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2章
1.アクシデントは突然に
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遡ること、1ヶ月。
俺とジークハルトとノエルは、のんびりと旅を続けていた。
道中盗賊が出たり山賊が出たり、暴れイノシシの群れに突撃されたりはしたけど、それ以外は至って普通で穏やかなものだ。
盗賊と山賊は適当に蹴散らして、生き残ってた奴は街の衛兵に突き出してやったら懸賞金を貰えたし、イノシシはいいお肉になった。半分は肉屋に売り飛ばして、半分は塩漬けにして異空間に保存してある。なかなかどうして悪くない戦果といえる。
あぶく銭で街で食べ歩きをしたり、流行りの舞台を見に行ったり、ちょっといい宿に泊まってみたり、酒場でビールをがぶ飲みしたり。そりゃあもう楽しい旅になり、俺は上機嫌だった。
時折疲れたら転移魔法で自宅に戻り、庭が荒れないようにお手入れしたり、料理を作ったりしてさ。
ジークハルトも家の手入れをしたり、ピザ窯を増設してピザを焼いたり、庭で豚肉の塩漬けを燻製にしたりと、スローライフを楽しんでいた。
ジークハルトは地味に料理も上手で、自家製パンチェッタのたっぷり入ったカルボナーラとペペロンチーノなんかを食べさせてくれたりするんだよな。凝ってはないけど、舌が肥えてるせいか旨い。
俺?俺は……塩漬け肉を入れてポトフ作ったりとかかな!野菜ぶった切って煮ればいいのでとても楽だし。俺が作るのはどこまで言っても漢の料理である。
まあ、どんなんでもジークハルトはうまいうまいって食べてくれるからいいんだけど。
そんなこんなで、のんびりゆったりと旅を続け、俺たちは遂に1つ目の国境を超えた。
遂にエルフィン王国とはおさらばである。
エルマンが守る辺境とは王都を挟んで対極に位置する国境には、アーリヤの森という広い森林が広がっている。
一見穏やかなただの森だが、迷いの森とも呼ばれていて、妖精たちが気に入らない者は奥まで通さないという不思議な場所だ。
お陰で、山賊とか野盗の類はこの森には存在できず、そういう意味では安全な旅ができるとも言える。
竜と妖精はけして相性は悪くないし、聖獣であるノエルの周りにはふよふよと光の玉が寄ってきてじゃれついていた。きっとあの光が妖精というやつなのだろう。
この分なら問題なく森を抜けて、隣国であるルジュナ大公国に入れるだろうと予想していた。
――――それが、どうしてこうなった???
俺は何が起こったかわからなかった。
ただいつも旅をしている時のように、ちょっと森で一休みして、汗を流しがてら泉で水浴びをしただけ。おかしなことなど、何もなかったはずだ。
泉は大きくて、水は何度か飲んだこともあったし、その時だってなにもなかった。
むしろ、冷たくてすごく美味しい水と言える。疲れもよく取れて、水筒にも何度も補充してたぐらいだ。
「リディ!どこだ??魚が焼けたぞ!!」
水浴びした俺が冷えないように火を起こして、捕った魚を焼いて昼飯を用意していてくれたジークハルトが、いつもまでも戻ってこない俺を呼びに来たらしい。
俺は水面に映る自分の顔と、自分の手のひらを見て眉を下げた。
「ジークぅ~~~!!!!!!」
「どうしたリディ!?」
大声で呼ぶと、ジークハルトが飛んでくる。
俺はゆっくりと振り向いて、地面に座り込んだままジークハルトを見上げた。
「えっ……リディ??だよな??」
コクコクと頷く俺を、ジークハルトはひょいっと抱っこする。
ずぶ濡れのままの俺をジークハルトは俺をまじまじと見て、くんくんと鼻を鳴らす。
「うん、間違いなくリディだな。……一体、何があった?」
「わかんない……水浴びしてたら、いきなり足が着かなくなって。慌てて水から上がったんだけど、気付いたときにはもうこうなってた」
ジークハルトは眉を寄せて、うーんと唸る。
しかし、取り乱すことはなく、俺を抱いたまま火の近くまで戻ると、用意していてくれた大きなフカフカのタオルで俺の体を拭き、とりあえずマントを巻いて輪切りにした丸太の椅子に座らせる。
