「アキラにはこれから頑張ってもらうためにも、差し入れを食べて元気になってもらわないといけないよね?」
「あわわわわわ、た、助け―――」
「……ごめんね、アキラにはまだ仕事がある。あとで貸し出すから、我慢して」
「ささ、アキラはこれでも食べて食べて~~♪」
「ふごッ!!? ふがッ!?!?!?!! おぼぼぼぼぼッッッッッ」
結局、捕まった彰は運んだ丸太をその場において、再び劇物を口にねじ込まれながら、笑顔の二人に両脇を固められて森の奥へと引き摺られていった。
◆◇◆◇
「し、死ぬかと思った……いや、むしろ何回か死んだ気がする……」
「……目を離すとサボる、アキラが悪い、よ。勝手にいなくなると、不安になる……」
「そうそう~~それに素直にボクの差し入れも食べてくれないからいけないんだよ~」
日も落ち始めた頃、今日の作業を終えた彰は両脇を巨乳ボクっ娘エルフと無口系猫耳少女に抱えられて帰宅するという羨まシチュエーションの中にいた。
おそらく、彼の元の世界の男達が今の彼の姿を見れば問答無用で殴りかかっていたであろうことに間違いはない。
しかし、そんな状況の渦中にいる当の青年はというと、非常にくたびれた様子で為すがままにされていた。
彼はもしもそんな状況に晒されていたならこう言ったことだろう。
羨ましいと思うなら俺と同じ目に会ってから言いやがれ、と。
それほどまでに彼は凄まじい目にあってきたのだ。
人二人分はある丸太を十本以上同時に運び、疲れた体には一口食せば舌が物理的に溶けるような味と共に天への招待状が手に入るような劇物を与えられる。
端的に言えば、そりゃもう地獄だったのだ。
いくら頑丈なアキラと言えど、流石にぐったりもするだろう。
しかし、そんな疲れ果てた彰を他所に、両サイドに構える巨乳ボクっ娘エルフと無口系猫耳少女は問答を続けていく。
「……リンのあれは劇物。流石に私も見ていて心苦しかった……」
「あれぇ!? 今日は共同戦線な感じだったのに一瞬で手のひらを返されちゃったよ!?
そもそも、料理の腕に関してはノエルちゃんも私と大差ないはずだよねッ!?」
「……私は既に潔く諦めた。私にその方向の才能は無い。
むしろ私は食べる専門。具体的には一生アキラの手料理食べられれば、将来安泰、問題なし」
「身勝手な発言なのにさりげなく養ってもらうアピールが含まれている!? むむむ、やるなぁ~ノエルちゃん、これはボクも負けていられないよぉ……」
「……大丈夫、リンも発想は悪くない。目的は同じ、共に頑張ろう。……勝つのは私だけど……」
「うん!! そうだねノエルちゃん!! 一緒に頑張ろう!! ……勝つのはボクだけど」
人を間に挟みながら、何やらバチバチし始める二人。
正直、間に挟まれている彰としてはたまったものでは無い。
彰は無意味と知りつつも、間から二人にささやかな主張を行う。
「あの~人を挟んでバチバチするのやめてくれますかね?
俺も流石に今日は疲れたから休みたいわけで……。
というかそのバトル、どこにも当事者の俺の意見が盛り込まれていないんだけども、そこのところは大丈夫?」
「………………」
「………………」
彰の言葉に、自らの言動を振り返ったのか黙する二人。
ようやく自分の言葉が伝わったのかと、彰は安堵の息と共に、二人の間から抜け出そうとし、
『―――ぐぬぬぬぬ~~~~ッ』
「―――勝手に再戦しないで俺の話を聞いてッ!?」
再びバチバチし始めた二人に脱出を阻まれてしまった。
結局、彰のささやかな主張は何の意味も為していなかったらしい。
そのことに彰は更に疲れを覚えてしまう。
女子の戦いの前では男の立場とは斯くも悲しいものなのか。
「ふふふ、アキラは随分好かれているのねぇ~これはエマも大変かしら? うふふ」
「マリナさんも見てないで助けてくれよ……」
「え~、いいじゃない。モテモテで~、持てるのはアキラがいい男だって証拠よ?」
「いやいやからかわないでくれよ、マリナさん。これはモテてるっていうより弄ばれてるって方が正確だって……」
「あらあら、うふふ。これはちょっと面白いことになっているわね」
「……マリナさん?」
「あ、いえいえなんでもないわ。まぁ頑張ってね?」
「そんな人事みたいに……当事者の苦労も分かってくれよ……はぁ……」
彼の両サイドを陣取る二人は彼そっちのけでバチバチし続けている。
頼みの綱だったマリナは状況を見て微笑んでいるだけで助けてくれる様子はない。
