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第37話

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 深夜に帰宅し、さっさとウィッグを外してベッドに倒れ込んだ。
 今日はノヴァも部屋の中に入ってきてる。いつもは森の中に消えていくのに、今日はベッドの方が良いのかしら。

「お疲れ様、ノヴァ。足痛くない?」
「がうう」
「疲れただけ? じゃあ軽くマッサージしましょうか」

 私はノヴァの足をゆっくりと擦るようにマッサージした。
 明日はシャルの様子を見に行きたいし、ノヴァにはまた走らせることになっちゃうわね。

「ごめんね、ノヴァ。私にも移動手段があれば貴方の負担も減るんだけど」
「がうがう」
「ん? お礼? ああ、約束してたわね。覚えてる覚えてる、何が良い?」

 軽く忘れてたわ。そう言えばリカリット国に行く前にちゃんとお礼するって約束したわね。
 これだけ無理をさせたんだから、ちゃんと聞いてあげないと。

「がうがう」
「魔力? 私の?」
「がう」
「前みたいに髪の毛とか? でも切ったばかりだしなぁ……」
「がう」

 どうやって渡せばいいかしら。さすがに全部は渡せないし、一晩で回復する程度の魔力をどうぞって手渡し出来れば楽なんだけど。
 私が腕を組んで悩んでいると、ノヴァの顔が目の前に近付いてきた。

「がう」
「んっ」

 一瞬。瞬く間に、ノヴァに軽くキスされた。
 軽くペロッと舐められたけど、そんなんで魔力あげたことになるの?

「……え、今のでいいの?」
「がうがう」
「唾液から魔力を? まぁそういう方法もあるって聞くけど……そんなちょっとで良かったの?」
「がう」
「私の魔力が強いからそれくらいで十分? だったらいいんだけど……」

 そう言うと、ノヴァは満足そうにふんと鼻息を吹かしてベッドの上で丸くなって眠った。
 なんか、あっという間すぎてちゃんとお礼出来た気がしないわね。

 てゆうか、これ私のファーストキスだったんだけど。
 まさかノヴァにあげることになるとは思わなかったわ。
 風のように奪われちゃったから、なんか実感もないし。
 そもそもこれはキスになるのかな。ただの魔力供給じゃないのかな。

「…………まいっか」

 考えても仕方ないし。ノヴァが満足したならそれでいいわ。今さらキスくらいで狼狽えるような年齢じゃないし。
 この体の年齢は十七歳だけど、中身の私は二十後半。生きてきた年齢をプラスしたらもう精神年齢的にはオバサンだもんね。

 あ。そう考えるとちょっと心にダメージがあるわ。今の無し。生まれ変わってるんだから、前世の年齢は関係ないわ。今の私は十七歳。とても若い。それでいいのよ。

「……ふあ、あ……」

 私ももう寝ましょう。明日の朝ならハドレー城にロッシュもいるはずだし、二人の様子を見ておかないとね。


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