「慌てても仕方ない。とりあえず良い焼け具合だから食べようぜ」
そう言ってジークハルトは串に刺さった魚を俺に差し出し、ふと考えてフーフーと魚を冷まし始めた。
串が熱くなりすぎていないかもきちんと確認して、改めて俺の前に差し出す。
「大丈夫か?そのままで食えそうか?ダメそうならほぐしてやるし、骨も取ってやるから」
「ありがと。多分、大丈夫だと思う」
俺は手を伸ばしてジークハルトから焼き魚を受け取る。
その手は、ジークハルトの大きな手と比べるとずっと小さく、全力で広げても4分の1もあるかどうか怪しい。
ぱくん、と程よく冷まされた魚に齧りつくが、いつもの半分にも満たない量で口の中がいっぱいになった。
無心でもぐもぐと魚を咀嚼し、ようやっと一匹食べ終えて、俺は改めて自分の手のひらを見る。
まるで紅葉のような、とは言い過ぎだろうが、俺の手は確実に小さくなっていた。
ワフン、と甘えてくるノエルも受け止めきれずにころりんと後ろに倒されてしまいそうになる。
ジークハルトがすかさず支えてくれて、何事もなかったように椅子の上に戻った。
「おい、リディは今ちいせぇんだからわきまえろ!あぶねぇだろうが」
「クゥーン……」
ノエルは悪かったと思ったのか、珍しくジークハルトに逆らわず反省しているようだった。
なんだか申し訳なくなって、俺はノエルの頭を撫でてやる。
「ごめんな、ノエル。ちょっとの間だけ、我慢してな」
「ウォン!」
…………ほんとにちょっとの間かどうかはわからんけど。
体は小さくても腹は減る。
ほんの6歳ぐらいに縮んだ足をブラブラさせながら、俺は二匹目の焼き魚に齧り付いた。
妖精のいたずらなのかなんなのか。これは遠回しな拒絶なのか。
水浴びして幼児化するという衝撃の事件に、ただただため息が漏れる。
順風満帆の旅は、とりあえず一旦おしまいのようだった。
俺とジークハルトとノエルは、のんびりと旅を続けていた。
道中盗賊が出たり山賊が出たり、暴れイノシシの群れに突撃されたりはしたけど、それ以外は至って普通で穏やかなものだ。
盗賊と山賊は適当に蹴散らして、生き残ってた奴は街の衛兵に突き出してやったら懸賞金を貰えたし、イノシシはいいお肉になった。半分は肉屋に売り飛ばして、半分は塩漬けにして異空間に保存してある。なかなかどうして悪くない戦果といえる。
あぶく銭で街で食べ歩きをしたり、流行りの舞台を見に行ったり、ちょっといい宿に泊まってみたり、酒場でビールをがぶ飲みしたり。そりゃあもう楽しい旅になり、俺は上機嫌だった。
時折疲れたら転移魔法で自宅に戻り、庭が荒れないようにお手入れしたり、料理を作ったりしてさ。
ジークハルトも家の手入れをしたり、ピザ窯を増設してピザを焼いたり、庭で豚肉の塩漬けを燻製にしたりと、スローライフを楽しんでいた。
ジークハルトは地味に料理も上手で、自家製パンチェッタのたっぷり入ったカルボナーラとペペロンチーノなんかを食べさせてくれたりするんだよな。凝ってはないけど、舌が肥えてるせいか旨い。
俺?俺は……塩漬け肉を入れてポトフ作ったりとかかな!野菜ぶった切って煮ればいいのでとても楽だし。俺が作るのはどこまで言っても漢の料理である。
まあ、どんなんでもジークハルトはうまいうまいって食べてくれるからいいんだけど。
そんなこんなで、のんびりゆったりと旅を続け、俺たちは遂に1つ目の国境を超えた。
遂にエルフィン王国とはおさらばである。
エルマンが守る辺境とは王都を挟んで対極に位置する国境には、アーリヤの森という広い森林が広がっている。
一見穏やかなただの森だが、迷いの森とも呼ばれていて、妖精たちが気に入らない者は奥まで通さないという不思議な場所だ。
お陰で、山賊とか野盗の類はこの森には存在できず、そういう意味では安全な旅ができるとも言える。
竜と妖精はけして相性は悪くないし、聖獣であるノエルの周りにはふよふよと光の玉が寄ってきてじゃれついていた。きっとあの光が妖精というやつなのだろう。
この分なら問題なく森を抜けて、隣国であるルジュナ大公国に入れるだろうと予想していた。
――――それが、どうしてこうなった???
