34 / 108
第34話
しおりを挟む翌朝。チェックアウトを済ませ、私は街の中をうろついていた。
王宮に忍び込むつもりはない。今回の目的はあくまで魔術師の動きを探ることだけ。ノヴァにはまた外を調べてもらっている。
王宮に知り合いでもいれば色々と情報も集めやすいけど目立つこともしたくないし、ここは地道に行くしかないのよね。
ロッシュはもうハドレーに行ってるわよね。遠いから朝早くから出発してるだろうし、多分城に一泊するはず。そうなるとキアノは帰るのかしら。それとも彼も護衛として付き添うのかしら。居てくれた方が安心できるんだけどね。
でもそうなるとシャロとロッシュの距離を縮められないかな。キアノは堅物だから不用意に近づくなとか行っちゃうかも。護衛という役目をさせているけど、彼も王子だし立場は同じだもんね。
それにしても、この国は朝から賑わっているのね。商店街のような出店の通りがもうやっている。あちこちから色んな匂いがしてるし、広場では楽団が優しいメロディーを奏でてる。
ゲーム内のランキングでも一度遊びに行きたい国一位になっていたっけ。実際に来てみると、その順位にも頷けるわ。
ここの王族は街にもよく遊びに行く。だからもし王宮に誰か来てればちょっとした噂にもなるかもしれない。
歩きながら人々の話に耳を傾けておきましょう。
「お姉さん、ここじゃ見ない顔だね」
「はい?」
「こんにちわ」
おっと。何ということでしょう。まさかツヴェル本人とここで出会うなんて思ってませんでしたよ。
いや、待って。そういえば、ファンブックに書いてあった。ツヴェルは毎朝必ず街を歩いて民達と話をするって。そしてこの広場にあるカフェは彼の行きつけの店。この国は唯一コーヒーを売っているの。
なんで私は大事な情報をいつも忘れてるの。やっぱり転生して赤ん坊からやり直してるせいで記憶が掠れてしまってるのかしら。そしてこういう時にポンと思い出すの。
でも今の私はただの旅人よ。落ち着きなさい。ボロを出さないように気を付けるのよ。
「え、ええ。旅をしながら色んな国を見て回っておりますの。貴方は、確かツヴェル王子殿下でしたわね?」
「ご存じでしたか。改めまして、ツヴェル・ゲンフェー・リカリットと申します。どうぞツヴェルとお呼びください」
「私は、スカーレットです。王子様にお声掛けいただいて光栄ですわ。実は昨晩この国に来たばかりでしたの」
「そうでしたか。もし宜しければ私が街を案内致しますよ」
「そ、そんな。王子様にもご都合がありますでしょう? 私もすぐに次の国に立ちますし」
「そう、でしたか。お急ぎであれば仕方ありませんね……」
ああ、王子がしゅんとしちゃった。
くっ。こういうところが人気なのよね。弟のロッシュは完全に俺様タイプのライオンみたいな人だけど、ツヴェルはどちらかといえば大型犬みたいで、攻略対象でないのに人気もロッシュと並ぶほど。
分かるわ。これは、放っておけない。普段は穏やかで可愛らしいのに、戦うとカッコよくなるのよ。イベント限定で彼のシナリオが作られるほど人気あったもんね。
「あ、あの……王子様さえよかったら……案内してくださいますか?」
「え、でも」
「せっかくの王子様のご厚意を無下には出来ませんわ。それにリカリットのことも知りたいですし」
「本当ですか! では、案内しますね!」
なんて眩しい笑顔なのかしら。二部では彼もメインキャラとして組み込まれててもおかしくないわ。
ゴメンね、ノヴァ。お外でもう少し待ってって。もしかしたらツヴェルを誘惑するってミッションをクリアできるかもしれないでしょ。
ここでツヴェルとの好感度をある程度上げておけば、シャルとフラグを立てずに済むかもしれないもんね。
私、頑張る。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる