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第二部

第13話 【職人と勇者】

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 古い建物からカンカンという鉄を叩く音が聞こえてくる。間違いなくここが噂の鍛冶師がいる工房なのだろう。
 俺たちは顔を見合わせて、重たいドアを開けた。

「す、すみませーん」

 部屋に入ると、熱気を感じた。
 部屋の奥でガタイのいい男性が、大きな暖炉みたいな物の前でハンマーを振りかざしてる。
 恐らく、この人が鍛冶師のガッドさんなのだろう。
 こちらからは後ろ姿しか見えないけど、武器を作っている最中みたいだ。仕事中に声をかけるのはよくないと思いつつも、他に誰も人がいないのでこの人に声をかけるしか今出来ることがない。

「あ、あの!」
「なんだ」

 勇気を出して大きめの声を出すと、食い気味に返事が来た。
 声で分かる。めっちゃ怖そうだって。アニメとかだったら凄腕の傭兵とかその手のタイプの渋い声だったもん。
 どうしようと俺が困っていると、蓮が空気を読まずに話し始めた。

「俺たち、貴方に武器を作ってもらいたくて来ました」
「……武器。この俺にか」
「はい。ドドーリーさんという方から紹介されて来ました」

 ドドーリーさんの名前を出すと、ガッドさんはハンマーを振る腕を止めてこちらを向いた。
 顔を見ると余計に萎縮してしまう。
 だってめちゃくちゃ怖い顔してる。めっちゃ機嫌悪そうに睨んでる。
 頬に刀傷まであるし、鋭い眼光は睨みだけで獣を殺しそうだ。

「ドドーリーだと? あいつ、何勝手なことを……」
「お願いします。このミズドの宝玉を使って、俺に剣を作ってもらえませんか」
「ミズド、だと? それはドドーリーが持っていた家宝だろ」
「え、そうなんですか? 俺たち、ドドーリーさんからの依頼を受けて、その報酬に貰ったんですけど……」

 蓮がそう言うと、ガッドさんは目を見開いて驚いた表情を浮かべた。あの依頼の内容をガッドさんも知っていたのだろうか。
 俺たちが龍を退治したと思ってるのかな。

「……なるほどな。それで、なんでコイツで剣を作りたいんだ」
「それは……ガッドさんは南にいる魔王の話は知ってますか?」

 俺が聞くと、ガッドさんは頷いた。

「当然だ。おかげで船は出ないし、こっちも困ってる」
「俺たち、ソイツを倒しに行きたいんです。そのために、彼の武器が必要なんです」

 ガッドさんが蓮を見る。
 見定めるように、じっくりと見てる。
 俺たちじゃ無理だと思ってるのかな。見た目だけなら確かにその辺にいる少年くらいにしか見えないよな。今は魔力抑えてるし。

「へぇ。なるほどね……でも、お前にミズドの剣は合わなくないか?」
「どういうことですか?」

 俺たちは二人して首を傾げた。
 合わないって、武器の属性とかそういう話だろうか。

「お兄さんには、お兄さんだけの武器があるだろってことだよ」
「っ!?」

 驚いて俺らは声にならなかった。
 その様子にガッドさんはニヤリと愉快そうな笑みを浮かべてる。
 まさか、蓮が勇者だって気付いたのか? だって力を抑えてるのに、そんなの無理だろ。

「俺は武器職人だ。相手の力量を見極めて、相手に合った武器を作る。人を見る目は誰よりも肥えていると自負してる」
「……そ、その通りです」
「まさか、おとぎ話だと思ってた勇者に会えるとはね。でも、その力は紛れもなく本物だ。魂の輝きが違う。天使でも妖精の類とも違う。唯一無二の光。それが勇者だろ」

 凄い。これが職人の目なのか。
 感心して溜息が零れる。
 いや、待て。感心してる場合じゃないだろ。大事な話がまだだ。

「あ、あの。それじゃあ、剣は作ってもらえないんですか?」
「いや、作るのは構わねぇ。勇者様の武器を作れるなんてもう二度とないだろうからな。でも、これでいいのか?」
「はい。俺の剣を取り戻すための武器が必要なんです」

 蓮がガッドさんの目を真っ直ぐ見つめて言った。
 迷いのない目。その眼差しに、ガッドさんも返事をするように見つめ返す。
 ガッドさんは俺の手からミズドの宝玉を受け取り、また背を向けた。

「二日だ」
「え?」
「二日で作り上げる。それまでは暇潰しでもしながら待ってろ」
「ありがとうございます!」

 俺達は頭を下げてお礼を言った。
 もっと無理難題とか言われるかなって思ったけど、勇者のおかげで話がトントン拍子で進んでよかった。

 これで、あとは転生者を倒すだけだ。
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