16 / 64
16.現実はうまくいかない
しおりを挟む
「えーと。それはですね」
僕個人としてはめちゃくちゃ楽しそうだと思うんだけど、これ乗っちゃっていいのかな。
芸術家として成功するのもひとつの選択肢といっちゃ選択肢だけど、芸能活動を始めたが最後、もう王妃にはなれないと思う。仮にも王室の一員になろうっていうなら、俗っぽい世界に足を踏み入れるの思わしくない。
そうなったら、正妃への道は閉ざされ、よくて第三王妃か側室ってとこだろうなぁ。
確かに僕がアーネストルートを選んだ一番の理由は金のためだったけど、それだけってわけでもない。
マリクに選ばれなかった場合、アーネストは人の心を理解しないハートレスロボのままで、そんなハートレスロボがいずれは国王になっちゃうってことなんだよ。周りの状況によっては、恐らくこの国は大変なことになる。
もし戦争にでもなったら、騎士団長になるウィルフレッドの命も危ないし、ウチの領地や家族もどうなるか。うーん、トータルで考えるとマイナスっぽい。
でも、一応ウィルフレッドには王妃になる気はないですよって体にしてるから、断る理由もないのが困る。普通にいい話だもん。
それに、ウィルフレッドが後援してくれるってことは、当然上流貴族のサロンに出入りが許されるようになると思う。
大人気声優の声と主人公チートの歌唱力と前世チートの流行曲があれば、間違いなく人気は保証されてるんだけど……。
「えっと、考えさせてください」
僕の結論。モラトリアム。問題の先送り。
アーネストルートの断罪イベントまでは、あと2ヶ月ぐらいだもん。そこまで行けば、ウィルフレッドも断罪されたレニオールが心配でそれどころじゃなくなるはず。
っていうか、愛するレニオールからアーネストを奪った僕は今度こそ恨まれて、パトロンになろうなんて話自体が立ち消えるよね、うん。
「何故だ。君の歌は素晴らしい。絶対に人気になるし、生活も楽になる」
「ありがとうございます。でも、僕は奨学金で学園に通っているので、勉強しないと。家族が助かるのはありがたいですけど、それで卒業できなくなったらみんなが悲しみます。だから、もし僕が卒業して仕事も決まっていなくて、ウィルフレッド様の気も変わっていなかったらその時にはお願いしたいです」
「そうか……。そうだな、学生の本分は勉学だ。君はよく頑張っているものな」
ウィルフレッドがめちゃくちゃ優しい顔で笑う。やばい、すっごいイイ。推しが尊すぎる。
今の僕の回答はウィルフレッドの真面目な性格的に選択肢大正解だもん。これは好感度上げちゃったよ。
うう、嬉しいけどやばい!
しかも僕って普段めちゃくちゃ頑張ってる割にあんまり褒められない長男気質だから、包容力のある年上に褒められるのに弱いんだよ。アーネストは包容力っていうより、自分がなんとかしてあげないとこの人ダメになる……ってタイプだから。そういうキャラって他のキャラ攻略してる時も『スマン……(涙)』っていう謎の罪悪感あるよね。
「しかし、それなら尚更のこと、酒場で働いている場合ではあるまい」
「あれは、息抜きみたいなものなので。働くのは好きですし、歌えるし、休みの日だけですから。本当に余裕がない時はお休みさせてもらってます」
「そうか……。なら、君は私専属になるというのはどうだ?」
「は?」
なんて?専属?ウィルフレッド正気かな?
「サロンへのデビューは色々と支度もあるし時間が足りないだろうが、私の前で歌うだけなら特別な準備は何もないだろう?私は君に聞かせてもらった歌の中で、貴族受けの良いものを選んでリストを作ろう。勿論、君の都合のいい時間にで構わないし、そのたびに対価を支払う。アルバイトのようなものだ」
「え、えっと、それは、えーと」
ウィルフレッドがグイグイくる。ちょっと待ってよ。僕にはアーネストを攻略する時間が必要なんだよ。
でも、お金が必要なのも事実。やめて、僕はお金とウィルフレッドには弱いの。
(いやいやいや!押し切られちゃダメだから!ここは心を鬼にして、キッパリと手酷い言葉で拒絶して好感度を下げ)
「歌ってほしい、私のために」
「ハイ♡♡♡」
あーーーーーーーーーー!!!!
やってしまった!僕のバカァ!
