上 下
31 / 108

第31話

しおりを挟む


「……っやば」

 裏庭に誰か来た。
 魔法で隠れてはいるけど、絶対に見つからないという保証はない。
 私は木の上で息を殺して様子を窺う。

「リカリット国の王子が今度うちに来るって本当?」
「ええ。執事長が客間の掃除を念入りにしておけって言ってたもの」

 庭を歩てるのはメイドか。なんだ、ビビって損した。
 彼女たちは話しながら庭を抜けていく。裏口から街に出ようとしていたみたいね。買い出しかしら。

「リカリットって南の砂漠の国でしょ? 確かあそこは王子が八人いるらしいじゃない」
「そうそう、みんな美形なんだって」
「もしかして、その王子の一人がシャルロット様に縁談を持ちかけていたりするのかしら」
「そうなったらその王子様が国王になったりするのかしらね」

 女子は恋バナが好きよね。キャッキャと話に花を咲かせながら去っていった。
 なるほど、次の王子様はリカリット国の第六王子、ロッシュだ。キアノとは真逆の俺様系王子様。ノリも軽くて女遊びも激しい。
 ゲームではシャルを側室にしようと近付いてきたんだっけ。でもシャルの純粋さに惹かれて、本気で好きになった。初めての本気の恋に翻弄される様子がファンの間でも人気があったわね。褐色の肌に美しい黄色の髪が素敵だったわ。
 あのルートでの二人の障害になるのは誰だっけ。そうだ、彼の兄である第四王子のツヴェルだ。彼もシャルのことを気になっていて、三角関係みたいな展開になるのよね。
 でもさすがにツヴェル王子はシャルのことを狙ったりはしないはず。魔術師がどういう風に彼に入れ知恵をしてくるか分からないけど、レベッカのときとは状況が違う。
 レベッカはキアノが好きだからシャルと敵対関係になったけど、ツヴェルはそうじゃない。シャルに敵意を向ける理由がないもの。どちらかと言えば、恋敵になるのは弟のロッシュだ。でもロッシュと殺し合いにしたところで意味はない。
 次の展開はちょっと読めないわね。

「ねぇ、ノヴァ。もし兄弟で同じ女の子を好きになった場合、貴方ならどうする?」
「がう?」
「分からない? そうよねぇ……私だったら身を引いちゃうけど、あの二人はそういう性格じゃないからなぁ……」
「がうがう」
「ああ、ゴメン。こっちの話よ。でも、この場合は例の魔術師はどう邪魔に入ってくるのかしら……展開の先読みが出来なくてどうしたらいいのか分からないわ」
「がう」
「ええ、どっちかを私が誘惑して三角関係にしなきゃいいって? 確かにそれなら兄弟で争うこともないけど、でもそれは相手を騙すってことでしょ? さすがにそれは無理よ」

 そういえばロッシュルートのベルは似たようなことしてたっけ。
 実の弟とシャルへの想いで心が揺らいでいたツヴェルのことを洗脳して、ロッシュと戦わせて、シャルも殺そうとした。
 殺されそうになったシャルを身を挺して守り、ツヴェルの心に必死に訴えかけた弟の想いに正気を取り戻して、二人から身を引くのよね。
 まさか、ツヴェルが洗脳されるかもしれないってことなの?
 レベッカもそうだったけど、本来ベルがやるはずだったことをこの黒幕が行ってる。だとすれば、あり得ない話じゃない。
 だったら、そうなる前に私が彼を誘惑するのは間違いじゃないかもしれないけど、でもさすがにそれはなぁ。私、前世で彼氏に振られてるのよ。その彼氏だって大学時代になんか流れで付き合うことになっただけで、恋人らしいこともそんなにしてないのよ。
 そんな私が一国の王子を誘惑って。いや、見た目だけならベルの顔はメッチャ美人だから可能でしょうよ。でも、どうやって口説くの。口説き文句なんて分からないわよ。レベッカのときとは違うでしょ。男相手に顎クイしたって意味ないでしょ。

「でも、そこをクリアできればロッシュとシャルが結婚してこの国も安泰……ってことになるわよね。キアノのときと違ってロッシュは第六王子だから婿入り出来るし」
「がうがう」
「だから私に誘惑とかそういうのは無理よー。巨岩からシャルを守るとか力任せに解決できることなら喜んでやるのにー」

 こうなったらツヴェルが洗脳される前に、先手を打つしかないわ。今のうちにリカリット国に行って、彼の周辺を探れば魔術師の尻尾を掴めるかもしれないじゃない。

「よし。ノヴァ、リカリット国まで行くわよ!」
「がーう」
「面倒臭がらないで! お願い! 確かに砂漠遠いけど!」
「がうがう」
「聖獣使いが荒い!? 分かった、ちゃんとお礼するから!」
「がうう」

