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第63話

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 数日後。
 ツヴェルから連絡を貰った私は早速ヴィンエッジ国へと向かうことにした。彼とは現地で待ち合わせしている。
 ヴィンエッジ国はリカリットと同じで門番などはいない。どんな人でも自由に出入りが可能だ。もし不審者が来て何か悪さをしても、警備用の魔法装置が発動して即逮捕されるらしい。だからこの世界で最も犯罪率の低い国と言われている。

 ツヴェルはもう先に行って宿の手配などをしておいてくれているそうだ。さすが気が利く王子様だわ。

「そうだ。ノヴァ、悪いんだけどヴィンエッジ国内では人間の姿でいてくれないかしら」
「がう?」
「他の国と違って警備体制が独特なのよ。魔法の結界みたいなのもあるっぽいし、今までみたいに窓からこっそり入るとか出来ないと思うの」
「……がうがう」
「分かったって。ちゃんとお礼するから」

 物凄く嫌そうな顔してる。本当に嫌いなのね、あの姿になるの。
 私としては一番頼れるボディーガードだから一緒に街を回れた方が嬉しいんだけど。


―――

――


 ヴィンエッジ国は私が住んでる山から東に二時間ほどで着く。国を囲う森もノヴァなら上からぴょーんと飛び越えられるから楽々。
 リカリット国は砂漠の中を進まなきゃいけなくて移動が大変だったから、今回は簡単で助かるわ。ノヴァも一応回復したけどあまり無理させたくはないし。

 ヴィンエッジ国の手前まで着き、ノヴァの背から降りた。
 ツヴェルとは古書店の前で待ち合わせをしてる。出かける前に無線で伝えてあるから、もう店の前で待ってるんじゃないかしら。

「ノヴァ、お願い」
「がう」

 ノヴァの体が光を纏い、姿を変える。
 この間見た、長身の美青年に大変身。キラキラのオレンジの髪はちょっと目立つかしら。

「ノヴァ、これ被っておいて」

 私は持ってきていたストールをノヴァの頭に被せた。これでも長身だし顔も良いから目立ちそうではあるけど、少しはマシでしょ。

「…………邪魔」
「我慢して。この国にいる間だけでいいから」
「……やっぱりこの姿嫌い……」
「そう? 私は好きよ、カッコいいし」

 色んな服を着せたくなるし。
 服着るのが嫌いだって言ってたから、そんなこと言ったら怒られちゃいそうだけど。

「じゃあ行きましょうか。ノヴァ、ツヴェルの場所分かる?」
「分かる。匂い、追える」
「よし、じゃあ中に入るわよ」

 私はノヴァの腕にそっと手を添えて、なるべく自然に見えるように歩き出した。傍から見れば恋人同士。今回は私もスカーレットスタイルで来てるから良い感じの美男美女でしょ。くそ、カメラがあったら写真撮りまくってるのに。

「……この国、変なニオイ、する」
「変って?」
「……色んな魔力、グチャグチャ、した、みたいな……」
「へぇ。魔法の研究をしているからかしらね」
「…………ここ、嫌い」
「鼻がいいと大変ね」
「帰りたい……」
「まだ来たばかりじゃない」

 これは帰ったらお菓子を焼きまくってご機嫌を取るしかないわね。


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