俺は何が起こったかわからなかった。
ただいつも旅をしている時のように、ちょっと森で一休みして、汗を流しがてら泉で水浴びをしただけ。おかしなことなど、何もなかったはずだ。
泉は大きくて、水は何度か飲んだこともあったし、その時だってなにもなかった。
むしろ、冷たくてすごく美味しい水と言える。疲れもよく取れて、水筒にも何度も補充してたぐらいだ。
「リディ!どこだ??魚が焼けたぞ!!」
水浴びした俺が冷えないように火を起こして、捕った魚を焼いて昼飯を用意していてくれたジークハルトが、いつもまでも戻ってこない俺を呼びに来たらしい。
俺は水面に映る自分の顔と、自分の手のひらを見て眉を下げた。
「ジークぅ~~~!!!!!!」
「どうしたリディ!?」
大声で呼ぶと、ジークハルトが飛んでくる。
俺はゆっくりと振り向いて、地面に座り込んだままジークハルトを見上げた。
「えっ……リディ??だよな??」
コクコクと頷く俺を、ジークハルトはひょいっと抱っこする。
ずぶ濡れのままの俺をジークハルトは俺をまじまじと見て、くんくんと鼻を鳴らす。
「うん、間違いなくリディだな。……一体、何があった?」
「わかんない……水浴びしてたら、いきなり足が着かなくなって。慌てて水から上がったんだけど、気付いたときにはもうこうなってた」
ジークハルトは眉を寄せて、うーんと唸る。
しかし、取り乱すことはなく、俺を抱いたまま火の近くまで戻ると、用意していてくれた大きなフカフカのタオルで俺の体を拭き、とりあえずマントを巻いて輪切りにした丸太の椅子に座らせる。
「慌てても仕方ない。とりあえず良い焼け具合だから食べようぜ」
そう言ってジークハルトは串に刺さった魚を俺に差し出し、ふと考えてフーフーと魚を冷まし始めた。
串が熱くなりすぎていないかもきちんと確認して、改めて俺の前に差し出す。
「大丈夫か?そのままで食えそうか?ダメそうならほぐしてやるし、骨も取ってやるから」
「ありがと。多分、大丈夫だと思う」
俺は手を伸ばしてジークハルトから焼き魚を受け取る。
その手は、ジークハルトの大きな手と比べるとずっと小さく、全力で広げても4分の1もあるかどうか怪しい。
ぱくん、と程よく冷まされた魚に齧りつくが、いつもの半分にも満たない量で口の中がいっぱいになった。
無心でもぐもぐと魚を咀嚼し、ようやっと一匹食べ終えて、俺は改めて自分の手のひらを見る。
まるで紅葉のような、とは言い過ぎだろうが、俺の手は確実に小さくなっていた。
ワフン、と甘えてくるノエルも受け止めきれずにころりんと後ろに倒されてしまいそうになる。
ジークハルトがすかさず支えてくれて、何事もなかったように椅子の上に戻った。
「おい、リディは今ちいせぇんだからわきまえろ!あぶねぇだろうが」
「クゥーン……」
ノエルは悪かったと思ったのか、珍しくジークハルトに逆らわず反省しているようだった。
なんだか申し訳なくなって、俺はノエルの頭を撫でてやる。
「ごめんな、ノエル。ちょっとの間だけ、我慢してな」
「ウォン!」
…………ほんとにちょっとの間かどうかはわからんけど。
体は小さくても腹は減る。
ほんの6歳ぐらいに縮んだ足をブラブラさせながら、俺は二匹目の焼き魚に齧り付いた。
妖精のいたずらなのかなんなのか。これは遠回しな拒絶なのか。
水浴びして幼児化するという衝撃の事件に、ただただため息が漏れる。
順風満帆の旅は、とりあえず一旦おしまいのようだった。
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