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15.神獣フェンリル

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「あなた、顔を出さないから心配して来てみたら、一体何をしているんです?」

「えーと、引っ越ししたから家の片付けだよ。埃だらけの汚い家じゃ、ノエルが可哀想だろ?」

 ハッハッ、とかわいらしい小さな舌を覗かせてソーニャの足元にノエルがまとわりつくと、ソーニャは目尻を下げてノエルを膝に抱き上げた。
 なんとなくあざとさを感じなくもないが、気のせいだろう。うちのノエルに限ってそんな打算があるわけがない。

 ノエルを持ち出したせいか、ソーニャは納得してそれ以上の追求はしてこなかった。
 二人でお茶を飲みながら暫くダンジョン探索は切り上げようと思っていることを告げても、食い下がったりはしてこない。

「残念ですが仕方ないですね。幾らあなたがS級クラスとはいえ、ボスにドラゴンが出てくるようでは、ソロで潜らせるのは心配ですし。今のところ他の冒険者が27階をクリアしたという話も聞きませんから、とりあえずは問題ないでしょう」

「そうなんだ。ていうか、あのドラゴンが倒せるならその先もそれなりに頑張れると思うよ」

「でしょうね。…………それにしても、ププッ。流石は竜王妃というところですか」

 ボス戦の顛末を聞いたソーニャは、堪えきれないという風に肩を震わせた。

「笑い事じゃないし、もう。こっちはすげー強いのと戦う気満々だったのにさぁ。あんなポーズされたら、こっちだってどうすることもできないし」

「フフフっ、あなたならそうでしょうね。でもまあ、良かったじゃないですか。ノエルちゃんが何とかしてくれたんですから。ノエルちゃんはファーストスレイヤードッグですね」

「ワンッ!」

 ファーストスレイヤードッグなんて聞いたことないけど、言い得て妙だ。ノエルはいっちょまえに誇らしそうに胸を反らそうとしているが、全身まるっこいので出す胸がないのがまたかわいい。

「ボス宝箱も犬仕様だったしな。見ろよこのオモチャと大量のジャーキー。こんなのが出てくる宝箱なんか見たことないし」

「これが30階層の宝箱から!?……ちょっと見せてもらっていいですか?」
 
 ソーニャはオモチャとジャーキーを手に持って、じっくり眺めている。
 最初は面白がっているみたいだったのに、段々と眉に皺が寄ってきて、俺は何だか不安になった。まさか、あんまり犬には良くないものだったりしたんだろうか。

「………リディ、このジャーキーはもうノエルちゃんにあげてしまったんですか?」

「う、うん……結構バクバク食べてて。なんかダメだった?良くない食べ物なのか!?」

 焦って俺が問い詰めると、ソーニャは何とも言えない顔をする。

「いえ、けして毒というわけではないので。……ノエルちゃんは、元気そうですしね。このオモチャで私も遊んでみていいですか?」

「ああ、勿論!」

 ノエルは遊ぶのが大好きだから、ソーニャが構ってくれるというなら大歓迎だ。
 ソーニャはノエルを膝から下ろして、紐の先のリングに魔力を通す。ノエルは大喜びで飛びついて、小さいながらも果敢に食いついた。
 といっても、ほんとにまだ子犬だから、全然力なんてないんだけど。グイグイっと軽く引っ張るだけで、適度に引っ張りっこのマネをしたら満足してしまう。
 続いて転がされたボールにじゃれ付き、大きな前脚でボールを掴んでカプカプ。数回噛み噛みして転がしていると、オヤツが一粒二粒コロンと転がり出てきた。
 ノエルはそれを口に含んでご満悦になり、ボールに興味を失って床をコロコロする。可愛すぎて、ほんと何時間でも見ていられるんだよな。

「リディ、落ち着いて聞いてください。ノエルちゃんは普通のワンコではありません」

「ん?なんだよ今更。ノエルは普通の犬じゃなくて、すごく賢い犬だぞ」

「そういう意味ではなくてですね。……このロープは、魔力を込めて遊ぶもので、相応の魔力を有していないと引っ張り合いができないというトレーニングアイテムなのです。そして、このボールも、魔力を籠めないとオヤツを吐き出しません。無限に出てくるというのは解釈違いで、中から出てきたのは籠められたマナの塊が結晶化したもの。そして、そのジャーキーはドラゴンジャーキーです」

「…………………は?」

「鑑定してみましたが、ドラゴンジャーキーは食べると最大HPとMPが飛躍的に上昇する上、取得経験値が一定時間3倍になるという効果がついています。ノエルちゃんはそのジャーキーをお腹いっぱい食べた後、手加減しているとは言えS級冒険者のあなたが魔力を籠めたオモチャで引っ張り合いのトレーニングをし、ボールで凝縮したマナを好きなだけ食べていたわけです」

「え、なにそれどゆこと?」

 あまりに突飛すぎて、ドラゴンジャーキーのくだりぐらいまでしか理解できない。
 ポカンとしている俺に、ソーニャは呆れたように首を振って、バッグから冒険者カードを取り出した。

「いいですか、よくご覧なさい。ノエルちゃん、ちょっと失礼しますよ」

 ソーニャがノエルの首のあたりに魔法でほんのちょびっとだけ傷をつけて、拭った血をカードに塗りつける。
 いきなりのことで慌てたが、ノエルは痛みをあまり感じていないようで安心する。

「動物は皮下組織が厚く、首元あたりは痛みを感じにくいのです。もう魔法で傷も閉じましたから、大丈夫ですよ」

 ソーニャはノエルの血を塗ったカードを俺に差し出した。
 俺はそこに書かれた文字を見て固まった。


【ノエル・アルディオン】
 HP:850 MP:1200 種族:神獣
 冒険者ランク:F  レベル:62 次レベルまでの経験値:32
 称号:竜王妃のペット、フェンリルの仔
 スキル: 剣0 槍0 弓0 体術6
 魔法:炎3 水0 風3 地2 身体強化4 咆哮3 



「なんっっっっっっじゃこりゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!」



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