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第65話
しおりを挟む店の奥も片付いてるとは言い難い状況だった。
むしろもっと汚い。散らかった本の山、壁には何が書かれてるのかよく分からない紙が一面に張られている。ナイトはここで魔法の研究を一人でしていたのか。
「すみません、ベル。これでも片付けた方なんです」
「そ、そうなの」
部屋の真ん中に置かれたテーブルは確かに何も置かれていない。きっと私が来る前にツヴェルが掃除してくれたんだろう。
ツヴェルが椅子を引いてくれたので、私はその席へ腰を下ろした。
「それで? 本題ってのは?」
ナイトが椅子に座り、何やらペン立てのようなものでお茶を飲みだした。いや、あれは紛れもなくペン立てだわ。コップはないの?
ゲーム内だともっとクールで知的な雰囲気だったはずなんだけど、そういう描写が描かれていなかっただけで、実際はこういうズボラな人なのかしら。
「噂には聞いてると思うのですが、ハドレー国の姫、シャルロットが何者かに命を狙われているのです」
「そうらしいね。うちにもその犯人を捕まえるために協力してほしいって話が来てる」
「ええ。その相手は魔法を使って攻撃してきました。この間も巨大なブラックホールのようなもので城を襲ったわ」
「ふうん……重力魔法か。そいつは死にたいのかな」
「どうして?」
「重力を扱う魔法は魔力の消費が尋常じゃないんだ。過去に重力系の魔法特性を持った者は皆そうだった」
「…………じゃあ、もしその力が込められた魔法具を使ったら?」
「そんな奴がいるなら、馬鹿としか思えないね」
ナイトは軽く笑い飛ばしてそう言った。
それぞれの魔法特性でそんな違いもあるのね。さすが研究者ね。色々と参考になるわ。
「実は、私は今回の犯人……例の魔術師は単独で動いていると思っているの」
「ほう。それはどうして?」
私はレベッカに話した仮説を二人にも話した。
もう内容は思い出せないけど夢で魔術師が話しかけてきたこと。これまでのことを含めて全部話した。
「君の考察は間違ってないかもね。確かに相手の動きは非効率だ。最初のハドレー城襲撃のときみたいに人を雇うなら一人じゃなくて、もっと複数人雇って一気に攻めた方が良いに決まってる」
「そうだよね。僕もそれが不思議だったんだ」
「なんか、やりたいことと実際の行動が伴っていないというか……僕ならもっと上手くやれるのにってなる」
「怖いこと考えないでくださいね。それで、魔法具を武器として利用するのは禁止でしょう? 向こうはそれをどうやって入手しているのか分かりますか?」
「……そういうのは、こっちでも取り締まっているけど全てを叩くのは無理なんだよね。ああいう悪さをする連中って隠れるのが上手いんだよ。その魔術師がどこから魔法具を手にしてるのかどうか調べるのは難しいなぁ」
王子様でも厳しいのか。
まぁそこは仕方ない。他の方法で魔術師を捕まえればいいんだから。
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