上 下
6 / 80
第一部

6話 「日記は人に見られ場所に隠そう」

しおりを挟む


「魔王様。魔王様、お時間ですよ」
「……んっ」

 肩をそっと揺らされ、俺は目を覚ました。もう6時間経ったのか。寝心地の良いベッドのおかげで物凄くよく眠れた。頭もスッキリしてる。
 やっぱり夢じゃないんだな。寝て起きたらいつもの俺の部屋に戻ってたりしてとかちょっと考えたんだけど、そんなこともなかった。ちゃんと魔王だ、俺。

「おはよう、リド」
「おはようございます、魔王様。本日のご予定ですが……」

 そう言ってリドはテキパキと俺の身支度を済ませてくれる。俺、起きてからまだ体を起こしただけで何もしてないのに着替えも済んでるし寝癖も直してもらった。

「魔王様は魔王城から出ないでくださいね」
「はーい」

 長々と今日の予定を教えてもらったけど俺はそれを適当に聞き流して返事した。
 とにかく今日は外出禁止なわけだよな。まぁ俺も人間に見つかって殺されたりするのは困る。せめて魔法の使い方くらいは覚えないと。
 そういえば、魔王城のマップに大きな書斎みたいなのあった気がする。ああいうところに魔導書とかあるんじゃないか。何か魔王のことを知る手がかりもあるかもしれないし、調べてみようかな。

「リド、書斎に行ってもいいか?」
「もちろん構いませんよ。ここは魔王様の城なのですから、ご自由になさってください。ただし、他の魔族たちに見つからないように気を付けてくださいね。一応、城の魔族には外に出払ってもらうように指示してありますが……」
「外……大丈夫、なのか?」
「大丈夫でしょう。今のところ、まだ人間達の中に我々を倒せるほど強い力を感じませんし。例の勇者も今はまだ野生の魔物に苦戦してるレベルですから」

 確かにこれがゲーム序盤の勇者ならまだレベルも低い。街の人たちの依頼とか受けて地道に経験値稼いでる頃かな。
 勇者のことを考えたら頑張れって応援したくなるけど、俺は魔族の王。今となっては魔物が倒されるのは悲しい。

「とはいえ、城を手薄にするわけにもいかないので、上級魔族には何名は警備に残してます。まぁ彼らなら知られても問題ないとは思いますが、万が一このことが人間に知られてはいけませんからね」
「そうだな。気を付けるよ」

 俺はゲームで見たマップを思い出しながら魔王城の中を歩く。
 そういえば、この魔王の部屋はゲームでは入ることができない部屋だった。もしかしたら2周目には入れます的な場所だったかもしれない。そういう周回要素も楽しみの一つだったからな。
 書斎は確か三階西側通路の一番奥。俺は周りを見渡しながら向かうことにした。

「広いなぁ……」

 とぼとぼ歩きながら呟く。
 誰もいない魔王城ってなんか寂しいな。プレイヤーとしてここに来たときはあちこちに敵がいて大変だったのに。重要な部屋に強い敵がいたり、宝箱を全部見つけようと必死だったな。

「さすがに宝箱は置いてないな。あれはあくまでゲームのシステムだもんな」

 魔王城に置いてある勇者の最強武器とかチラッと見てみたかったな。


ーーーー


 ゆっくり歩き回りながら、ようやく書斎へと辿り着いた。
 今が子供の足だからなのか、ここまで来るのにそこそこ疲れてしまった。不便だな、このままじゃ。早く魔力の使い方を覚えないと。

「……よい、しょ!」

 重たいドアを開け、中に入る。少し埃っぽい空気だが、室内は綺麗にされてる。こういうところもちゃんとリドが掃除してるのかな。うん、してそう。
 俺は適当に本棚から一冊手に取り、パラパラと捲っていく。難しい言葉ばかりで何書いてあるのかよく解らない。書いてる文字はちゃんと読める。でも内容を理解できるかどうかは全くの別だ。
 俺、どっちかって言えば理系だから文章を読み解くのは苦手なんだ。
 でも魔王はちゃんと魔法が使えた。ということはここに書かれた魔導書も理解しているはず。こうして読んでるだけでも魔王の過去の記憶に触れる何かがあるかもしれない。
 魔王、日記とかつけてたりしないのかな。RPGってよく登場人物の日記とか手記とか置いてあったりするじゃん。いや、魔王なら本人の私室に置いてあるか。こんなところに置いておく理由ないもんな。日記見られるとかメチャクチャ恥ずかしいし。今は俺が魔王なんだから、実質俺の書いた日記みたいなものだろうし。うん、恥ずかしい。

「さて、と」

 とにかく、他にやることもないしさっさと読み漁るか。自由に行動できるようにならないと勇者をこっそり見に行くこともできないからな!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

上司に連れられていったオカマバー。唯一の可愛い子がよりにもよって性欲が強い

papporopueeee
BL
契約社員として働いている川崎 翠(かわさき あきら)。 派遣先の上司からミドリと呼ばれている彼は、ある日オカマバーへと連れていかれる。 そこで出会ったのは可憐な容姿を持つ少年ツキ。 無垢な少女然としたツキに惹かれるミドリであったが、 女性との性経験の無いままにツキに入れ込んでいいものか苦悩する。 一方、ツキは性欲の赴くままにアキラへとアプローチをかけるのだった。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

勇者よ、わしの尻より魔王を倒せ………「魔王なんかより陛下の尻だ!」

ミクリ21
BL
変態勇者に陛下は困ります。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

処理中です...