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第101話

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「ヴァネッサベル様。シャ、シャルロット姫が……うおっ」
「仮面のお方!」

 急いで駆け込んできたツヴェルの背中を突き飛ばすほどの勢いでシャルが部屋に入ってきた。
 なんて説明したのか分からないけど、まだ私の正体のことは説明していないみたいね。今名前を呼んだのに全然聞こえていないみたい。

「…………あれ? レベッカ様に、皆さま……それに、貴女は……」

 部屋の中にいる人たちの顔を見て、シャルは首を傾げた。
 ベルは静かに立ち上がり、必死に感情を押し殺してシャルの前に立つ。

 ベルの心の中はとても複雑な感情で渦巻いている。
 何十回も繰り返してきたループの中で膨れ上がった憎しみや恨み、嫉妬の黒い感情。
 そしてずっと愛おしく大事にしてきた妹への愛情。

「…………貴女は」
「…………」
「仮面の、方? え、でも……あれ……」
「…………シャルロット」
「……ベル、お姉様?」

 仮面の男の正体に気付いたシャルは、思わず口を両手で覆った。
 五歳のときに消えてしまった姉が急に現れたのだから驚くのも無理はない。

「どうして、お姉様が……な、なんで、急にいなくなってしまったの? 私、ずっと寂しくて……」
「…………」
「で、でも、あ、会いに来てくださっていたのですね。助けてくださっていたのですね……ありがとうございます……」

 ベルは何も喋らない。
 私がシャルと話そうとしたときも、言葉が勝手に悪くなっていた。きっと今も必死に言葉を選んでいるんだ。
 これが最後だから。

「……私、ずっと仮面のお方が気になっていました。どうしてか初めてお会いしたとき、初めてのはずなのに嬉しいと思ってしまったのです。ずっと会いたいと思っていた、そんな気持ちに……私は仮面のお方が運命の人なんだと思っていました……だからお会い出来るたびに嬉しくて、もう一度会いたいと何度も心の中で願っていたのです」
「…………」
「でも、違ったのですね。この喜びは、お姉様に会えたことへの喜び……私はずっと、片割れであるお姉様を探し求めていたんです」

 シャルは大きな瞳に涙を溜めながら、自分の思いを吐露している。
 少なからず恋愛感情も抱いていたんじゃないかなって思うけど、それ以上に自分の半身を求めていたのね。
 だって、私たちは双子なんだもの。共に生を受けた、唯一の姉妹なんだものね。

「…………シャルロット」
「はい。お姉様」
「……ごめんなさい。今の私には、今を生きる貴女と過ごした時間はないけれど……それでも、貴女のその体が覚えているのであれば、最後にこれだけ言わせてほしいの」
「……? お姉様、何を……」
「愛しているわ、私の可愛い妹……どうか、この国を変えて……良き王になってね」

 ベルはそう言って、一歩下がって頭を深々と下げた。
 最後に、ありがとうと心の中で呟いて、彼女の心は眠りについた。心のずっと奥深くに。

 ありがとう、ヴァネッサベル。
 私は貴女として生まれることが出来て良かった。

 貴女に会えて、本当に良かった。

 私は頭を下げたまま、顔を上げられなかった。
 溢れ出る涙を、拭いたくないと思ったから。ベルがずっと我慢してきた涙を、私は止めるなんて出来ない。

 今は、ゆっくり休んでね。
 おやすみ、ベル。もう一人の私。


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