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61.神様

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 楽しそうなちーちゃんを見て、僕は目から滝みたいに涙を流してた。
 よかったね、よかったねちーちゃん。やっとちーちゃんが幸せになってくれて、僕はほんとにうれしいんだ。
 だけど、ひとしきり泣いた後、結局僕はちーちゃんのためになんにもしてあげられなかったなって、しょんぼりした気持ちで膝を抱えた。

(僕、だめなこだ……)

 神さまなのに。神様に、ちーちゃんのための世界の神さまにしてもらったのに。
 全然役に立たないどころか、ちーちゃんを悲しませたり、迷惑かけることばっかりしちゃった。

 悲しくなって、僕はしくしく泣いた。
 僕はこの世界の神さまだから、この世界に存在する人とは直接関わっちゃだめだって、神様が言ってたんだ。
 でも、ちーちゃんが人生を全うしてこの世界から魂が離れる時なら、少しだけお話ししてもいいってお許しが出たの。
 だから、その時までにちーちゃんが喜ぶことたくさんしてあげて、会った時に『前世でたくさん優しくしてくれてありがとう』って言おうと思ってたんだよ。
 それなのに、こんなんじゃ全然だめ。僕が神さまだったって知ったら、ちーちゃんに嫌われちゃうかもしれない。

(こんなんじゃ、ちーちゃんに会えないよ)

 そう思ったら、もっともっと涙が溢れてきて、ぼくはオイオイ泣いた。悲しくて寂しくて悔しくて、止められないの。

「うわああああん、ああん、わああ――――ん」

 遂に大声を上げて泣き出すと、なんだなんだ、と上から声がした。

『どうした、そんなに泣いて』

 神様が話し掛けてくれたけど、僕は答える余裕もなくて、しゃくりあげながらぼたぼたと涙を流す。
 神様は多分溜息をついて、空間に箱庭の世界を映し出した。

『見ろ、お前が泣くから、世界はひどい大雨だぞ。このまま大雨が続けば、甚大な被害がでる』

 じんだいって何だかわからなかったけど、何となく僕のせいで迷惑がかかってるっていうのはわかった。
 きっと、ちーちゃんも困ってるに違いない。せっかくちーちゃんが幸せなのに、僕は邪魔しかできないんだ。

「う、うえええ―――ん、うええええ、わあああああ」

『うおっ、ますます勢いが強まった!待て待て!!!』

 神様は慌てて、声だけじゃなく映し身で僕のところに降りてきた。白いタオルみたいなので僕の涙と鼻水を拭ってくれるけど、僕の目からは次から次へと絶え間なく涙が溢れてきて、タオルまでグショグショになっちゃう。

「何をそんなに泣くことがある。お前の兄は幸せを掴み、お前の望みどおりになったじゃないか」

「ちがうもん。『僕が』ちーちゃんを幸せにしてあげたかったんだもん」

「どう違うんだ。過程はどうでもいいだろ」

「よくないのっ!だって、僕ちーちゃんのお荷物だもん。僕がいるから、ちーちゃんすっごく大変で、自分のことなんか後回しにしちゃって」

「そりゃしょうがねーだろうが。親がああなんだから。兄貴だって恨んでねえよ」
 
 そんなのわかってる。ちーちゃんは僕のこと怒ったりしない。ちーちゃんはやさしいから、辛くても疲れてても、全部飲み込んで笑ってくれるんだって。
 それがわかってて、僕はちーちゃんに甘えてた。自分でできるのに、構ってほしくってわざと出来ないふりしてたこともあった。ほんとは、僕がちーちゃんを助けてあげなきゃいけなかったのに。

「僕、悪い子だったから、ちーちゃんの役に立って、ごめんなさいって言わなきゃ駄目だったのにぃ。ちーちゃんありがとってい゛い゛だがっだの゛に゛ぃ゛ぃ゛~~」

「言えばいいだろ。そもそも兄貴の魂をこの世界に呼び寄せられたのはお前のお陰なんだから、それだけでいい子だって」

「ヤ゛ダ~~~!!!!!ちーちゃん、ちーちゃん~~~!!!!」

 僕は癇癪を起こして、神様に当たり散らした。
 神様はやれやれって困った顔になって、それがまた悲しくて僕は涙を流した。
 どうして僕は、こんな駄目な悪い子なんだろう。神さまなのに。

「しょうがねーな……もうお前、神さまクビだ」

「えっ」

 びっくりして、僕は神様をそんなに見上げた。ショックのあまり、涙も一瞬引っ込む。
 クビって、どうして?ううん、僕神さまらしいことなんにも出来ない役立たずだったから、クビにされてもしょうがないのかもしれないけど。
 でも、じゃあ僕、どうなるの?きえちゃうの?ちーちゃんに会えないの???

「う、うわああああ~~~ん、ヤダ~~!!!!ちーちゃん~~!!!神さまのバカぁあ~~!!!!」

「落ち着け!泣くな!」

「だって消えちゃうのヤダ~~!!!!」

 泣き続ける僕の鼻を、神さまはキュッと摘んだ。それから、初めて僕のことを抱っこしてくれた。

「お前みたいな子供が一人で世界を管理しようってのが、土台無理な話だったんだ。無茶振りして悪かったよ」

 よしよし、と頭を撫でられて、僕は神さまの胸に頭を預ける。
 怒ってないみたいなのは安心したけど、今後僕をどうするつもりなのかと思うと不安な気持ちになる。

「いいか?よく聞け。お前はこれから―――――――」



 僕は黙って神様の言うことをきいてた。
 そして、『わかったな』って言う神様の言葉に、こっくりと頷いたんだ。



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