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第50話

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 真っ先にシャルの方へと向いた。
 ああ、最悪だわ。さっきの破裂音は以前と同じ魔法の弾丸による襲撃。的確にあの子の周囲にいた兵士達を動けないように足を撃っている。
 優しいシャルは近くの兵士達を治そうとその場にしゃがみこんでしまっている。きっとこれも犯人の狙いなんだ。
 キアノはレベッカに付いているし、ツヴェルは他の客を避難させるのに忙しい。

「……っ」

 私はボロボロになったテーブルクロスを引っ張ってローブ代わりに体に巻き、極限まで気配を消してシャルの元へ駆け寄った。
 早くあの子を逃がさないと、このままじゃ格好の的じゃない。
 割れた窓の向こうから次の攻撃が来ているのが見える。

「きゃあ!」

 私はシャルの後ろからもう一枚持ってきていたクロスを頭から被せて、抱き上げた。
 これで向こうからも姿は見えないし、私のこともシャルには見えない。我ながらナイス判断だわ。

「だ、誰だ! シャルロット姫を離せ!」

 まぁ兵士からすれば怪しい人ね。でも動けない貴方達より確実に守れる私が動かないといけない。
 私は死角になりそうな柱の向こうに隠れようと走り出した。

「危ない!」

 レベッカの声が聞こえてきた瞬間、私の右足に衝撃が走った。
 撃たれた。頭の中で冷静にそう判断する私がいる。
 見るな。いま足を見たら、一気に痛みが襲う。無心になれ。私は走れる。
 シャルをきつく抱きしめたまま、安全な場所まで走った。

「……っぐ」

 ヤバい。倒れそう。
 当たり前だけど根性論だけでどうにかなるような痛みじゃなかった。
 どうにか柱の陰になる場所に来れたところで足がもつれてしまった。
 膝を付いたことで地面に倒れずには済んだけど、立ち上がることが出来ない。

「あ、あの……」

 シャルがクロスの中で動いてる。
 このままじゃ顔を出して、私のことを見てしまう。

 私も早くこの場から去らないと。
 早く。早く。早く。

「…………あら?」

 シャルの気の抜けた声が遠くに聞こえる。
 何が起きたの。何故か今、私の体は浮いている。

 シャルが頭に被ったクロスから顔を出す直前に、何かに引っ張られるような感覚はあった。
 そして今、何者かが私のことを抱き上げて宙に浮いてる。というより、跳んでる。あの場から垂直に飛び上がったんだ。

「…………貴方」

 月明かりの下でキラキラと輝くオレンジ色の髪に鋭い眼光。初めて見る人なのに、物凄く知っている。
 だって、ずっと一緒にいたもの。

「ノヴァ?」
「…………馬鹿」
「は!?」

 多分ノヴァだと思われる男性は、王宮の屋根の上に降り、深い溜息を吐いた。

「無茶、駄目だって、レベッカ言った」
「そ、それはそうだけど、あの場合は仕方ないでしょ! 私が動かなかったらシャルが撃たれていたのよ!」
「それでベル、死んだら意味ない。だから、馬鹿」
「ば、馬鹿って何度も言わないでよ!」
「馬鹿。いっぱい馬鹿」
「だから……っていうか貴方、本当にノヴァなのね? 人の姿になるの嫌じゃなかったの!?」

 ノヴァは私を下ろし、ドレスのスカートを捲って怪我した右足を撫でた。
 うわ、グロ。血だらけの足を見て、私は倒れそうになった。それに痛い。メチャクチャ痛い。
 そんな私の足を、ノヴァが舐めた。血を拭き取るように、そっと丹念に。

「元の姿、人に見られる、よくない。だから、特別」
「そ、そう。ありがとう……それと、ごめんなさい」
「…………レベッカ、泣いてた。謝る、そっち」
「そうね……」

 ノヴァの舌が傷口を舐める。私の血から魔力を得ているのか、オレンジ色の髪が淡く光り輝いている。
 綺麗だなと見惚れていると、足の痛みが段々と引いていくのに気付いた。

「……ノヴァ、癒しの魔法が使えるの?」
「簡単な治癒。傷、塞いだだけ。血は、戻せない。ベル、安静」
「は、はい」
「宿、帰る」
「う、うん。ああ、でもレベッカいないけど勝手に入っていいのかしら」
「窓、開けっぱ」
「仕方ない。離れだし、この騒ぎなら気付かれないわよね」

 レベッカやツヴェルに無事を知らせたいけど、今はそんな余裕もないわよね。

「ノヴァ、こっそりレベッカに連絡取れる?」
「俺、こっそりできる、見える?」
「見えないわね。どっちの姿も目立つもの」

 しょうがない。ホテルの部屋からフロントに連絡して、レベッカに私が部屋で待ってることを伝えてもらおう。


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