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第22話 研究者と探究心
しおりを挟む「うーんっっ」
リザエルたち、そして両親も帰ってから数時間後。
作戦会議も一区切りし、キースは椅子に座ったまま思い切り体を伸ばした。
「はぁー……疲れちゃったー」
「ガッハッハ! そんな疲れるようなことはしていないだろう。体が鈍ってるんじゃないのか、最近訓練もサボってるじゃないか」
「父上やガレッドの体力を基準にしないでほしいなぁ」
ぐったりと机に体を突っ伏しているキースに、父であるゾイは大きな口を開けて笑った。
疲れもするだろう。今まで謎だらけだった国の内情が少しずつ明らかになってきた。そしてモンスターの暴走化の原因も突き止められるかもしれない。そのための作戦会議。キースやガレッドだけでなく他の兵士達にも力が入るというもの。
「あの国はずっと前から胡散臭いとは思っていたが、あんな若い娘を利用しているとはなぁ」
呆れた表情でゾイは言う。それに同意するようにガレッドも頷いた。
「本当ですね。それにしてもモンスターが悪化する原因は何なんでしょうね。どう見てもあの国が原因としか思えませんよ」
「それは同意。あの国の周囲から変な魔力を感じるし、それに当てられたモンスターが凶暴化してる。この一ヵ月での被害はかなりの量だ」
「あの辺りの調査を頼んでも嫌がる冒険者も増えてきました。ギルドではもう扱いきれないかもしれません」
ガレッドとミラフェスが眉間に皴を寄せている中、キースだけはゆるゆるとした表情のままだった。
そんな息子に、ゾイはふっと静かに笑みを零す。
「キースよ。お前の目にはどう見えている?」
「ナーゲル国、ですか? まだ何も映らないですね。多分、姫……リザエル嬢の言っていた結界が妨害してる……」
「だが、その結界を維持していた聖女様ももういない。いずれあの国を守るものはなくなるはずだ」
「そうなれば、きっとあの国が隠しているものも明るみになる……僕の仮説も立証されるはず」
「お前が前から言っているやつか」
「そう。あの国こそ、魔物を生み出している諸悪の根源であると……」
キースは立ち上がり、窓から外を眺めた。
ここから遠く離れたナーゲル国の壁が見える。壁の周りやその上空には何も見えないのに、地面から湯気のように禍々しい魔力を感じる。
「僕のギフト……魔眼でも見えないものがあるなんて、この世にはないんだ」
そう言うと、キースの琥珀色の瞳が赤く染まった。
彼もまた、神からギフトを授かりし者。その目はあらゆる魔力の流れを見ることが出来るというもの。
「それ、言わなくて良かったの?」
「ん?」
ミラフェスの問いに、キースは首を傾げた。
「君もギフト持ちだってこと」
「それ、わざわざ言う必要ある? てか、多分リザエル嬢は気付いてるよ」
「そうなの?」
「うん。僕だって会ってすぐに気付いたし、向こうも気付いたうえで口にしていないだけだよ」
「へぇ。今後の作戦にも関わることだし、次に会ったときはみんなの魔法も聞いておかないとね」
ミラフェスはテーブルの上に置かれた本を手に取り、ペラペラと捲りながら言った。
キースの言う通り、リザエルも当然気付いていた。ギフトを持っている自分のことを特別視していなかった彼女は、キースも同じギフト持ちであっても「この人もそうなんだ」程度にしか思っていなかった。
ナーゲル国では自分の魔法のことを口にするなと言われていたこともあり、王子であるキースも自身の魔法やギフトのことを同じように隠しているかもしれないと思ったからだ。
「そうだ。今度、異世界のお話とか聞いてみたいな」
「それは俺も気にはなった。あの娘、たまに変な言葉使うし」
「そうだね。言語をリザエル嬢と共有してるって言ってたけど、なんでよく分からない単語が出てくるんだろう。不思議だよねぇ。これも異世界の子の力なのかな?」
「分からないが、異世界のことを聞けるなら何でもいい。魔法がない世界でどうやって生活しているのか、どういう歴史を築いていたのか、とにかく気になる。そうだ、あのリザエルの魔法は俺と娘の知識を共有することも出来るのだろうか。そうしたら異世界の風景も見ることが出来るんじゃないか?」
「ちょっと落ち着きなよ、ミーくん」
「落ち着いていられるか! まだまだ知らないことが沢山あるんだぞ。ああ、俺も異世界に行ってみたい……あの娘の使う言葉を全て知りたい……」
ミラフェスは夏帆が興奮して言った合法ショタという単語が少し気になっていた。
それがなくとも、彼は研究者。気になることをそのままにしておけない性格だ。自分たちが暮らすこの世界以外の、異なる世界から来た人間がいるとなれば気になって仕方ない。
今回は作戦会議と言うことで必要のない質問は控えたが、本当は色々と聞きたいことがあった。
「次会ったときは容赦しないぞ、異世界の娘……」
そう言うミラフェスの目は、獲物を追う肉食獣のようだった。
——
ー
「ぶえっくしょん!!!」
「わっ。ちょっと、手で押さえなさいよ」
「ううー。急に出てくるんだもん、仕方ないでしょ。生理現象だよ」
夏帆は鼻を擦りながら、文句を垂れた。
「……なんか、寒気する」
「あら、風邪?」
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