17 / 108
第17話
しおりを挟む「とりあえず、今日はもう帰りなさい。近くまで送らせるわ」
「はい。ありがとうございます、お姉様」
「それと……貴女に近付いてきた魔術師っていうのは、よく来るの?」
「いえ。一度会ったきりです。今日のは、私の独断でしたので」
「そう……」
レベッカを焚きつけておいて、自分は動かないのね。どこかで観察してる可能性もある。さすがにこの場所は割れてないと思うけど、いきなり姿の消えたレベッカを不審に思うかもしれない。
「もしその魔術師が来ても、私のことを喋らないようね。今日どこにいたのって聞かれても、適当に誤魔化しなさい。そうね……ああ、私の正体はバレてないだろうから、怪しい仮面の男に追いかけられてたとでも言えばいいわ」
「でも、それではお姉様が……」
「平気よ。貴女がそういえば向こうは仮面の人物を男だと思い込んでくれるかもしれないし、仮面の男に注意を引きことが出来れば、こっちから引きずり出せるかもしれないわ」
「さすがお姉様。頼もしいですわ」
「とはいえ、向こうがどう動くは予想も出来ないし、これを預けておくわ」
私はレベッカに小さな笛を手渡した。
「これは?」
「ただの犬笛よ。でも魔力を込めて吹けば、ノヴァがすぐに貴女だと気づいて反応するわ。何かあったらそれを吹いて知らせて。駆けつけるから」
「はい、お姉様。ありがとうございます」
嬉しそうに微笑むレベッカの頭を撫でた。
考えてみれば、このゲームに出てくる女の子キャラって基本的に不憫よね。シャルもバットエンドでは姉に酷い仕打ちを受けた上に王子様と結ばれずに死んでしまうし。レベッカもベルに散々利用されて殺される。
全てはベルの行い次第なのよ。私は絶対に、誰も殺したくない。殺させたくもない。
「それじゃあ、行きましょうか」
「ええ」
外に出て、ノヴァを呼んだ。
特に不審な影もなかったらしく、暇だったとぼやいていた。
「そういえば、お姉様はこの聖獣の言葉がお分かりになるんですの?」
「ん? あー、何だろう。もう十年も一緒にいるからね。言葉というより雰囲気? それで察せるようになったのよ。ね、ノヴァ」
「がう!」
「今のは俺が分かりやすいように喋ってやってんだぞって偉そうに言ってるわ」
「今の一声だけで分かるのですか……凄いですわ」
「あとは目とか、表情かしら。目は口程に物を言うってことよ」
「私にも、分かるようになるかしら?」
「がうがう」
レベッカが恐る恐る手を伸ばすと、ノヴァはどうぞと頭を差し出した。
良かった。ノヴァもレベッカのことを気に入ったようで。
「……ふふ。ありがとう、ノヴァ様」
「がう」
「様はいらないって言ってるわ」
「じゃ、じゃあ……ノヴァ、これからもよろしくお願いしますわ」
「がう!」
美少女と聖獣。なかなか絵になるわね。
でもあまり遅くなるとレベッカのご両親も心配する。ノヴァの背に乗って、チェアドーラ国の近くまでレベッカを送り届けた。
「明日の正午にまた来るわ。それで貴女の知人としてお屋敷に入れてくださる?」
「え、でも……お姉様は姿を隠しているのでは?」
「ええ。だから変装してくるのよ。関所を通るから、兵に知人が来ると伝えておいて。その方がこっちも楽だから」
「分かりました。では他国の友人が遊びに来るからお通しするように言っておきますの」
「頼んだわよ。そうね……何か別の名前が必要よね……」
「偽名というものですわね……お姉様に似合いそうなお名前……そうだ、スカーレットはどうですか? お姉様の赤い目に似合うと思うのです」
「スカーレットね。悪くないわ」
それでは、また明日。そう言って帰っていくレベッカを見送り、関所を通っていくのを確認した後に私も山に戻った。
スカーレット、ね。そういえば別のゲームでスカーレットって悪女がいた気がするわ。
つくづく縁があるわね。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる