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第100話

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 ルシエルの手を握って、祈るように目を閉じた。
 心の中は彼のことだけ。

 ゲームの中のベルはただただ悪い人。
 だけど本当は妹思いの優しい姉だった。それは今でも変わらない。どんなに恨もうと、嫉妬に狂おうとも、シャルのことをずっと心配していた。
 国を滅ぼそうと思ったのも、シャルのことを思ってだった。この狂った世界を、腐ったこの国から彼女を解放したいという願いからだった。

 本当に、このままでいいの。
 ベル。私は、やっと本当の貴女を知ることが出来たのに。

「…………ん」

 小さな声が聞こえ、ベルは目を開けた。
 ベルの思いが届いたのか、ルシエルはこちらを見て静かに涙を零した。ずっと一緒にいたから、私じゃなくて本当のベルだってすぐ気付いたのね。

「……ベル様」
「ルシエル……良かった、また貴方に会えて……ずっと謝りたかったの」
「そんな……僕の方こそ、勝手なことをしてしまって……ベル様に怪我までさせて……」
「良いのよ。私のことを思ってしてくれたんでしょう? それより……ずっと貴方を一人にしてごめんなさい。私一人だけ逃げてしまって、ごめんなさい……せめて貴方に関する記憶だけでも彼女に残しておければよかったけど、私は彼女と話をすことも出来なかったから……」

 私のことを言ってるのよね。確かにこの世界に生まれてから今まで、ベルの記憶を知ることはなかった。知っていれば、彼を迎えに行ったかもしれない。
 でも、ルシエルが待っていたのは私じゃない。ベルじゃなきゃ、駄目なのよ。

「ベル様……僕は、貴女に会えて幸せでした……貴女のために生きることが出来て、幸せでした……だから、どうか謝らないでください」
「ルシエル……私にとって貴方は光でした。希望でした。貴方がそばにいてくれたから、私は頑張れた。最後に躓いてしまった私が言っても説得力はないかもしれませんが、本当に救われていたのですよ」
「……ベル様」
「だから、これからは貴方のために生きてください。私の心はもう眠りについてしまうけれど、私のせいで奪ってしまった未来を、これからは歩んでいけるのです。私の分まで、未来を生きてください」
「そんな……ベル様がいないのに」
「私はここにいます。彼女の心の中にも、貴方の中にも……私を覚えていてくれれば、その中に私はずっと生きていけるのです」
「……ズルい。ズルいです、ベル様……そんなこと言われたら、僕は……生きなきゃいけなくなる……」

 ボロボロとルシエルは涙を零した。
 人が死んだら、その人の思い出の中にしか生きられない。残された人に託される言葉。この状況で聞くと、何だか物凄く酷な言葉にも聞こえるわね。
 それでも、ルシエルがベルの後を追わないようにするためにはこれしかないのよね。
 だって、本当のベルのことを知っているのは私とルシエルだけなんだもの。

「約束よ。ルシエル……私の思い、貴方に預けるわ……」

 そう言って、ベルはルシエルの額にキスをした。
 触れた部分がふわりと光り、彼の中にスッと溶けるように入っていった。

 ベルが、自分の魔力を彼に分けた。
 消えかけた彼の命の灯火に、力を与えたんだ。
 これが本当に、彼女の最後の我儘。あまりにも優しすぎる彼女の、最後の願いなんだ。

「……ベル様……ずっと、ずっと……お慕いしてます……貴方のことを、僕はずっと尊敬してます。僕だけの、たった一人の女王様……」
「ええ。私もよ、ルシエル……私の大事な子。たった一人のパートナー……ありがとう、大好きよ……。もう一人の私とも、仲良くね」

 二人はそっと抱き合い、別れを惜しむように互いの名前を呼び合った。
 この二人の絆は、何よりも強い。ベルの中にいるから、それをひしひしと感じる。
 私は彼の想いを大事にしていこう。ベルに託された思いを、未来に繋げていこう。

 それが、私のこれからの役目だ。



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