だってだって顔が、推しが、僕の手を握ってウヴァァ!!『歌ってほしい、私のために』って、ぐわああああ!!破壊力すごいよお!あんなの、ハイって言うしかないよおおお!わかるでしょ⁉︎わかるよね⁉︎
かくして、僕はウィルフレッド専属歌い手にジョブチェンジしてしまった。
完全な股がけ。だ、大丈夫かな、これ。
現実はゲームと違って一筋縄ではいかないことを噛み締めつつ、僕は一人で地べたに蹲って床を拳で叩き続けた。
僕個人としてはめちゃくちゃ楽しそうだと思うんだけど、これ乗っちゃっていいのかな。
芸術家として成功するのもひとつの選択肢といっちゃ選択肢だけど、芸能活動を始めたが最後、もう王妃にはなれないと思う。仮にも王室の一員になろうっていうなら、俗っぽい世界に足を踏み入れるの思わしくない。
そうなったら、正妃への道は閉ざされ、よくて第三王妃か側室ってとこだろうなぁ。
確かに僕がアーネストルートを選んだ一番の理由は金のためだったけど、それだけってわけでもない。
マリクに選ばれなかった場合、アーネストは人の心を理解しないハートレスロボのままで、そんなハートレスロボがいずれは国王になっちゃうってことなんだよ。周りの状況によっては、恐らくこの国は大変なことになる。
もし戦争にでもなったら、騎士団長になるウィルフレッドの命も危ないし、ウチの領地や家族もどうなるか。うーん、トータルで考えるとマイナスっぽい。
でも、一応ウィルフレッドには王妃になる気はないですよって体にしてるから、断る理由もないのが困る。普通にいい話だもん。
それに、ウィルフレッドが後援してくれるってことは、当然上流貴族のサロンに出入りが許されるようになると思う。
大人気声優の声と主人公チートの歌唱力と前世チートの流行曲があれば、間違いなく人気は保証されてるんだけど……。
「えっと、考えさせてください」
僕の結論。モラトリアム。問題の先送り。
アーネストルートの断罪イベントまでは、あと2ヶ月ぐらいだもん。そこまで行けば、ウィルフレッドも断罪されたレニオールが心配でそれどころじゃなくなるはず。
っていうか、愛するレニオールからアーネストを奪った僕は今度こそ恨まれて、パトロンになろうなんて話自体が立ち消えるよね、うん。
「何故だ。君の歌は素晴らしい。絶対に人気になるし、生活も楽になる」
「ありがとうございます。でも、僕は奨学金で学園に通っているので、勉強しないと。家族が助かるのはありがたいですけど、それで卒業できなくなったらみんなが悲しみます。だから、もし僕が卒業して仕事も決まっていなくて、ウィルフレッド様の気も変わっていなかったらその時にはお願いしたいです」
「そうか……。そうだな、学生の本分は勉学だ。君はよく頑張っているものな」
ウィルフレッドがめちゃくちゃ優しい顔で笑う。やばい、すっごいイイ。推しが尊すぎる。
今の僕の回答はウィルフレッドの真面目な性格的に選択肢大正解だもん。これは好感度上げちゃったよ。
うう、嬉しいけどやばい!
しかも僕って普段めちゃくちゃ頑張ってる割にあんまり褒められない長男気質だから、包容力のある年上に褒められるのに弱いんだよ。アーネストは包容力っていうより、自分がなんとかしてあげないとこの人ダメになる……ってタイプだから。そういうキャラって他のキャラ攻略してる時も『スマン……(涙)』っていう謎の罪悪感あるよね。
「しかし、それなら尚更のこと、酒場で働いている場合ではあるまい」
「あれは、息抜きみたいなものなので。働くのは好きですし、歌えるし、休みの日だけですから。本当に余裕がない時はお休みさせてもらってます」
「そうか……。なら、君は私専属になるというのはどうだ?」
「は?」
なんて?専属?ウィルフレッド正気かな?
「サロンへのデビューは色々と支度もあるし時間が足りないだろうが、私の前で歌うだけなら特別な準備は何もないだろう?私は君に聞かせてもらった歌の中で、貴族受けの良いものを選んでリストを作ろう。勿論、君の都合のいい時間にで構わないし、そのたびに対価を支払う。アルバイトのようなものだ」
「え、えっと、それは、えーと」
ウィルフレッドがグイグイくる。ちょっと待ってよ。僕にはアーネストを攻略する時間が必要なんだよ。
でも、お金が必要なのも事実。やめて、僕はお金とウィルフレッドには弱いの。
(いやいやいや!押し切られちゃダメだから!ここは心を鬼にして、キッパリと手酷い言葉で拒絶して好感度を下げ)
「歌ってほしい、私のために」
「ハイ♡♡♡」
あーーーーーーーーーー!!!!
やってしまった!僕のバカァ!
だってだって顔が、推しが、僕の手を握ってウヴァァ!!『歌ってほしい、私のために』って、ぐわああああ!!破壊力すごいよお!あんなの、ハイって言うしかないよおおお!わかるでしょ⁉︎わかるよね⁉︎
かくして、僕はウィルフレッド専属歌い手にジョブチェンジしてしまった。
完全な股がけ。だ、大丈夫かな、これ。
現実はゲームと違って一筋縄ではいかないことを噛み締めつつ、僕は一人で地べたに蹲って床を拳で叩き続けた。
30
お気に入りに追加
1,638
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました
白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。
攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。
なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!?
ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜
ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。
短編用に登場人物紹介を追加します。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
あらすじ
前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。
20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。
そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。
普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。
そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか??
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。
前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。
文章能力が低いので読みにくかったらすみません。
※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました!
本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる