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7.旅は道連れ
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翌朝、王子は俺の馬車に乗り込み、護衛の皆さんを残して、王宮の馬車は帰らせる運びとなった。
王宮の馬車はやっぱり他国じゃ目立つし、かえって危ない。その点、公爵家の馬車はこのあたりでも知られてて馴染みがいいし、元王女だったおばあさまも庶民派で人気もあるから何かと安心だ。
ほんっっっとうに不本意だけど、仕方ないからな!
執拗に隣に座りたがるアーネストとの攻防は一応俺が制して何とか向かい側の席に追いやることに成功したわけだけど、ずーっとガン見してくる視線を真正面から受け続けなきゃいけないの、これはこれできつい。
しかし、身を守る為には絶対に隣に座らせてはいけないと俺の第六感が警鐘を鳴らしまくってるから、逆らうわけにはいかないのだ。ひたすらに本に目を落とし、意識から遮断をはかる。
「いい天気だよ、レニ。綺麗な花が咲いてる」
俺のそんな苦労を知ってか知らずが、キレそうなほどウキウキとアーネストが声を掛けてくる。
俺だって外の景色を楽しみたいが、お前はヤなんだよ。どうしてそこを酌んでくれないかな。
「もう少し行ったところに、川沿いの町があるんだ。簡易だけど運河もあって、舟に乗ることもできるよ。底に着く頃には昼近くなるから、そこで美味しいものを食べよう」
それは俺にとっても魅力的な提案だった。俺は舟も魚も好きで、ちょうど馬車に閉じこもる移動に飽きが来ている。
陽気も良くて暑いぐらいだし、舟はきっと気持ちがいいに違いない。
「……半径60センチ以内には近寄らないで、絶対に私に触らないと誓ってくれるなら、いいですけど」
「60センチかあ。なかなかシビアな条件だけど、舟の大きさと状況が許す限り善処すると約束するよ」
疑わしくはあったが、一応言質は取ったしと自分を納得させ、俺は舟遊びと美味しい昼食に思いを馳せながらニコニコと窓の外を眺めた。
「レニたんのご機嫌笑顔、マジカワユす……死ねる」
向かいでまたアホが何かブツブツ言っていた気がするけれど、そこは完無視しましたよ。
************
太陽がますます光を強めてきた頃、馬車はタナティアという小さな町に到着した。
小さな、とは言っても、普通の村なんかと比べればお店の数は段違いだし、辿れば王都の運河まで繋がっているだけあって、物流が盛んでなかなかに栄えている。
そこそこに有名な名所ではあるのだが、俺は初めて訪問する。陸路のほうに懇意にしている親戚がいるから、普段はどうしてもそっち優先になっちゃうんだよな。
「すごい。何だか目移りしちゃいますね」
自慢じゃないが、俺はかなりの箱入りで、殆ど自分の脚で街を歩いたりしたことがない。そう言うと聞こえはいいけど、実のところは王妃教育が死ぬほど忙しくって、そんな暇ナッシングだっただけだ。つまり、コイツのせい。
「そうだね、レニ。はぐれると大変だから手を繋ごうか?」
「オコトワリシマス」
さりげなく距離を詰めるな!油断も隙もない。
俺は華麗に身を躱すと、半径60センチのパーソナルスペースを確保すべくアーネストから距離を取る。
「レニ!」
いきなりアーネストが俺の名前を呼んで、俺の腕を思い切り引っ張った。引き寄せられた俺は、勢いに負けてアーネストの胸に抱きこまれるみたいにすっぽり収まる。
「うわっ、なにす……っ」
抗議の声をあげようとすると、背後を4頭立てのデカい馬車が、もの凄い勢いで駆け抜けて行った。馬車が切った風が背中に当たり、その距離の近さをありありと伝えてくる。
ちょっとでも馬車にかすったら、跳ね飛ばされて体を持って行かれちゃったんじゃないだろうか。そう思うとゾッとする。
「危ないから、気を付けて。レニ」
「は、はい……」
これって、俺を助けてくれたんだよな?アーネストが俺を助けてくれるなんて、初めてのことだ。
いや、今更別に守ってくれなくてもいいんだが、それでも危なかったのは事実なので、無碍にすることもできない。ちょっとうれしい……なんて思うのは、気の迷いだ。きっと。
「……アーネスト様、もう、いいのではありませんか?」
いつまでも俺を抱き込んで離さないアーネストに、俺は抗議の声をあげる。
「もう?残念」
アーネストそう言ってちょっぴり口を尖らせる。まただ。見たことない顔。
そういうの、マジやめろって。今更俺の燻った気持ちを起こそうとするな。全部消すのに、10年かかったのに。
「でも、お腹すいたね。そろそろ行こう」
俺を腕の中から解放したアーネストは、俺の手を引きながらそう言って先を進む。
手を繋ぐなんてルール違反だと思ったが、振り払うつもりにはなれなかった。
(やばい。俺、ほんとにチョロ過ぎるんじゃね?)
流されてはいけない、と自分を叱咤して足を止めた俺に、アーネストが振り返る。
どうしたの?って言うみたいに小さく首を傾げて笑みを見せる姿に、思わず頬が熱くなった。
「……なんでもない、デス」
答えると、アーネストがニッコリする。
これは、あくまでも迷子防止、事故防止、自分の安全のためだから!と自分に言い聞かせ、俺は再び歩を進めた。
王宮の馬車はやっぱり他国じゃ目立つし、かえって危ない。その点、公爵家の馬車はこのあたりでも知られてて馴染みがいいし、元王女だったおばあさまも庶民派で人気もあるから何かと安心だ。
ほんっっっとうに不本意だけど、仕方ないからな!
執拗に隣に座りたがるアーネストとの攻防は一応俺が制して何とか向かい側の席に追いやることに成功したわけだけど、ずーっとガン見してくる視線を真正面から受け続けなきゃいけないの、これはこれできつい。
しかし、身を守る為には絶対に隣に座らせてはいけないと俺の第六感が警鐘を鳴らしまくってるから、逆らうわけにはいかないのだ。ひたすらに本に目を落とし、意識から遮断をはかる。
「いい天気だよ、レニ。綺麗な花が咲いてる」
俺のそんな苦労を知ってか知らずが、キレそうなほどウキウキとアーネストが声を掛けてくる。
俺だって外の景色を楽しみたいが、お前はヤなんだよ。どうしてそこを酌んでくれないかな。
「もう少し行ったところに、川沿いの町があるんだ。簡易だけど運河もあって、舟に乗ることもできるよ。底に着く頃には昼近くなるから、そこで美味しいものを食べよう」
それは俺にとっても魅力的な提案だった。俺は舟も魚も好きで、ちょうど馬車に閉じこもる移動に飽きが来ている。
陽気も良くて暑いぐらいだし、舟はきっと気持ちがいいに違いない。
「……半径60センチ以内には近寄らないで、絶対に私に触らないと誓ってくれるなら、いいですけど」
「60センチかあ。なかなかシビアな条件だけど、舟の大きさと状況が許す限り善処すると約束するよ」
疑わしくはあったが、一応言質は取ったしと自分を納得させ、俺は舟遊びと美味しい昼食に思いを馳せながらニコニコと窓の外を眺めた。
「レニたんのご機嫌笑顔、マジカワユす……死ねる」
向かいでまたアホが何かブツブツ言っていた気がするけれど、そこは完無視しましたよ。
************
太陽がますます光を強めてきた頃、馬車はタナティアという小さな町に到着した。
小さな、とは言っても、普通の村なんかと比べればお店の数は段違いだし、辿れば王都の運河まで繋がっているだけあって、物流が盛んでなかなかに栄えている。
そこそこに有名な名所ではあるのだが、俺は初めて訪問する。陸路のほうに懇意にしている親戚がいるから、普段はどうしてもそっち優先になっちゃうんだよな。
「すごい。何だか目移りしちゃいますね」
自慢じゃないが、俺はかなりの箱入りで、殆ど自分の脚で街を歩いたりしたことがない。そう言うと聞こえはいいけど、実のところは王妃教育が死ぬほど忙しくって、そんな暇ナッシングだっただけだ。つまり、コイツのせい。
「そうだね、レニ。はぐれると大変だから手を繋ごうか?」
「オコトワリシマス」
さりげなく距離を詰めるな!油断も隙もない。
俺は華麗に身を躱すと、半径60センチのパーソナルスペースを確保すべくアーネストから距離を取る。
「レニ!」
いきなりアーネストが俺の名前を呼んで、俺の腕を思い切り引っ張った。引き寄せられた俺は、勢いに負けてアーネストの胸に抱きこまれるみたいにすっぽり収まる。
「うわっ、なにす……っ」
抗議の声をあげようとすると、背後を4頭立てのデカい馬車が、もの凄い勢いで駆け抜けて行った。馬車が切った風が背中に当たり、その距離の近さをありありと伝えてくる。
ちょっとでも馬車にかすったら、跳ね飛ばされて体を持って行かれちゃったんじゃないだろうか。そう思うとゾッとする。
「危ないから、気を付けて。レニ」
「は、はい……」
これって、俺を助けてくれたんだよな?アーネストが俺を助けてくれるなんて、初めてのことだ。
いや、今更別に守ってくれなくてもいいんだが、それでも危なかったのは事実なので、無碍にすることもできない。ちょっとうれしい……なんて思うのは、気の迷いだ。きっと。
「……アーネスト様、もう、いいのではありませんか?」
いつまでも俺を抱き込んで離さないアーネストに、俺は抗議の声をあげる。
「もう?残念」
アーネストそう言ってちょっぴり口を尖らせる。まただ。見たことない顔。
そういうの、マジやめろって。今更俺の燻った気持ちを起こそうとするな。全部消すのに、10年かかったのに。
「でも、お腹すいたね。そろそろ行こう」
俺を腕の中から解放したアーネストは、俺の手を引きながらそう言って先を進む。
手を繋ぐなんてルール違反だと思ったが、振り払うつもりにはなれなかった。
(やばい。俺、ほんとにチョロ過ぎるんじゃね?)
流されてはいけない、と自分を叱咤して足を止めた俺に、アーネストが振り返る。
どうしたの?って言うみたいに小さく首を傾げて笑みを見せる姿に、思わず頬が熱くなった。
「……なんでもない、デス」
答えると、アーネストがニッコリする。
これは、あくまでも迷子防止、事故防止、自分の安全のためだから!と自分に言い聞かせ、俺は再び歩を進めた。
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