仕方なく、先のやり取りで言葉での抵抗は無意味だと悟っていた彰は、なんとか自力でバチバチする二人の間から抜け出すと、巻き込まれないように少し離れて様子を見守ることにする。
するとそこに、
「お帰りなさい! アキラお兄ちゃん!!」
第三者、純真村娘こと、エマが果敢に乱入してくる。
エマは彰を見つけると、名前を呼びながら嬉しそうに抱き着いてきた。
彰は無垢な少女の笑顔に荒んだ心が癒されるような思いを抱きながら、笑顔でエマを抱きかかえる。
「お、エマか! ただいま~、今日は遊んでやれなくてごめんな?」
「ううん大丈夫!! また今度遊んでね! みんなも遊びたがってたから―! 私とは今遊んでくれれば大丈夫だよ!!」
「そっか、今度あいつらとも遊んでやるかぁ~、まぁどっちが遊ばれてるのかはわからないんだが。
で、何して遊びたいんだエマ?」
「う~ん、おままごと!! 私がお母さんでアキラお兄ちゃんがお父さん!!」
「え、夫婦なのか? むしろ兄妹のが無難な気もするけど……」
「む~~いいのッ!! 私がママでアキラお兄ちゃんがパパ!! ハイ決定、異論は認めないんだもん!!」
「ああ、ああ、わかったわかった。ったく、しょうがねぇなぁ……」
そう言いながら二人は楽し気に奥の部屋へと消えていった。
マリナは少しの驚きと共にそれを見送る。
正直、ノエルとリンは可愛い。美少女と言って全く問題が無い二人だ。
あの二人が相手となると、娘の恋路は楽な道ではないだろうな~と、マリナは思っていたのだが、あの二人を出し抜いてあっさりと彰を連れ出すところを見ると、そうそう負けてはいないのかもしれないな~と、彼女は思わず感心してしまっていた。
もっとも、エマが優れているというよりも、単に二人が間抜けなだけなのかもしれないが。
「あらあら、うちの娘も負けてないわねぇ……これは孫の顔を見れる日も遠くないかしら?」
「孫ッ!? 許さんぞっ!! エマはずっと私の娘だ!! 嫁にはやらん!!」
「ふふふ、あなたはちょっと黙っていて下さいね?」
「ふぐッ……」
嫁という単語を聞きつけて、他の部屋から顔を出したエリックがマリナによって一瞬で黙らされたところで、ようやく言い合いをしていたノエルとリンが彰の不在に気づいた。
「……む、しまった。また無駄乳と話していたせいで幼女にアキラを奪われた……不覚」
「だから無駄乳って言わないでッ!? 無駄じゃないよ!!」
「……邪魔乳」
「邪魔でもっ……無いとは言い切れないけど……でも、でもぉ~~」
「(むっ、邪魔なら私にくれればいいのに……)」
「えっ? ノエルちゃん今なんて―――」
「とにかく、今はリンに構ってる場合じゃない。私はアキラを追う。
アキラは私のパートナー、誰にも絶対渡さない、よ」
「ボ、ボクだってアキラの……その……あの……あああ、もうっ!! 待ってよノエルちゃん~、ボクも行くよぉ~~!!」
慌てて彰とエマの後を二人が追う。
その姿を心なしか落ち込んだエリックを宥めながら、マリナが優しい目線で見守っていた。
「うふふ、私たちの息子はモテモテねぇ~~、これはあの子も苦労しそうね、あなた?」
「ふっ、私たちの息子なのだからそれぐらいでなければ困るさ。―――だが、エマは」
「―――お黙りなさい、あなた? うふふふ……」
「はぐっ……」
そうしてマリナはエリックの心を再び抉ると、夕飯の仕度を始めた。
―――これが彰が目を覚ましてからの数日間、彼らがすごしている日常だ。
彰が目を覚まして直ぐにタール村から逃げ出した面々は村に帰ってきた。
彼ら曰く、三人を彰に託したものの、結局三人と彰が心配になり、みんなで戻ってきたとのこと。
そうして、ようやく覚悟を決めて戻ってきたところ、そこには既に魔人や魔物姿もマリナや彰達の姿も無かった。
慌てた彼らが急いで彰達を探したところ、無事に残っていたマリナの家に人気あり、そこでようやく事態の確認ができたということらしい。
それからは魔物たちによってかなりの被害を受けてしまった村を立て直すべく、連日村人総出の復興作業が行われている。
もっとも、それも彰達一行の協力があったおかげで恐ろしい速度で進んでおり、村は以前の通りとはいかないまでも、殆どそれに近い光景は取り戻している。
おそらくこの復興作業も数日中には終わるであろう。
故に―――決断の時は近づいていた。
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