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31.一難去って

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 マリク、マリク……。


 誰かが、僕を呼んでる。
 その声は複数で、近くからも遠くからも途切れずに聞こえてきた。
 男の声が多いけど、女性の声もある。これは、僕の家族の声?

「マリク――――!!!マリク!」

 声が間近になると、呼び声が急にリアルさを増して、僕はハッと意識を取り戻した。
 やばい、これ、現実じゃん!?

 ガバリと体を起こすと、まだ夜だった。暗闇に紛れて、ランプの光があちこちで輝いている。
 起きあけの頭じゃ何が起こっているのかすぐには理解できなかったけど、家族全員の自分を呼ぶ声があちこちで連呼されれば、流石に気付く。

(これは、もしかしなくても家族総出で捜索されている!?)

 ウィルフレッドを撒くことには成功したみたいだけど、かわりにそのまま寝てしまって、帰らない僕を家族が捜し始めてしまったのか。
 そういえば、酒場で捜索を家族に頼まれたとかなんとか言ってた。
 周囲ではなんだなんだと住民が起き始めて、捜索の手伝いを申し出始めてるっぽい。やばい、ここにいます!迷惑かけてすみません!

 僕は慌てて立ち上がり、家族の声のする方に走った。

「こ、ここにいるから~~~~!!!」

「う、うわっ!?なんだ!?」

 突然畑から飛び出してきた僕に、父さんは驚いて尻餅をついた。
 
「ご、ごめん。驚かしちゃって」
 
 慌てて助け起こすと、父さんは目を瞬かせて、僕だとわかるとほっと胸を撫で下ろした。

「なんだ、マリクか……!じゃない!今までどこに行ってたんだ!」

 父さんに叱られるのなんてほんとに久しぶりで、僕は肩を竦める。
 過去の記憶持ちの僕は、殆ど親に叱られることのない子供だったから、こういう感覚忘れてた。

「ご、ごめん!疲れて畑で寝ちゃって……」

「それだけじゃないだろう。酒場で酒を飲んで騒いでいたそうじゃないか。……いや、そんなことはどうでもいい!体は!?体は大丈夫なのか!?」

 父さんは慌てて僕の体をベタベタと触りはじめた。え、なんで体?
 大騒ぎしてる父さんの声に気付いて、周囲から家族が何だなんだと集まってくる。

「兄貴、見つかったのかよ!?」

「マリク、どこにいたの!?」

「にーちゃん怪我してねぇのかよ!?」

 みんなが僕が怪我してる前提で話してるのがよくわからず、僕は首を傾げた。
 一体なんでそういうことになってるわけ??

 頭にハテナを沢山飛ばしていると、要領を得ない反応に焦れて、ニコルが怒鳴った。

「兄貴、馬から落ちたんだろうが!!!!」

 そう言われてようやっと、僕は自分から馬を飛び降りたことを思いだした。もう痛みは治まってるし、元々ダメージはそこまで入ってなかったから、一眠りしてすっぽ抜けてた。
 そうだよね、チートアイテムなしだったら、馬から落ちるって前世で言う車にはねられるぐらいの事件だよ。
 まーくんが車にはねられた後行方不明って言われたら、僕だって同じ反応になってたに違いない。

「だ、大丈夫。落ちたの、草の上だったし」

「ウソつけ。思いっきり地面に落ちたって聞いたぞ」

「兄貴はすぐ強がるからな!おいサントス、そっち押さえてろ」

「おうよ」

「えっ!?ちょっ、なになに!?待ってなにする気???」

 いきなり野外で服を剥がれそうになって、僕は飛び上がる。家族だけならともかく、周りには善意の第三者さんたちが沢山いるんだよ!
 こんな野外で肌を晒すなんて、いくら男でも勘弁してほしい。

 僕が家族と揉めていると、馬の駆ける音が聞こえてきた。すぐ傍で馬を止めて、凄い勢いで駆けてくる人影がある。
 心当たりなんか、一人しかなかった。
 多分、僕を見失った後、ウィルフレッドは僕の家族のところに行ったに違いない。
 そして、何があったかを説明して捜索の協力を申し出たってところだろう。

 駆けてきたウィルフレッドは、僕の両肩をがっしりと掴む。その額は汗が滴っていて、今の今まで必死で探してくれていたのがわかる。

「君は!なんて無茶をする!!!!!」

 すごい声で怒鳴られて、耳が痛くなる。元はと言えばあなたがいやらしいことなんかするからでしょと思ったけど、ウィルフレッドの目は僕の身を真剣に心配してくれてたことがわかったから、この場で言い返す気にはならなかった。

「まさか、ずっと探してたんですか?」

「当たり前だろう!!!馬から落ちてどんな怪我をしたかもわからないのに、放って置くなんて出来るはずがない。君を見失ったときは、何処かで倒れてしまったのかと―――――」

 ウィルフレッドはそう言い募って、酷く辛そうな顔になった。
 あの時はこれしかないと思って飛び降りたし、結果オーライと思ったけど、色んな人に心配かけるとこまでは想像してなかったな。
 原因を作ったのがウィルフレッドでも、推しの辛い顔は見たくないんだよね。

「すみません、心配させてしまって。でも、僕は自分の意志を無視して誰かの思い通りにされることだけは我慢ならないんです。だから、もうああいうのはやめて下さい」

 ウィルフレッドは、僕を見つめて頷く。

「悪かった。もう強引な手で攻めるのはやめる。約束しよう。だから、君も無茶な真似はしないと約束してくれ」




 
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