付与術師の異世界ライフ

畑の神様

文字の大きさ
上 下
43 / 91
闘技大会編

彰、一晩の苦悩

しおりを挟む


―――今現在、彰は過去に経験したことがないレベルで焦っていた。

 右腕に触れる柔らかい双丘、それが寝返りをうつ度に形を変えてその感触をダイレクトに伝えてくる。

 一方、彰の体の上にいる者にはそこまでの破壊力はない、しかし、「ガシッ」っと体に抱きつかれ、ぴったりと密着されていると、彼女の柔肌の体温が直に伝わってきてしまい、自然、動機が早くなってしまう。

 まぁ、ここまで見ていただければもうお分かりだと思うが、彰は現在、その両サイドをリンとノエルに 挟まれているのだ。


「どうしてこんなことに……」


 こうなってしまった理由わけを説明するのに、話は少し前に遡る……。



◆◆◆◆



「―――わかったよ、じゃあ二人部屋をとろう、お前らにまた野宿させるのはなんか俺が嫌だしな……」 


 と、いうわけで二人部屋に三人で泊まるという倫理的に怪しい事が決定してしまった彰達。
 だが、三人はそんな問題をひとまず先送りにし、夕食などをさっさと済ませた。
 因みに、その際リンが一人でアワアワしていたのは言うまでもない。
 しかし、先送りにしたところでこの問題から逃げられるのかと言えば、そなはずもなく……。


「―――さて、どうしようか……」


 結局、三人は今夜どうするか、という問題に直面していたのだった。


「……どうするも何もない……ベッドで寝る……それだけ……」
「ノ、ノエルちゃんっ!!  そ、それは……」
「……もちろん……リンは床……」
「や、やっぱりそういうのは……って…え……?」
「……リンは……床……ガンバ……」
「そ、そうだよね……ボクなんかがベッドなんておこがましいよね……わかったよ、ボクは床で―――」
「おいおい、ちょっと待てぇぇぇいっ!!」


 ノエルの理不尽発言に何故か納得してしまったリンを見て、彰がたまらず突っ込んだ。
 

「何で納得しちゃうんだよリン!!
 言っておくが、床で寝るのは俺だからな!?」
「……でも……それじゃアキラが……」
「大丈夫、野宿に比べれば宿屋の床の方が千倍ましだよ。
 二人は俺の事気にしないでベッドでゆっくりしてくれ」


 彰は何となく納得の行ってなさそうな二人に、一方的にそう告げると、さっさと床に寝っころがってしまい、すぐに寝入ってしまった。


「あっアキラ……ってもう寝てるし……」
「……アキラ…ずるい……でも、それで逃げきれたと思ったら……大間違い……」
「どうする気なの、ノエルちゃん?」
「……こうする……のっ!」


 ノエルはそう言いながら彰に近づいたかと思うと、彰を抱えこんで、お姫さま抱っこのような感じで持ち上げてしまった。


「ノ、ノエルちゃんっ!?」


 慌てて手伝いに入り、美少女二人ががりで男一人を持ち上げるという奇怪、もとい、羨ましい状況を完成させるリン。


「ノエルちゃん、アキラを、持ち上げて、どうする、の!?」


 リンはアキラを落とさないように踏ん張りながらノエルに問いかける。


「……もちろん…運ぶ…落とさないように……気をつけ…て」
「わ、わかったよ」


 そうしてリンとノエルは二人ががりで彰をベッドまで運んだ。
 というか、ここまでされて起きないアキラも正直どうかというところだが……まぁ、それはおいておこう。


「で、運んだけど……どうするの?」
「……リンには……アキラの右側を……譲る」
「え、いいの?  でもそれじゃあノエルちゃんが……」
「……私は……こう…」


 ノエルはリンにそう言うと、彰の体の上に乗っかって、「ガッチリ」と彰をホールドする。


「―――ノ、ノエルちゃんっ!?
そ、そんなの駄目だよ!!」
「……おやすみ……」


 声を荒らげるリン、しかし、ノエルはそんな声を意にも介さず、そのまま寝息をたて始めた。


「ノ、ノエルちゃん?  ウソ、もう寝てるっ!?
 この二人寝入るの早すぎるよっ!!」


 だが、そんなリンの叫びに答える者は誰もいない。


「ど、どうしよう……でもせっかくノエルちゃんが譲ってくれたんだし……床で寝るのは極力避けたいし……他に寝る場所もないし……しょ、しょうがないよね!!」


 リンは誰に聞かれてる訳でもないのに、言い訳でもするかのようにそう声を張り上げる。


「そ、それじゃあ……お、おじゃまします……」


 そうして、自分に言い聞かせるように叫んだリンは、顔を真っ赤させながら、恐る恐る彰の右側に入りこんだ。


(はぅわわわわぁ――!!
 近い近い近い、駄目だよ、こんなのドキドキしすぎて寝れないよ!!)


 結局、リンは動揺しながらもベッドに入り、ねむろうとするのだった。

―――因みに、この十分後、リンは熟睡していた。


◆◆◆◆


「ん……」


 彰は夜中真っ暗な中、寝苦しさを感じて目を覚ました。

(うーん、なんか寝苦しいな、床で寝てるからか……ってあれ?  ここ本当に床か?  にしては柔らかいような……)

 そう思った彰はそこが本当に床であるかを確認するために、右手で周囲を弄ってみる。そして、当然そこには固く、冷たい床の感触があるはずだった。

しかし……。

―――ムニュ、ムニュ


「…………え?」


 その感触を確認した瞬間、時が止まる。
 あまりの衝撃に彰は何も考える事が出来ない。
 思考能力は働かず、故に体も指一本動かせなかった。
 そして数秒後、やっと彰の時が動き出す。


(ちょっと待て、俺は床で寝ていたはずだ、なのになんでこんな感触が……)


 そう思い、一度耳をすましてみる彰。


「……んっ……」
「……ZZZ…」


 すると、案の定、聞こえてきたのはリンの艶っぽい声やノエルの寝息だった。


(待て待て待て待て、俺は今もしかしてベッドで寝ているのか!?
 さっきから何となく寝苦しいのは俺の上にノエルが乗っているからで……ってことは俺がさっきから触っているものは……ッ!!)


 彰はやっと自分の触っているものがリンの胸である事に気づくと、即座にそこから手を離そうとする。だが……


「んっ…アキラぁ……」
「―――なっ!?」


 そんなことを小声で呟きながら彰の右腕を逃がさないとでもいうかのようにガッチリ彰の腕をホールドするリン。


(おいおいちょっと待て、こんなの俺にどうしろと……)


 だが、状況は困惑する彰を待ってはくれない。
 リンに続いて今度は上に乗って寝っていたノエルが、


「……アキラ…ずっと…いっしょ……」


 そう言いながらいっそう強く抱きついてきた。


(落ち着け、落ち着くんだ俺、理性だ。理性を保て、今こそ修行で鍛え上げた精神力を見せる時だ!!)


 そして、彰がそうして精神力を限界まで使って理性を保つという生殺し状態のまま、夜が更けていった。

―――無論、彰が全く眠れなかった事は言うまでもない。


◆◆◆◆


「で、二人とも、これはどういうことか説明してもらえるんだろうな?」


 と、翌日の朝、彰は二人に説教口調で問いかけていた。
 因みに彼の左頬はまるで熟れたリンゴのように赤く腫れている。


「…………」
「え、えっと…そ、それは……」


 彰の質問にはっきりと答えられず、黙秘権を貫くノエルとしどろもどろになるリン。


「特にリン!!  起きてから俺を見た瞬間におもいっきり人のことをぶっ叩くとはいい度胸をしてるなぁ~、ハハハ」


 そう、これが彰の顔が腫れている理由である。
 彰が腕を掴まれ、乗っかられてるため動けず、仕方なく二人が起きるのを待っているとリンが「……ん~」と唸りながら目を覚ましたので、腕を離してくれと彰が声をかけ、リンの意識が彰の手が自分の胸元にあるのに気づいた瞬間、「あわわわわ!  アキラのエッチ!!」といいながら全力でひっぱたいたのだ、自分で抱え込んでいたのにもかかわらずである。

 これはまぁギリギリ彰も怒っていいはずである。


「ご、ごめんアキラ、突然の事だったからその……驚いちゃって……」
「ほうほう、つまりリンはおどろくと人をぶっ叩くと、なるほどな~」
「うぅ~……」


 言い返せずにどもってしまうリン。


「ところで、ノエル、なぜさっきからずっと黙っているんだ?」


 彰がそうして話の矛先をリンに向けると一瞬「ギクッ」と言う感じの反応をしたものの、済ました顔で答える。


「……反省はしてる…でも…後悔はしてない……ごちそうさま……」
「一応言っておくがお前それまったくもって反省してないからなっ!?
 ていうか最後のごちそうさまってのはなんだ!!
 俺はいったい何をいただかれたんだよ!!」
「……知りたい…?」
「なんだよ、『その知らないほうが幸せだよ?』 みたいな言い方はっ!!
 なんか怖ぇよっ」


 そこまで突っ込んだ彰は疲れたらしく、はぁ~とため息を漏らす。


「仕方ない、二人とも俺の願いを一つ聞いてくれたら許してやろう」
「お、お願いってまさかエッチなこととか!?
 だめだよアキラ!!  ボク達まだ知り合って間もないし、やっぱそういうことは段階を踏んでからじゃないと……」
「……私は…問題ない……」
「違うわっ!!  そんな願いじゃねぇーよッ!!」


 真っ赤になってもじもじしているリンとやたらウェルカムなノエルに彰は焦ってツッコミをいれる。


「……じゃあ…どんな願い…なの?」
「ああ、それはな……」
「それは…?」


 彰がなんと言うのかを緊張した面持ちで待つ二人そして、彰が自らの願いを告げる。


「―――みんなで闘技大会に出ようぜ!!」


 と、彰はわくわくした顔で二人にそう告げたのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

新婚初夜に浮気ですか、王太子殿下。これは報復しかありませんね。新妻の聖女は、王国を頂戴することにしました。

星ふくろう
ファンタジー
 紅の美しい髪とエメラルドの瞳を持つ、太陽神アギトの聖女シェイラ。  彼女は、太陽神を信仰するクルード王国の王太子殿下と結婚式を迎えて幸せの絶頂だった。  新婚旅行に出る前夜に初夜を迎えるのが王国のしきたり。  大勢の前で、新婦は処女であることを証明しなければならない。  まあ、そんな恥ずかしいことも愛する夫の為なら我慢できた。  しかし!!!!  その最愛の男性、リクト王太子殿下はかつてからの二股相手、アルム公爵令嬢エリカと‥‥‥  あろうことか、新婚初夜の数時間前に夫婦の寝室で、ことに及んでいた。  それを親戚の叔父でもある、大司教猊下から聞かされたシェイラは嫉妬の炎を燃やすが、静かに決意する。  この王国を貰おう。  これはそんな波乱を描いた、たくましい聖女様のお話。  小説家になろうでも掲載しております。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

お后たちの宮廷革命

章槻雅希
ファンタジー
今は亡き前皇帝・現皇帝、そして現皇太子。 帝国では3代続けて夜会での婚約破棄劇場が開催された。 勿論、ピンク頭(物理的にも中身的にも)の毒婦とそれに誑かされた盆暗男たちによる、冤罪の断罪茶番劇はすぐに破綻する。 そして、3代続いた茶番劇に憂いを抱いた帝国上層部は思い切った政策転換を行なうことを決めたのだ。 盆暗男にゃ任せておけねぇ! 先代皇帝・現皇帝・現皇太子の代わりに政務に携わる皇太后・皇后・皇太子妃候補はついに宮廷革命に乗り出したのである。 勢いで書いたので、設定にも全体的にも甘いところがかなりあります。歴史や政治を調べてもいません。真面目に書こうとすれば色々ツッコミどころは満載だと思いますので、軽い気持ちでお読みください。 完結予約投稿済み、全8話。毎日2回更新。 小説家になろう・pixivにも投稿。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

処理中です...