ミルクはお好きですか?

リツカ

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33.傍にいたい

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「カルナ、愛してる。一緒に幸せになろう」

 酸欠気味のカルナが呼吸を整えていると、甘い声でシュラトがそう囁いた。
 カルナは戸惑いながら、シュラトの顔を見つめ返す。

「おれは……」
「はい以外の返事は聞きたくない」
「……シュラト様は少し強引すぎますよ」

 ──それに、わざとじゃないとは思うけど、獣耳を出してるのも少しあざとい……

 そんなことを考えながらカルナがむくれていると、何がおかしいのかシュラトはクスクスと小さな笑い声を立てた。

「カルナが素直じゃないからだ」
「俺はシュラト様のことを考えて……」
「ああ、わかってる。カルナは俺よりもずっと色々なことを考えていたんだな。正直、少し意外だった」
「……面倒くさいやつだって思いましたか?」
「まさか。ますます好きになった。あなたが俺を本当に愛してくれているんだってわかって嬉しいよ」

 シュラトは心から幸せそうに微笑んで、再びカルナにそっとキスをした。お伽話に出てくるような、優しくて穏やかなキスだった。


 本当に愛している。愛しているからこそ、離れなければとカルナは思った。
 けれど、この幸福に満ちたシュラトの顔を見ていると、それが本当に正しいことなのか段々わからなくなってくる。

 シュラトを不幸にしてしまうのが怖い。
 しかし、そんな不幸なんて本当に訪れるのだろうか。
 こうやって抱き合っているだけでシュラトはこんなにも幸せそうで、カルナも泣きそうなくらい幸せなのに──


「ほんとうに……」
「ん?」
「……本当に、俺が傍にいるだけでシュラト様は幸せになれますか……?」
「なれるよ」

 迷いのない即答だった。
 カルナはおずおずとシュラトの瞳を見つめる。
 美しい深緑の瞳が、ただカルナだけを映して微笑んでいた。

「俺を幸せにしてくれる気になったのか?」
「……俺は……シュラト様を幸せにできる自信はないです……だけど、それでも傍にいてもいいのなら……」
「結婚してくれる?」

 考えるように少しだけ黙ったあと、カルナは顔を赤らめてこくんとひとつ頷いた。

 どうでもよくなったわけでも、シュラトの言葉に流されたわけでもない。
 ただ、シュラトの言葉を聞いて、カルナ自身がそうしたいと思い直したのだ。

 カルナが頷いた瞬間、シュラトの顔に満面の笑みが浮かぶ。普段のクールな顔からは想像もつかない、子どもみたいな笑顔だった。

「ありがとう、カルナ。愛してる。世界一幸せにする」
「俺もシュラト様のことを愛しています」

 幸せにできるかはわからないけど……と続く言葉はシュラトに唇ごと奪われた。
 差し込まれた舌に、今度はカルナの方からおそるおそると舌を絡ませる。ゆっくりと目を閉じながら舌を吸い合うと、気持ちよくて、幸せで、たまらなかった。

 あれほど悩み、苦しんでいたのが嘘だったかのように、カルナは幸福で満たされていた。
 ……いや、本当はまだ少し怖い。
 けれど、シュラトを幸せにできるのが本当にカルナだけなら、シュラトがそう言ってくれるのなら、カルナはシュラトの傍にいたい。

 カルナがシュラトに与えられるものなど何もないが、シュラトへの愛だけなら有り余るほど持っているから。
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