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第14話 身分と友達
しおりを挟む「そして、昨日。私は急に王子から婚約破棄を言い渡され、それまで口も聞いたことのなかった彼女へ嫌がらせ、殺人未遂を行ったとやってもいない罪を着せられ処刑されるところでした」
「わ、私はそのこと全然分からなかったんだけど……とにかくあの王子様がとにかく嫌で城から逃げたくて牢屋にいるリザに会いに行きました。それまでこの世界の言葉も分からなかったけど、それもリザのおかげで今はペラペラで……」
「ええ、まぁ……そういう感じで脱獄をしまして、カホを元の世界に戻すことを約束し、まずは精霊の森に行ってみようと思いまして……ただ、父と母もあのまま国に残っていたら何をされたか分かったものじゃなかったので、彼女に協力してもらって一緒に国を出たのです。そして、隣国へと向かう途中にガレッド様と……」
「そうだったんですね。いやぁ、それにしても……ちょっと頭の中で整理させてもらって良いですかね……」
がレッドは深く息を吐き、額に拳を当てていまリザエルが話してくれたことを一つ一つ整理した。
いきなり謎だらけだった国から王子の婚約者が殺されそうになって逃げてきた、という事実だけでも衝撃的なのに、加えて異世界から人がやってきたなんてすぐに受け止められるものじゃない。
「あはは! ガレッド、大丈夫かー?」
「お前こそ、なんでそんなヘラヘラしてるんだよ……」
「僕は面白ければ何でもいいタイプだから」
「ったく……昔からそうだよな……」
リザエルは二人のやり取りに目をパチパチとさせた。
キースは王子で、ガレッドは元騎士であり冒険者。身分の違う二人がこんなにも砕けた話し方をしてきることが、どこか不思議で、微笑ましいとも思えた。
「二人は、仲が良いのですね」
「え、あー……まぁ、幼馴染ってやつですかね。俺の親は国王の側近で、小さい頃からコイツとは一緒にいることも多くて……」
「まぁ兄弟みたいなものだね」
互いに顔を見合せて、ニコッと笑う。
身分の違いなど気にせず関係を築くことが出来ている。リザエルは素直に羨ましいと思った。
城にいたときの話し相手はメイド一人。それも必要最低限の会話だけ。余計な会話を禁じられていた。
久々に会話らしい会話をしたのは、夏帆だ。リザエルはチラッと横にいる少女に目を向けた。
「……貴女、なんて顔してるんですか」
「へっ!?」
夏帆は気の緩んだ顔でキースとガレッドのやり取りを見ていた。
それは微笑ましいなどという気持ちとは違う、どこか邪な感情が込められたような表情だと、リザエルは感じた。
「いや、あの……眼福と言うかなんというか。こっち来てからずっと見てきたのがあの王子様だけだったからさ、なんかもう……イケメンだけど笑顔から滲み出る悪役オーラが本当に嫌で病みそうで……だからあの二人みたいな純粋な笑顔を見ると和むというか、そういうの好きだから最高というか……」
「やっぱり貴女の言うことは分からないわ……」
「分かんないかな。美しいものを見ると癒されるでしょ? そういうこと。萌え、栄養」
「いや、分からないわね……」
これが異世界での常識なのかしら、とリザエルは首を傾げる。
今まで趣味を持つことも出来なかったリザエルには何かを楽しむという感覚すら持つ余裕はなかった。実家にいた頃のリザエルならば、もしかしたら少しは理解出来たかもしれないが、夏帆のそれはこの世界にないジャンルであることは言うまでもない。
「えー、とりあえず話は分かりました」
二人の会話を遮るように、ガレッドがポンと両手を合わせた。
「ナーゲル国のことは今後も調べていくとして……精霊の森に関しては、それを調べている研究者がいるので、そいつに相談してみましょう」
「本当ですか?」
「はい。ただ、今はこの国にいないので、帰ってきたら紹介しますね」
「ありがとうございます」
リザエルは頭を下げた。
夏帆のことに関しては、その研究者に協力してもらえば何かしらの手がかりが掴めるかもしれない。
あとは、ナーゲル国のこと。魔物のこと。これを解決しなければいけない。仮にもあの国の王子の婚約者だった身。無関係な民を見殺しにするなんて真似、リザエルには出来ない。
それは神より加護を与えられた聖女として恥ずべき行為だ。
「さて……今日はもうお休みになられた方が良いですね。モンスターのことを調べようにも俺のチームはボロボロですし、皆さんもお疲れでしょう?」
「え、あ……そうですわね……」
「皆さんの住む家を用意できるまでは宿を使ってください」
ナーゲル国から抜け出し、何時間も歩き続けた。足は痛むし、お腹も空いている。
だが、今のリザエルたちは無一文だ。両親も畑で取れた野菜を売って日銭を稼いでいたので、手持ちはほぼない。
「あの、お金はなくて……一応、身につけていた宝石類は持ってきたのでこちらを換金できますか?」
「暫くの生活費はこちらで出すつもりだったけど……まぁ手持ちが多くて困ることはないしね」
キースはリザエルが取り出した宝石を手に取って、じっと見た。
「……へぇ、かなり質がいいね。これだったらかなり高く売れると思うよ」
「そうなんですか。あまり興味がなかったので価値など気にしたことがありませんでした」
与えられる宝石は、王子の婚約者という人形を華やかに着飾るだけのものに過ぎない。リザエルの好みなど関係なく、無駄に高いものを付けられていただけだった。
しかし、それが役に立ったのだから金持ちの見栄だったとしても今は感謝しよう。
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