 ノヴァが溜息を吐きながら頷いてくれた。
 そうだ。どれくらい家を空けるか分からないから、一旦戻ってレベッカに手紙を出しておきたいわ。実は今朝、レベッカから魔法鳩でお菓子を送ってくれていたのよね。女子力が高くて羨ましいわ、本当に。

「ノヴァ、一度帰りましょう。準備をしないと」
「がう」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結済】 転生したのは悪役令嬢だけではないようです

せんぽー
恋愛
公爵令嬢ルーシー・ラザフォード。 彼女は8歳の頃、自分が転生者であることに気づいた。 自身がプレイしていた乙女ゲームの悪役令嬢に転生したルーシーはゲームのシナリオを崩すため、動き始める。 しかし、何も変わらなかった。 学園入学する前に王子との婚約を破棄しようと嫌われようとする計画もダメ。 逆に王子に好きになってもらおうとする計画もダメ。 何しても、王子の気持ちも世界も変わらなかった。 そして、遂にルーシーは何もやる気がなくなり、婚約破棄の運命の日まで流れるままに生きていくことにした。 ――――――――――――しかし、転生したのは悪役令嬢だけではない。 公爵家の子息、悪役令嬢の弟、ヒロインの友人、第3王子。 彼らもまた転生者であり、前世では悪役令嬢ルーシーを推しとしていた特殊な人たちであった。 そんなルーシーを愛してやまない人たちはこう決意する。 ――――――――――――自分がルーシーを幸せにすると。 転生した乙ゲーのキャラたちが、悪役令嬢を幸せルートに持って行くために試行錯誤する物語。

【完結】転生した悪役令嬢の断罪

神宮寺 あおい
恋愛
公爵令嬢エレナ・ウェルズは思い出した。 前世で楽しんでいたゲームの中の悪役令嬢に転生していることを。 このままいけば断罪後に修道院行きか国外追放かはたまた死刑か。 なぜ、婚約者がいる身でありながら浮気をした皇太子はお咎めなしなのか。 なぜ、多くの貴族子弟に言い寄り人の婚約者を奪った男爵令嬢は無罪なのか。 冤罪で罪に問われるなんて納得いかない。 悪いことをした人がその報いを受けないなんて許さない。 ならば私が断罪して差し上げましょう。

追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~

一色孝太郎
ファンタジー
【小説家になろう日間1位!】 悪役令嬢オリヴィア。それはスマホ向け乙女ゲーム「魔法学園のイケメン王子様」のラスボスにして冥界の神をその身に降臨させ、アンデッドを操って世界を滅ぼそうとした屍(かばね)の女王。そんなオリヴィアに転生したのは生まれついての重い病気でずっと入院生活を送り、必死に生きたものの天国へと旅立った高校生の少女だった。念願の「健康で丈夫な体」に生まれ変わった彼女だったが、黒目黒髪という自分自身ではどうしようもないことで父親に疎まれ、八歳のときに魔の森の中にある見放された開拓村へと追放されてしまう。だが彼女はへこたれず、領民たちのために闇の神聖魔法を駆使してスケルトンを作り、領地を発展させていく。そんな彼女のスケルトンは産業革命とも称されるようになり、その評判は内外に轟いていく。だが、一方で彼女を追放した実家は徐々にその評判を落とし……? 小説家になろう様にて日間ハイファンタジーランキング1位! 更新予定:毎日二回(12:00、18:00) ※本作品は他サイトでも連載中です。

転生したら悪役令嬢の兄になったのですが、どうやら妹に執着されてます。そして何故か攻略対象からも溺愛されてます。

七彩 陽
ファンタジー
 異世界転生って主人公や何かしらイケメン体質でチートな感じじゃないの!?ゲームの中では全く名前すら聞いたことのないモブ。悪役令嬢の義兄クライヴだった。  しかしここは魔法もあるファンタジー世界!ダンジョンもあるんだって! ドキドキワクワクして、属性診断もしてもらったのにまさかの魔法使いこなせない!?  この世界を楽しみつつ、義妹が悪役にならないように後方支援すると決めたクライヴは、とにかく義妹を歪んだ性格にしないように寵愛することにした。 『乙女ゲームなんて関係ない、ハッピーエンドを目指すんだ!』と、はりきるのだが……。  実はヒロインも転生者!  クライヴはヒロインから攻略対象認定され、そのことに全く気付かず義妹は悪役令嬢まっしぐら!?  クライヴとヒロインによって、乙女ゲームは裏設定へと突入! 世界の破滅を防げるのか!?    そして何故か攻略対象(男)からも溺愛されて逃げられない!? 男なのにヒロインに!  異世界転生、痛快ラブコメディ。 どうぞよろしくお願いします!

転生したら、全てがチートだった

ゆーふー
ファンタジー
転生した俺はもらったチートを駆使し、楽しく自由に生きる。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...