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◇壱村由香の場合

第2話

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 なんで、どうして。


 君の言ってることが本当に理解できなかったよ。


———

——

「お前、何言ってんだよ」
「俺、本気ですよ?」

 いつも通り保健室に顔を出してきた小早川が当たり前のように言ってのけた。本当に何を言ってるんだ、コイツ。なんで私なんかに惚れた。私はお前より一回りも年が違うんだぞ。悲しいことにな。

「小早川、冷静になれ。お前は受験で疲れてるんだ」
「大丈夫です。俺、もう推薦決まったんで」
「……お前、私がいくつか知ってるか?」
「26歳でしょ?」
「君はいくつだ」
「14です。あ、俺明日誕生日なんで15歳になるんですよ」
「それはおめでとう。いいか、私と君とじゃ年齢が違い過ぎるんだ年上に憧れる気持ちが分からない訳でもないが……」
「先生、遠回しに俺のこと振ってるんですか?」
「……」

 保健医として、生徒の心に傷を負わせてはいけない。そう思って必死に言葉を選んでいたつもりだったが、どうやら厳選しすぎたみたいだ。
 悟られた。大人として、余裕のなさが伝わってしまって恥ずかしい。

「わかった、わかったよ。じゃあハッキリ言ってやる。私はお前と付き合う気はねーよ。ガキはガキと青春してろ」
「そんなの変です。ガキだからってバカにしないでください。俺だって、本気で人を好きになるんです。俺が誰を好きになろうと俺の勝手でしょう? それなのに、なんで子供だからって同年代だけを好きにならなきゃいけないんですか」

 適当にあしらいたかったが、コイツ本気なんだな。でもなんで、私なんだ?
 普通、同じクラスの子とかを好きになるもんだろ。それなのに、大した接点もない保健医なんかに惚れるかね。変わったガキだ。

「お前の言い分は分かった。だけどな、私はお前のこと生徒としか思ってない。それ以上でも以下でもない」
「じゃあ、今からでも男としてみてください。他の生徒と一括りにして俺のこと振らないでください。ちゃんと俺のことを見てから好きか嫌いか決めてください! そうでなかったら、諦めきれません!」

 本気すぎる。
 小早川の言うことは、確かに最もだ。好きになった相手に適当にあしらわれたんじゃ、諦めもつかない。
 でも、やっぱり私とコイツは生徒と先生。私は大人だ、生徒のことをそういう対象に見てしまう訳にはいかない。

「……せ、せめて卒業までは待てないか?」
「卒業?」
「ああ。卒業すれば、お前もこの学校の生徒じゃなくなる。そうしたら、私もお前のことを生徒としてではなく、一人の男として見よう。返事は、それからだ」
「わかりました」

 小早川は、軽く頭を下げて保健室を出ていった。
 まさか、生徒から本気の告白をされるとは思わなかった。まぁ、アイツも卒業して高校に進学すれば新しい出逢いが沢山あるんだ。そしたら私への気持ちも薄れるだろう。
 それにしても、あんな本気の告白されたのは初めてだ。私は昔から男兄弟が多かったせいか、口調も男勝りになってしまった。可愛い服も着たことがない。
 だから、学生時代に告白なんてされたことなかった。保健医になってから、彼氏いないの? じゃあ俺が付き合ってあげようか、なんてふざけて聞く生徒はいたけど。

 少し、嬉しかったかな。
 私のこと女として見てくれてるのが。
 こんな私に、好意を持ってくれたのが。

 君が生徒でなければ、もっと嬉しかったよ。




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