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4話 抜け道と脱獄
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——
「凄いね、誰にも会わずに来れたよ」
そう言いながら夏帆は牢屋の鍵を外した。
リザエルの祈りのおかげで看守の部屋から鍵を持ち出すことに成功した夏帆は楽しそうに笑みを浮かべながら牢屋の扉を開ける。
あとはここから抜け出すだけ。そう思っていたが、リザエルはふと自分の格好が気になった。
「……これでは目立つかしら」
「え? あ、あー……確かにリザは綺麗だから目立っちゃうね」
「そこじゃありません。格好です」
「あ、そっち」
夏帆はポンと手を叩いた。
リザエルはドレスのまま閉じ込められてしまった。パニエで膨らんだスカートやコルセットは移動の邪魔になってしまう。外したいところだが、ここで脱いでも着替えがない。
「困ったわね……」
「うーん……あ、もう一度私に祝福だっけ? あれ使える?」
「それは、いくらでも」
「さっき看守の部屋に行ったときに、服が捨てられてる部屋もあったんだよ」
「ああ、そういえば地下には廃棄部屋もありましたね。あそこは王子が買うだけ買って着なかったものや使用人の古着なんかも一緒に捨ててあったはず……」
普段使わないため忘れていました、とリザエルは小さく呟いた。
そこは要らなくなったものを処分するための部屋。数日に一度、ゴミを廃棄するために業者がやってくるが運良く捨てられる前だった。
「だったら私も行くわ。ここから遠くないし、その部屋には隠し通路があったはずです」
「隠し通路!? なんかゲームみたいでワクワクするね」
「なんですか? げーむとは」
「私のいた世界での遊び、娯楽だよ。それより、早く行こうよ、こんなジメジメしたところに居たらカビ生えちゃうよ」
「そうね」
リザエルは重いスカートを持ち上げ、音がしないように慎重に足を進めた。
———
——
誰にも見つかることなく廃棄部屋に着いた二人。
リザエルは適当に服を見繕い、ドレスを脱ごうとした。
「……」
「どうしたの、リザ?」
「…………ちょっと、手伝ってくださる?」
「え? あー、そうだよね……」
夏帆は納得したように軽く笑った。
一人で着ることも脱ぐことも出来ないドレス。普段は使用人に着させてもらうため、自分では脱ぐことが出来なかった。
とはいえ、夏帆もメイドに着せてもらっているため着方も脱がせ方も分からない。リザエルに教えてもらいながら、どうにかドレスを脱いで軽装へと着替えを済ませた。
「疲れた……よくこんなの着てられるよね……私、初めて着たときお腹締められすぎて吐くかと思ったよ」
「私も最初は苦しかったけど、十年も着ていれば慣れるわ」
「うへぇ……」
「そういえば、ローブに隠れてて気付かなかったけど……貴女、変わった格好をしているのね。それは異世界の服なの?」
リザエルは使用人が捨てたと思われる服と裾の破れたローブを身に纏いながら、夏帆の姿を見る。
スーツのようにも見えるが貴族のそれとは全く違う上着に、薄い生地で作られた短いスカート。この世界には存在しない服装に、リザエルは興味を示した。
「ああ、これは高校の制服だよ」
「こうこう?」
「えっとね、学校だよ。学ぶ場所。それの女の子の制服。ブレザーっていうんだ。ドレスだと動きにくいし苦しいからこっちに着替えてきたの」
「学び舎の制服がこんなに薄手なのですか? それに足も見せすぎでは……」
「これは可愛いから……ってゆーか、今は逃げるのが先でしょ」
「ああ、そうでしたね。私も記録を読んだだけで確かめたわけではないのですが……どこか床が外れる場所があると思うのです」
「床ね。わかった」
二人はゴミを搔き分けながら、石畳の床を一つ一つ調べた。
地下は空気が冷たく、二人とも凍えてしまいそうになりながらも必死に氷のように冷えた石の床に触れていく。
どれほど地に這っていただろうか。牢屋で祈りを捧げていたため時間が全く分からないが、夏帆が牢屋に来たのはおそらく深夜。皆が寝静まった隙にやってきたのだろう。
夜が明けて、部屋に夏帆がいないことに気付いたら城中が大騒ぎになる。そうなる前にこの国を出なければ、捕まってしまう。二人に残された時間はあまり残っていない。
「……あ、あった! リザ、これじゃない?」
「本当?」
嬉しそうな表情で夏帆はリザエルを呼んだ。
それは以前、王城の書庫で見た隠し通路の入り口。石で作られた扉にはご丁寧に小さな取っ手が付いている。これは百年以上前に緊急時の避難経路として作られたものだと記載されていた。
「この道を進めば、国の外に出るはずです」
「国から出られるの?」
「ええ。この国の緊急時……城が何者かに襲われたとき、王族が国から逃げられるように。その為のものです」
「え、国を捨てる気なの?」
「この国の王族はそう思って作ったようですね」
「ふーん……」
興味なさげに夏帆は呟く。
幸い、扉に鍵はない。重たい扉を二人で持ち上げるように開き、地下のさらに地下通路へと降りた。
夏帆が持ってきたランタンの灯りだけでは少々心許ないが、この国を出るまでの我慢。
「ね、ねぇ……国から出て、そのあとはどうするの?」
「精霊の森を目指そうと思ってます」
「精霊?」
「ええ。精霊王様にお会いすることが出来れば、貴女を元の世界に戻す方法も分かるかもしれない」
「本当に?」
「ええ。精霊王はこの世界の全てをご存じだと言われているわ。ただ、残念なことにその場所を誰も知らないの……だから、まずは近くの国で情報収集でもしましょうか」
「他の国で留まっても平気なの? この国の人が追ってくるかも……」
「それはないわ。この国の人は外へ出ることを禁じられている。王族もこの国の外に出たことはないの」
「なんで?」
「知らないわ」
夏帆は意味が分からないと首を傾げた。
知らないものは知らない。リザエルが生まれたときからそうだったのだから。
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